日本のミサイル防衛は「絵に描いた餅」

2016.12.30


 読売新聞によれば、北朝鮮による弾道ミサイル発射に備え、海上自衛隊と米海軍が今年秋から、日本海での共同警戒監視を始めていたことがわかった。

 日本政府の破壊措置命令に基づき、24時間の迎撃態勢を維持する海自のイージス艦が、補給などで日本海を離れる際、米イージス艦が代わりに現場に展開し、警戒監視を担っている。日本側の要請によるものだが、自衛隊の実任務を米軍がカバーするのは異例。自衛隊単独での対処が限界に近いことを示しており、ミサイル防衛のあり方を巡る議論にも影響を与えそうだ。

 複数の政府関係者が明らかにした。米軍によるカバーは、稲田防衛相が9月に訪米してカーター国防長官と会談した際に打診し、了解を得た。米側はこれまでに数度、神奈川県の米海軍横須賀基地に所属する弾道ミサイル防衛(BMD)対応型イージス艦を日本海に派遣。1度につき1週間前後、海自に代わってミサイル警戒にあたっている。


 今年8月に北朝鮮がミサイルを打ち上げたとき、防衛省は第一報を打ち上げから1時間以上経ってから公表しました。その後、防衛省は北朝鮮がミサイルを打ち上げたら常時迎撃する「常時破壊命令」を出しましたが、9月にさらに北朝鮮が3発を打ち上げた時は、打ち上げ自体に気がつかないという事件が起こりました。これについては、当サイトで4回に分けて批判を行いました。(関連記事はこちら 

 弾道ミサイル迎撃の実態について、12月28日に前衆議院議員の小泉俊明氏がフィエスブック上で実態を明らかにしました。

①【米軍からのファックス次第】
私は現物を見たが、米軍の軍事衛星が撮影したミサイル発射の画像が『ファックス』で送られてきて、日本政府は初めて分かるのがその答えだ。
米軍のファックス送信が遅れれば、分かる前に着弾している。

②【日米同盟の現実】
私は米軍と自衛隊のコンピューターは連動しており、北朝鮮のミサイル発射を米軍の軍事衛星が捉えると同時に、日本政府も瞬時に分かるものだと信じていた。
しかし、現実は、ファックス(((・・;)。
全く信用されていないか、全く相手にされていないかだ(@_@;)

 小泉氏がいう「軍事衛星」は「早期警戒衛星」といい、地球表面で高熱の飛翔体が動くのを感知します。早期警戒衛星だけの情報では迎撃はできないので、探知されたミサイルの軌道から、予測される飛行コースをイージス艦、Xバンドレーダーなどで集中的に補足します。このデータを元に迎撃ミサイルを撃つのです。つまり、迎撃ミサイルを撃つためのレーダーでは、その性能上、常時広域に探索を行えないので、早期警戒衛星とのコンビで動くのです。

 自衛隊は米軍の早期警戒衛星の情報をもらい、イージス艦やPAC-3のレーダーを起動します。この情報なしに、自衛隊の迎撃は成し得ないのです。これまで日米間には専用回線があり、米軍がミサイル発射を探知したら半自動的に自衛隊に通知され、即座に迎撃態勢が始動するものと、私も考えてきました。ところが、これが「ファックス」なのです。

 北朝鮮から弾道ミサイルを撃った場合、日本には10分間前後で着弾します。ファックスで間に合うとは、とても思えません。米軍のファックス送信システムはどんなものなのでしょう。一度、紙にプリントしてからファックスで送信するのでしょうか?。これでは到底、間に合いません。探知と同時に自動的にファクシミリが送信されるのでしょうか?。これは納税者である日本国民に対して明かされるべき重要な情報です。

 読売新聞によれば、9月に稲田防衛大臣がカーター国防長官に、米軍が一部、迎撃を肩代わりしてくれるよう要請したといいます。

 なるほど、稲田大臣は9月15日にアメリカへ向けて出発しています。アメリカと南スーダンを訪問する予定でしたが、例の予防注射でジンマシンを発症し、南スーダン訪問は中止したのです。防衛省のホームページによれば、ワシントンDCで「日米防衛相会談等」を行う予定と書かれています。この月には、他にアメリカ出張はありませんでした。

 結論からいって、この動きは明らかに疑問です。

 アメリカからの通告が遅れたら迎撃できないような状況なのに、常時破壊命令を出して、迎撃に失敗した場合、日本は大恥をかきます。北朝鮮はこういう日本の現状を承知しており、その上でミサイルを打ち上げた可能性すらあります。

 常時破壊命令を出す前に、米軍との専用回線を複数確立する方が先です。

 本気で迎撃を考えるのなら、自前で早期警戒衛星を開発して運用すべきです。常時破壊命令はその後で十分です。

 さらには、ハードウェアに頼るだけでなく、北朝鮮の崩壊を含めた総合的戦略の確立が必要です。

 これらの努力をしないで、米軍に一部、迎撃を肩代わりしてもらうという選択は変です。なぜなら、安倍政権は「北朝鮮からアメリカに飛んでいくミサイルを迎撃しないのはおかしい」として集団的自衛権を主張しているからです。守ってあげなければといいながら、自分を守ってもらうのは話が逆です。

 しかし、連絡遅れの可能性が低い米軍が肩代わりしてくれるのなら、それは連絡をもらえない可能性がある自衛隊がやるよりは安心ということになり、そういう意味では日本国民にとってプラスです。ひょっとすると、それが防衛省の真の狙いかも知れません。

 ここに日本の防衛思想の大きな誤りが露呈しています。

 日本では最新兵器を導入すれば、直ちに防衛力が高まると信じられています。オスプレイを買えば、直ちに中国に対する抑止力が高まると考えるのも、その一例です。いくらオスプレイの行動半径が大きくても、洋上の発進基地となる艦船がなければ、中国に対する有効な防衛力とはなり得ないのです。

 これと同様に、迎撃ミサイルを購入すれば、直ちに日本の守りが堅くなると考えるのも間違いです。防衛システム全体を評価して、常に有効な状態に保たなければ、それは何の意味もないのです。日本はミサイルを購入しただけで、早期警戒衛星についていは考えてきませんでした。民間で弾道ミサイルによる被害を防ぐための訓練も行っていません。公共の核シェルターの建設も皆無です。あらゆる方向からのアプローチが必要なのに、日本人は最新兵器を買えば安心するのです。

 中枢が狂っている上に、国民の意識も低いので、実際に弾頭ミサイルが着弾した場合の被害は、本来防げるものの遙か上を行くのは間違いがありません。





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