国教条項でぶれる米最高裁判決

2019.6.21


 military.comによれば、高さ40フィートの十字架の形をした第1次世界大戦の記念碑はメリーランド州で公有地にあり続けることができると、米最高裁が木曜日にアメリカの生活の中で宗教的なシンボルを活用することについて重要な決定を裁定しました。

 7対2の評決で十字架の支持者に賛成した裁判官らは、長期間にわたる宗教的な記念碑を維持することは新しいものを建設するのを認めるのと大きく異なると言いました。法廷は、草に覆われた幹線道路の中央分離帯の上の百年近い古い記念碑の存在は、憲法修正第1条の国教条項に違反しないと結論しました。条項は政府がある宗教を他よりも優先することを禁じます。

 この裁判は他の記念碑への潜在的な影響について注視されていました。首都郊外のブレードンズバーグ(Bladensburg)で十字架の擁護者たちは、彼らに対する判決は殉職した兵士を記念するために十字架を使う数百の戦争記念碑を決定的なものとしたと言いました。

 「十字架は疑いなくキリスト教のシンボルですが、その事実が私たちをブレードンズバーグの記念碑が象徴してきたその他すべてのことを見失わせてはなりません」とサミュエル・アリト判事(Samuel Alito)は書きました。

 「一部の人には、その記念碑は帰還しなかった先祖が象徴的に永眠する場所です。他の人には、コミュニティが集まり、我が国の退役軍人と犠牲者すべてを称える場所です。さらに他の人には歴史的なランドマークです。これら多くの人たちにとって、一世紀近く平静に存在した十字架を破壊したり、外観を損なうことは公平ではなく、修正第1条が明示する尊敬と寛容の理想をさらに促進することではありません。これらすべての理由により、十字架は憲法に違反しません」と彼は書きました。

 法廷の自由主義の判事の2人、どちらもユダヤ人のスティーブン・ブライヤー(Stephen Breyer)とエレナ・ケーガン(Elena Kagan)は十字架の判決で保守的な同僚に加わりました。

 同じくユダヤ人のソニア・ソトマイヤー判事(Sonia Sotomayor)とルース・ベーダー・ギンズバーグ(Ruth Bader Ginsburg)は、ギンズバーグが「その宗教の最も重要なもの公的に認めることを暗示するため、世界中のキリスト教信仰の主要なシンボルは人目につく往来に姿を現すべきではない」と書いて同意しませんでした。全部で9人の判事の7人が意見の中で彼らの見解を説明するために書き、それは80ページを越えました。

 十字架の忌避者は3つの地域の住人とコロンビア特別区に拠点を置き、無神論者と不可知論者を含む「アメリカ人道主義者協会(American Humanist Association)」を含みました。彼らは首都に近い郊外の十字架は私有地へ移動するか、厚板や塔のような非宗教的な記念碑へ修正されるべきだと主張しました。

 擁護者は「アメリカン・レギオン(American Legion)」を含みました。団体は第1次世界大戦で死んだ地域住民を讃えようと記念碑を建てるために資金を調達しました。他の支援者はトランプ政権と、碑を守るために約60年前に十字架の整備を引き継ぎ、交通安全の懸念に対処したメリーランド州当局が含まれました。

 メリーランド州当局は、しばしば「平和十字架(Peace Cross)」と呼ばれた十字架は、宗教とは無関係の目的と意味を持つために憲法違反ではないと主張していました。

 過去に同様の記念碑は最高裁で賛否両論の結果をもたらしました。

 たとえば、2005年の同じ日、法廷はテキサス州議事堂敷地内の十戒の碑を支持し、ケンタッキー州の裁判所の十戒の展示を却下しました。

 それらの判決の後、最高裁はメリーランド州の十字架のような、いわゆる消極的展示(passive displays)をどう分析するかを説明するのが不明確だと批判されてきました。


 合衆国憲法修正第1条は次のとおりです。

議会は、国教の樹立を支援する法律を立てることも、宗教の自由行使を禁じることもできない。表現の自由、あるいは報道の自由を制限することや、人々の平和的集会の権利、政府に苦情救済のために請願する権利を制限することもできない。

 当サイトでは過去に似た裁判を何度も紹介してきました。アメリカでも政教分離に関する問題が起きています。

 ノースカロライナ州キング市の退役軍人記念碑に掲げられているキリスト教の旗が問題になったことがありました。(関連記事はこちら 

 ペンデルトン海兵隊基地に掲げられる巨大な十字架が問題になったこともあります。(関連記事はこちら

 沖縄の海兵隊基地では展示物の中に聖書が混じっていたことが問題になりました。(関連記事はこちら 

 米軍はあらゆる宗教を認め、隊員の信仰に応じて従軍聖職者を配置しています。しかし、時折、軍隊の宗教的な中立に対して意義が持ち上がります。

 民間では、殉職者を讃えたいとする施設の建設が普通に提案されるため、その内容が問題となります。その多くは記念碑などの展示物が十字架の形をしていることに起因します。

 軍隊が全宗教対応でありながら、キリスト教中心になっているのではないかという疑念は繰り返し提起されます。判断が個人の主観に任される部分が多いためでしょう。

 今回の判決についていえば、あまり考えることなく決めた印象です。写真をみると、記念碑は明らかに十字架の形をしており、歴史的な建造物というほどの価値もないように見えます。キリスト教以外の宗教に対して配慮が欠けているとしか思えません。衛星写真で見ても、記念碑は街の中心部の大きな橋の近くにあり、通行する人には嫌でも目に入るようなものです。

 

 


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