「The Sentry」報告書 マレク・ルベン・リアク中将

2016.10.2


 「The Sentry」報告書の南スーダン政府軍参謀長、ポール・マロン・アワン大将(Gen. Paul Malong Awan)に関する部分の日本語訳です。今回紹介するのはマレク・ルベン・リアク中将に関する部分で、43〜46ページです。(報告書の原文はこちら

マレク・ルベン・リアク中将

  • マレク・ルベン・リアク・レング中将(General Malek Reuben Riak Rengu)は武器の入手と軍事攻撃の立案に直接関与しているが、広範な商業ベンチャーへの関与と、南スーダンで営業する少なくとも3カ国の多国籍企業から相当な支払いを受けている。
  • 2013年1月、サルバ・キール大統領はルベン・リアクを中将に昇進させ、SPLAの補給担当副参謀長に指名し、彼を外国の兵器ベンダーとの主要な交渉者にした。
  • ルベン・リアク将軍の年俸は約32,000ドルだが、情報は彼が給料を遙かに超える生活をして、南スーダンで営業する多国籍企業多数から数十万ドルの支払いを受けていることを示す。

子供が多いビジネスマン

  • マロン将軍、ジョク・リアク将軍と同じく、ルベン・リアク中将はカンパラ郊外に家を持っている。
  • しかし、ルベン・リアクは企業への頑強な足跡を持っているようにみえる。
  • 書類はルベン・リアクと彼の親族は南スーダンに登記された多数の企業の株を持っていることを示す。
  • ある書類はルベン・リアクが「All Energy Investments Limited」の株式40%を持っており、残りは2015年10月まで彼の親族の間で分割されたことを示す。(「All Energy」向けの特定企業の書類は、彼の家族の名前の次にルベン・リアクの署名が現れる)
  • 他の記録は、ルベン・リアクが南スーダンに登記した「A+ Engineering, Electronics & Media Printing Company Limited」の株式90%を持つことを示す。
  • 「Alamtuch Multi-Purpose Co. Ltd.」の株主にはマレク・ルベン・リアクと、現在、アメリカの学費年額が彼の年俸とほぼ同じの大学に入学している彼の16人の子供の一人「グム・ルベン・リアク(Gum Reuben Riak)」の名前両方を含む。

  • 書類は2012年1月から2016年前半の間に、「Kenya Commercial Bank」から303万ドルがドル建てで、ルベン・リアクの個人銀行口座へ移ったことを示す。
  • 取引記録は700,000ドル以上の現金預金と南スーダンで営業する国際的な建設企業数社から多額の支払いが含まれることを示す。
  • 過去4年間で、116万ドルがこの口座から引き出された。
  • 書類はこの口座へ支払われた資金は「DEP ANT Construction」が持つ口座から200,000ドル以上が含まれたことを示す。この会社がアフガニスタンでNATOが率いる国際治安支援部隊(ISAF)のために空港、道路、運転設備を建設する契約をして、USAIDから2億2500万ドルの補助金を受けたジュバ・ニムレ線(Juba-Nimule road)の建設を含めた南スーダンで主要な建設契約もした「ANT Construction」と同じかは不明である。
  • 同じ書類はさらに、レバノン人億万長者のピエール・ファトーチ(Pierre Fattouch)の企業帝国に属する南スーダンで営業する企業の一つ「Fattouch Industrial」が389,129ドルをルベン・リアクの個人口座に預けたことを示す。
  • 世界銀行が資金を出したロボノク・マグウィ線(Lobonok-Magwi road)の建設契約をした中国国営企業「the New Era Group」、世界最大の建設会社の一つ「the Fujian Construction Engineering Company」の子会社「China Wu Yi Engineering」を含めた南スーダンで契約をとった中国の建設会社2社も口座へ支払ったとして書類にリストされている。
  • その他の支払いは「Skyline Construction」と「Skyline Contracting」に起因する。2社はジュバに住むレバノン人、アリ・マイリー(Ali Myree)が所有し、彼はキール大統領の娘の一人と鉱山会社に共同出資している。
  • これらの支払いすべての理由を特定することはできなかった。

中国との武器取引の疑問

  • 書類はルベン・リアクが、内戦が勃発して2週間経たない2013年11月15日、主力戦車「VT-2」45両を、中国最大の国営武器製造社「China North Industries Group Corp.(NORINCO)」からの購入に関与したことを示す。
  • これらの戦車が届いたことはなさそうである。
  • しかし、3800万ドルの価値がある武器弾薬の2つの貨物が配送された。
  • ブルームバーグの報道によれば、SPLAは「NORINCO」からの貨物を受け取った。それは自動小銃の薬莢24,760個、グレネードランチャー、対人手榴弾、RPGロケット砲、その他多種の弾薬、中国製対戦車兵器システム「HJ-73D(レッドアロー)」を関連するミサイルと共に、バッテリー、訓練用シミュレータ、スペアパーツを含んだ。
  • 書類は、少なくとも書類上では「NORINCO」が南スーダン軍や政府へ直接兵器を出荷していないらしいことを示す。
  • 「NORINCO」の出荷のための運送証券にリストされた「着荷通知先」は南スーダンの国防省ではなく、南スーダン人ビジネスマン2人が所有し、貨物が到着する数ヶ月前の20103年10月に設立された会社「Loid Investments」だった。
  • 「NORINCO」とSPLAの間の通信で、ルベン・リアク中将がこれらの商取引を締結した人であることを示す。

ジェームズ・ホス・マイ・ヌグオス将軍

  • ジェームズ・ホス・マイ・ヌグオス将軍(Gen. James Hoth Mai Nguoth)は2009年5月から2014年4月に解任されてポール・マロン・アワン大将と交替させられるまでSPLAの参謀長を務めた。
  • この座に就く前、ホス・マイ将軍は補給担当副参謀長を務め、その地位は現在、マレク・ルベン・リアク将軍が保持していた。
  • ホス・マイ将軍のSPLA高官としての年俸は45,000ドルを超えることはない。
  • しかし、ホス・マイの退職した家は、SPLAでの在任期間が給与が提示するものよりも遙かに有利だったことを示す。
  • 2014年6月、ホス・マイの家族はオーストラリアのメルボルン郊外(Melbourne)に、ホス・マイの息子の名前で、1,500,000オーストラリア・ドル(当時約1,383,000ドル)で家を購入した。
  • 家を買ったホス・マイの23歳の息子、ヌグオス・オス・マイ(Nguoth Oth Mai)は、2013年12月中盤まで中国で学んでいた。
  • 住居は、セーリング、キャニオニング、マウンテンバイクで人気があるリスターフィールド湖(Lysterfield Lake)に接する樹木が多い場所を背にした1エーカーの区画に位置した。
  • この家は不動産会社によって「平穏と魅惑のバランスを完備」と説明される。
  • 家は寝室4つ、最高級キッチン、二階層のホームシアター、サウナ、インフィニティ・プールを誇る。
  • 2016年8月に調査員が訪問した時、ホス・マイの娘が使うBMW 316iが家の前に駐車していた。

  • 南スーダンでは、国家の略奪は腐ったリンゴ数個がもたらした結果ではない。それは全体的なのだ。

これまでに訳した報告書の目次は以下のとおり。

 概説
 南スーダン内戦
 キール大統領(1)
 キール大統領(2)
 キール大統領(3)
 レイク・マシャル
 ポール・マロン・アワン大将(1)
 ポール・マロン・アワン大将(2)

  以上でお歴々たちの略奪列伝の解説は終わりです。呆れるしかありませんが、ある意味、日本社会にも似た構図があることは、東京オリンピックの顛末を見ていると理解されます。

 天然資源しか売り物がない国に、外国やNGO等からの資金が流入した結果、突然の特需に目がくらんだ人たちが争って分け前を奪い合っているのです。

 その結果、南スーダン国民が享受すべき安定した生活は夢となりました。さらに、支援団体の人たち(外国人、南スーダン人を含む)が南スーダン軍の暴力の犠牲となりました。

 日本政府は、これらの事実を無視することで、こうした犠牲に苦しむ人たちすべてを愚弄しています。日本の国益のために、かかる被害を無視することが本当の国益につながると、冷酷な彼らは考えています。

 なにしろ、日本国内にも似たような構造があるのですから。

 その一方で、このレポートに日本企業や日本人がまったく登場していないことも考えなければなりません。つまり、日本は南スーダンに何の利権も持っていないということです。自衛隊を派遣してまで利権を求めていないのは、ある意味では評価できるのかも知れませんが、こういう国で自衛隊を危険にさらす意味があるのかという検討もされるべきです。何のために自衛隊を派遣したのでしょうか。

 利益も追求しない、人道主義も追求する気がないのに、紛争地に自衛隊を派遣しているのです。

 報告書はこのあと「 "The Source of This War"(この戦争の源泉)」「Countering Violent Kleptocracy in South Sudan(南スーダンの強烈な泥棒政治への対抗策)」と続きます。どうやら、ここが一番大事なようですから、ここは箇条書きではなく、逐語訳で紹介したいと思っています。


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