「The Sentry」報告書 総括部分(4)

2016.10.11


 「The Sentry」報告書の総括部分の日本語訳の第4回目です。今回紹介するのは「南スーダンの汚職を矢面に置く」で、55~57ページです。(報告書の原文はこちら

4.南スーダンの汚職を矢面に置く

 南スーダン国民を助けることを目的とする国際的な努力は、多くの南スーダンの国家機関それ自体と同じく、ジュバで権力の座にある当局者の排他的集団によって奪われ、彼ら自身の狭い政治的、経済的な関心を果たすために流用されました。南スーダンで国際的な活動すべては先回りして、汚職に敏感でなければなりません。これは、例外なく、南スーダンでのすべての国際的戦略は、開発支援から、人道支援、商業ベンチャーから外交的な従事、平和維持と治安部門の改善まで、これらの努力が金銭ずくの政治家と兵士たちに乗っ取られるのを防ぐために、長々と続けなければならないことを意味します。簡単にいえば、もし汚職が南スーダンでの紛争と苦しみの主要な促進剤であると、あまりにも広範に認められれるなら、汚職対策の目的は、計画、実行、評価のコンセプトから、この国で着手される新しい政策すべての中で矢面にならなければなりません。南スーダンで従事する外国の援助資金供与者、国際機関は、先回りして、強力な公共部門施設の開発、政府と企業の透明性を促進するために活動し、泥棒政治家によって不当に活用される抜け道を閉じ、重要な監視機能を果たすために市民社会と報道記者のための場所を保護することを優先しなければなりません。

 監視と説明責任のメカニズムの開発を支援していください。南スーダンの公共部門監視機関は、汚職に対処し、より強い透明性と説明責任を促進することに関与する主要な存在でなければなりません。南スーダンで制度構築を目的とする国際的な努力は、能力を強化し、司法の高潔さと監視機関の管理を保護することを優先させなければなりません。優先機関は南スーダンの裁判所、特に2015年8月の和平合意で設立された南スーダン・ハイブリッド法廷、国家会計検査院、汚職対策委員会、国家立法議会の公共会計委員会を含みます。経済犯罪を調査・起訴し、資産追跡と回収を続ける努力において、地元の活動当事者を支援できる、技術的な専門知識で政治的な影響力に対向すること、南スーダンのハイブリッド法廷を支援することは重要です。これらの機関を故意に破壊したことがわかった個人すべては「民主主義の制度を蝕んだ」とみなされ、それ故に制裁の下に置かれることが検討されなけばなりません。

 南スーダンのPEPの親族は資産の申告を義務づけられなければなりません。セントリーはキール大統領の子供たちが十代の間に銀行と持株会社の株式を持ついくつかの事例を見出しました。これは南スーダン当局者が彼らの子供を事業利益を代理させるために用いているのではないかという深刻な疑問を起こします。その結果、南スーダンはPEP親族すべてに彼らの資産とビジネス企業すべてを開示することを義務づけるべきです。

 南スーダンは国内で設立されたすべての企業体の検索可能な公共登録を作らなければなりません。南スーダン高官と彼らの親族が商業ベンチャー多数の株式を保有していることを示す、セントリーが評価した企業記録の多くは、実質的に市民が利用できません。ジャーナリスト、活動家も汚職対策調査員のいずれも、そうした情報に簡単にアクセスできません。これは現実であってはなりません。南スーダンは、各企業が提供する、氏名、生年月日、営業所の住所、識別番号を含む企業の本当の所有者に関する基本的情報を含む特定の企業記録を検索可能な企業登録を確立すべきです。これらの記録は非常に安価でアクセスできなければなりません。これらの記録は、非常に安いコストでアクセスできなければなりません。

 財務管理システムは、暴力的な泥棒政治家たちが国家機関を乗っ取り、公共の資源を略奪することを防ぐために導入されなければなりません。場合によっては、公共の資源を管理し、汚職と戦う司法と組織の枠組みはすでに、少なくとも理論的には国際的な最良の慣行を上回ります。その上、2015年8月の和平合意は、歳入収集、予算、歳出配分の監視メカニズムと、政府が地域・国際社会から技術的・助言的な支持を受けることを必要とする、南スーダン指導者に原則として受け入れられた付託を含みます。しかし、南スーダンでは、権力の行き過ぎをチェックし、均衡をとる機関の多くはそれ自体が乗っ取られたか、取り込まれたか、無視されるか、さもなければ付託を果たすことを妨害されました。南スーダンの指導者たちは口では監視の必要性を言いましたが、公共機関は法の統治と社会サービスを守ることを支援する存在から、まったく反対のことをする略奪する存在へと変えられました。政府が健全な財政管理の慣行を実行できなかったことは明白です。能力向上だけでは、この問題を解決しません。そして、他のどの技術的な解決もです。しかし、南スーダン指導者が外部の財政援助を表明する必要性を考えると、国際的な援助資金供与者は、資金の使用について、ずっと強い監視と説明責任を迫る機会があるかもしれません。公共支出を評価・チェックすることを意図した重要な監視機構の高潔さと能力を高めるために、南スーダンで従事する資金供与者と国際機関は、財務管理メカニズムを確立するために南スーダンの市民社会を共に活動すべきです。このための一つのモデルは、内戦の後に2006年から2010年にリベリアで用いられた統治・経済管理支援プログラム(GEMAP)であるかもしれません。このプログラムは、主要な省と国有企業に組み込まれた国際的なアドバイザーを必要とします。これらのアドバイザーは契約、天然資源の許可、その他の主要な支出すべての配分に関して連署する権限を持ちます。プログラムは強力な能力増強要素を持っていますが、国家の歳入が直接的に重要な基本サービスに支払われ、資金供与者に提供された資金の国際的な会計監査の規定を確実にすることも助けます。南スーダンで公共支出外部監査の特定のメカニズムを決定することは、主権侵害に関する懸念に対向するために、譲歩と強調した外交的従事を必要としますが、こうした譲歩は国の財政的な高潔さを守るために決定されなければなりません。
こうした取り決めがなければ、アメリカとその他の国際的な資金供与者は、ドル建ての支援と能力増強の支援が泥棒政治家のシステムがその場にあることを支援するために乗っ取られ、流用されると予想しなければなりません。

 政府の契約と天然資源の権利の配分を過去に遡って評価します。南スーダンの略奪と大量の残虐行為に責任がある者たちは大部分が成功してきましたが、彼らの国家経済掌握は彼らに敵対者を狙うことができる運動費を作り、私的な民兵に資金を提供することも許します。これらの泥棒政治家たちが溜め込んだ資金の大半は、石油、鉱山、外国為替、銀行分野と共に、政府との食糧入手と国防の補給契約から来ているようにみえます。これらの分野は過去に遡った評価と広範な会計検査を受けなければなりません。不正な利益を確保するために権力を乱用したことが分かった企業と個人は、政府の契約と天然資源の利権を失い、厳しい罰を科せられなければなりません。南スーダンの国家会計検査院には有能で献身的な議長と職員がいますが、同院の付託を超えて拡大した広範囲の会計検査は、評価のプロセス自体が政治目的のために乗っ取られ、操られないことをさらに確実にするのを助けるために、公正な外部の当事者との関係から利益を受けられます。

 監視機関として活動するために市民社会の場所を作り、保護します。南スーダンの市民社会は、行動について責任がある国内の当事者を制すし、戦略についての公共の懸念を言葉に発し、増幅する上で重要な役割を果たすために権限を与えられなければなりません。彼らは南スーダンで説明責任の基盤の前進を提供します。しかし、ジャーナリストと活動家は一貫した妨害、脅迫そして暴力にさらされ、仕事を効果的に行うことを妨げられています。南スーダンで説明責任を強化することは最終的に、汚職とその他の虐待を監視する市民社会組織とメディアのために強力な法的保護を堅固な実行を必要とします。南スーダンは国の市民社会が資金と機会を築くパートナーシップの能力から利益を受けることを可能にするために、世界銀行の「社会説明責任のための国際パートナーシップ」に加わらなければなりません。


これまでに訳した報告書の目次は以下のとおり。

 概説
 南スーダン内戦
 キール大統領(1)
 キール大統領(2)
 キール大統領(3)
 レイク・マシャル
 ポール・マロン・アワン大将(1)
 ポール・マロン・アワン大将(2)
 マレク・ルベン・リアク中将
 総括(1)
 総括(2)
 総括(3)

 ようやく、すべての部分(謝辞や巻末註などは除いた本文のみですが)を日本語で紹介できました。

 文中のリンクは私が探して設定したものです。

 こうしたイニシアチブを構想し、実行できないのが現代日本の最大の汚点だといえます。

 実は、この報告書を読みながら、文中に登場する泥棒政治家は現在の与党そのものではないかと思わざるを得ませんでした。東京オリンピックのインフラ建設に関する問題、築地市場の豊洲移転問題にしても、巨大プロジェクトに政府、財界がガッチリと食い込んでいることが明らかです。官界はその擁護者であり、暴力こそ用いられないものの、構造は似ています。

 従って、南スーダンの汚職追放のようなイニシアチブを、日本政府が構想できないのは無理もないことです。

 要するに、日本と南スーダンの指導者が考えることは同じなのです。たとえ、汚職であろうと、そのおかげで国民は職を得て、収入を得ている。我々がやっているのは社会のためになっているのだと。

 今回紹介した部分では、南スーダンでの汚職を実質的に不可能にすることを説いており、キール大統領はこれを受け入れるくらいなら戦争を決断するかも知れないといえるほど重大です。溜め込んだ財産をほとんど失いかねない話ですから。

 そこで、日本人は自衛隊を送り、武力による貢献をすることで、本来やるべきことから目を逸らし、それを代償として満足しようとしているのです。自衛隊のPKO参加に関する議論が薄っぺらく、緻密さを欠いているように感じられるのはこのためでしょう。

 我々は自らの怠慢で、自衛官を危険にさらしています。自衛隊自身もそれで自分を納得させようとしています。

 こうした自らを誤魔化すやり方が、さらに問題を引き起こすことは論を待ちません。2003年のイラク侵攻が戦略目的に合致しないのに実行され、問題を余計に大きくしたことで明白です。



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