「The Sentry」報告書 総括部分(2)

2016.10.9


 「The Sentry」報告書の総括部分の日本語訳の第2回目です。今回紹介するのは「マネーロンダリング防止措置」で、51~54ページです。(報告書の原文はこちら

2.マネーロンダリング防止措置

 金はこの報告書で示した南スーダンのネットワークの中心にあり、多くの場合で、金は不正なものであるようにみえます。この報告書で概説した者たちの公式な給料は40,000から60,000ドルに及ぶ年俸です。南スーダンの法律はこれらのレベルの当局者にその他の源泉から収入を得ることを制限し、それは彼らの富の源泉に関する重大な疑問を起こします。不可解な富だけで、多くの場合で、潜在的な汚職とマネーロンダリング活動を調査するための合理的な基盤を当局が得るに十分です。この報告書が示すとおり、高級車、プライベートジェットと商用ファーストクラスでの旅行、ナイロビ・カンパラ・メルボルンの百万ドルの屋敷を含め、蓄積された多大な不可解な富を持つ南スーダン政府と軍当局者の数多くの実例があるようにみえます。一部の事例では、これらの資産は汚職の収益を表す可能性があります。

 要するに、マネーロンダリングは犯罪への関与を通じて得られた富を合法化する努力であり、しばしば「前提犯罪」として知られます。詐欺、窃盗、贈収賄、汚職に関連したその他の行為は、ほとんどの司法権の下で前提犯罪となるとみなされ、金融活動作業部会(FATF)とエグモントグループと呼ばれるマネーロンダリングと戦うために設立された国際社会の主要機関はそれぞれ、マネーロンダリングが起きる方法、汚職の発生と関係する時について研究する活動をしています。FATFによれば、

汚職とマネーロンダリングは本質的につながっています。贈収賄や公的資金の窃盗のような汚職罪は、一般的に個人的な利益を得る目的で犯されます。マネーロンダリングは犯罪活動から生じた違法な利益を隠すプロセスです。汚職罪の収益を上手にロンダリングすることで、違法な利益は没収される恐れなしに享楽し得るかも知れません。

 大半の政府は、マネーロンダリング対策の法律を執行するために、特に銀行とその他の金融機関と共に活動することにより、金融情報機関として知られる機関を通じて活動します。南スーダンの場合、アメリカ政府とその他の政府は金融機関がマネーロンダリング対策の順守義務を十分に果たすのを確実にし、金融機関に南スーダンに起源を発する汚職の利益の浄化に対する予防手段の追加の手順をとるよう促進するために活動でき、そして一部の場合では、汚職の利益と分かった取引を止め、資産を押収できます。アメリカ政府はマネーロンダリング対策と制裁順守基準を満たさない銀行に厳しいペナルティを科する権限を持ちます。これらのペナルティは、重い罰金からアメリカの金融システムへのアクセス拒否にわたり、汚職の利益を浄化することへの強い阻止要因として機能しなければなりません。

 アメリカとその他の政府は、ケニヤやウダンガのような地域の政府に、マネーロンダリングに対処し、南スーダンにそうするのに必要なインフラ開発を奨励するために「FATF勧告」を実行する重要性を強化することもできます。そうできないことは、南スーダンで紛争と不安定性を育てるだけでなく、彼ら自身の金融システム、インフラ、国際的な地位を危険にさらします。著名な金融誌2016年6月号の記事は、(政府の優先事項だった)ケニヤの金融セクターの拡大は、南スーダンのような市場に関して営業するやり方で危機に直面することを強調しました。アメリカはすでにこの種のガイダンスを提供しており、南スーダンに関して一層狙いを定めることができます。たとえば、2008年に、アメリカの金融情報機関として用いられる米財務省金融犯罪執行ネットワーク(FinCEN)は、汚職から来るリスクを懸念する勧告を出し、2014年のウクライナ危機の直後にさらに特定の種類の警告を提供しました。FATF自体は2013年に、汚職と戦うためのそれ自体のマネーロンダリング対策勧告の応用に関してガイダンス書類を発行しました。

 我々は、この報告書で詳述するすべての商取引が事件を構成せず、マネーロンダリングにつながらないことを認めます。一部の場合では、法執行当局は個々の事案に対して、その権限を使ってさらに調査したあとで、より特定の判断をすることができます。しかし、全体としてみれば、我々は典型的に汚職と関連するマネーロンダリングの種類の明白な徴候を示したと信じます。その結果、マネーロンダリングと戦うために設立された当局は、調査をして、南スーダン国内や関連する然うした活動に対して行動するために用いられることができます。いくつかの鍵となるツールは以下のとおりです。

 米政府は南スーダンで、デューディリジェンス、報告、コンプライアンス要件を満たさなかった銀行すべてを処罰しなければなりません。銀行は政府当局者による汚職とマネーロンダリングに対する戦いにおいて主要な構成要素であり、多くはそれを追跡して阻止することに専念する相当なコンプライアンス部門を持っています。たとえば、多くの国の法律の「顧客確認(KYC)」条項は、金融機関に顧客に対してデュー・ディリジェンスを行うことを要求し、そしてますます、コルレスシステムの銀行は「顧客確認の顧客」への圧力を感じています。さらに、銀行は政府当局者と彼らの親族の金融取引が増加した精査に置かれるように、FATF勧告によって「拡張デューディリジェンス」と呼ばれる、より徹底的な調査を外国の政治的露出人物(PEP)に対して行うことになっています。彼らがこの種の条項に従わないなら、銀行は相当な処罰と、他の銀行が彼らとコルレスシステムで進んで仕事をしなくなる可能性に直面し得ます。それでも、個々の商取引は止めるのが非常にむずかしくなる可能性があり、一部の銀行にとって、これらの商取引の商業的利益は依然としてそれと戦う上での法律上の義務や関心を上回るかも知れません。アメリカとケニヤの政府はこれらの商取引に関与する銀行がデューディリジェンス、報告、コンプライアンス要件を満たしたかを徹底的に調査しなければなりません。その上コルレス銀行は、これらと類似した商取引すべてに関して完全な協力と透明性をこの地域の銀行から受け取ることを確実にしなければなりません。

 米財務省は愛国者法第314条(a)項の下で調査要請を出さなければなりません。FinCENは特に、南スーダンでマネーロンダリングに対処することに関連したいくつかの手順をとる能力を持ちます。第一に、FinCENは愛国者法第314条(a)項の下で、22,000を超えるそのネットワークの中にある金融機関すべてに行き、彼らに金融機関が特定の個人、機構あるいは組織すべての口座を維持し、維持したか、商取引に従事したかどうかを特定する記録を探すことを求める要請を出せます。FinCENはしばしばこうした要請を法執行を支えるために出しますが、それらを出す独立した権限を持ちます。FinCENは狙いを絞った機構・個人が合理的に疑われるということを、信頼できる証拠に基づいて、マネーロンダリングに従事したことを、さらに明確な特定するデータを含めて証明しなければなりません。この報告書は第314条(a)項の要請の基本となる出発点を提供し、それはPEPと彼らが金を動かす方法を追跡するために、彼らが政府からしばしば必要とされるガイダンスと指示を受け取ることにおいて金融機関の重要なルーツとなり得ます。南スーダンはほとんどの金融機関の網の目がその他の関連よりもより少ないことを考えると、第314条(a) 項の要請はすぐに注目度をあげ、FinCENと潜在的にはその他の政府に重要な口座の情報を提供できます。

 FinCENは不動産取引を行う南スーダン人に対して第311条の行動をとらなければなりません。第314条(a)項の要請の調査手順に加えて、FinCENは愛国者法第311条の下で、「マネーロンダリング最懸念先」とみなされる特定の金融機関、商取引の種類や口座の種別に対してより直接的な行動をとれます。そうすることは、FinCENがその懸念先に対して5項目の特別措置のひとつかそれ以上を行うことを可能にしますが、これまでに特別措置5項目を、マネーロンダリング懸念先がアメリカの金融システムへアクセスするのを遮断するものに使ったことがあるだけです。それはコルレスシステムの中で活動する銀行にとって、事実上の死刑宣告にもなり得ます。ここ数ヶ月、FinCENはアメリカ国内の高価値の不動産を購入するマネーロンダリングに集中してきており、この報告書で示したとおり、それは南スーダンの泥棒政治家たちについて、この活動に対する作業を拡げるべきです。この報告書で提供した情報は南スーダンの高官PEPによる不動産の購入がマネーロンダリング最懸念先を代表する商取引の種類を示すことを発見する十分な根拠を提供するはずです。FinCENはその他の特別措置の一つを行使することを検討すべきで、それは追加調査と記録管理の権限を可能にして、世界の金融界へこれらの商取引を極めて厳しく監視・評価し、汚職やその他の違法な手段を通じたマネーロンダリングで不動産の購入すべてを防ぐことを知らしめるでしょう。

 当局は南スーダンから略奪された資金を差し押さえ、送還することに取り組まなければなりません。オーストラリア、ヨーロッパ連合、ケニヤ、ウガンダなどの海外のカウンターパートと同様に、米当局は犯罪で生じた資産の没収と、南スーダンの汚職からの利益に関連するものへの起訴へつながる調査を開始しなければなりません。アメリカでは、司法省の要員で構成される調査部隊の司法省泥棒政治資産回復戦略、連邦調査局、国土安全保障省が先導しなければなりません。調査が始まったら、これらの機関は銀行と外国政府に、潜在的に関与した個人に対する、一部の場合では資産に対して直接の法的行動へつながる記録を要請するため、調査と召喚の権限の範囲を用いることができます。たとえば、FBIがマネーロンダリングの陰謀とつながるアメリカの銀行口座を通じて百万ドルが送金されたことを示したら、次に司法省が資金を没収を狙い、その時点で、その口座の中の百万ドルに対する提訴を行えます。南スーダンの場合、当局は最終的に一般の大衆の利益にする方向で、押収した資金を送還するために活動すべきです。(つまり、持続可能な経済発展と健全な統治を促進する計画を通じて)

 米政府は南スーダンに関連するマネーロンダリング懸念先について直接従事しなければなりません。FinCENの活動に加えて、アメリカ政府は、特に財務省と国務省当局は、この地域で直接従事することを通じて南スーダンのマネーロンダリングに対向できます。個々の政府(ケニヤ、ウガンダ、エチオピアなど)との潜在的なマネーロンダリング活動に関する懸念を引き起こすことで、アフリカ連合、IGAD、東アフリカコミュニティ(EAC)、東・南アフリカ・マネーロンダリング対策グループ(ESAAMLG)のような多国間機構と銀行幹部自身、アメリカはその他の司法権による注意と活動を増やすことができます。それは多分、アメリカ単独より疑わしい商取引を妨げるより直接的な能力をもちます。特に、ケニヤとウガンダは理論上比較的堅固な、汚職に対する行動の根拠を提供するマネーロンダリング対策の法的枠組みを持っており、現地法は南スーダンのPEPに代わって疑わしい商取引を処理する銀行により破られることを示します。これらの銀行はすでに、FATF勧告に従って南スーダンのPEPに対する拡張デューディリジェンスを行い、疑わしい商取引を防ぐために必要なその他の処置をとっていなければなりません。上記の通り、そうしないことは南スーダンの紛争を煽るだけでなく、相当に国際的金融システムの中これらの国々の地位を脅かし、彼ら自身の銀行に悪影響を及ぼしかねません。最後に、国連の持続可能な開発目標(SDG)は、報告義務がある機関は開発の重要な要素であり、汚職を減らすという狙いを定めた目標と違法な金融の流れに対して行動することを含むという国連加盟国すべての見解を認めます。地域諸国は、南スーダンとの国境を通過するこの活動に対して行動することを含めて、SDGの実行へ向けて前進することを認めなければなりません。

これまでに訳した報告書の目次は以下のとおり。

 概説
 南スーダン内戦
 キール大統領(1)
 キール大統領(2)
 キール大統領(3)
 レイク・マシャル
 ポール・マロン・アワン大将(1)
 ポール・マロン・アワン大将(2)
 マレク・ルベン・リアク中将
 総括(1)

 ここでは耳慣れない金融用語が登場し、訳するのに手間取りました。軍事用語だけでなく、金融用語や金融システムも勉強する必要があると感じさせられます。これは組織犯罪などにも関係があるため、軍事問題にも関係しますし、南スーダン問題にも関係しているのです。

 マネーロンダリングでも、ドル建てで行われることが多いため、アメリカにはできることが沢山あるはずとの見解が示されています。日本円でそれらが行われる可能性は低いでしょうが、ドルでやりにくくなった場合、円に流れることがあるのかが気になるところです。

 日本ではマネーロンダリングについて「犯罪による収益の移転防止に関する法律」により、「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」が内閣に設けられています。活動記録を見る限り、南スーダンのマネーロンダリングに関しては何の活動もしていません(該当ページはこちら)。自衛隊を戦地に放置したまま、政府が何の支援もしていないことが分かります。これだから日本の外交はガラパゴスだというのです。周囲の変化に何も対応できていません。

 推進本部だけでなく、総理大臣がケニヤやウガンダ、エチオピアを訪問し、この件について現地政府に訴えてくる必要があるでしょう。

 南スーダン国民の幸せを願ってPKO派遣をしている訳ではないので、こんな程度で活動が終わってしまうのです。PKO派遣は湾岸戦争で傷ついたとされる(私は詐称と思っていますが)日本人の名誉を回復するためにのみ行われているのです。


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