オスプレイにオートローテーション機能はあるか?

2016.12.22


 今月、沖縄で起きたオスプレイ墜落事故に関連し、オスプレイがオートローテーション機能を持っているかどうかについての議論を見ました。

 航空自衛隊は2012年に、オスプレイにオートローテーション機能があるとの見解を公表しています。アメリカでオスプレイの操縦シミュレータで、オートローテーションで着陸できることを確認したのです。防衛省はそれをファイルで公表しました(pdfはこちら)。

 普通に考えると、これで結論が出たように思えますが、オスプレイの場合、話は簡単ではありません。私はこの報告書には疑問があると思っています。結論ありきで、重要な情報を伏せた報告書だと思っています。

やる気が見えない報告書

 「オートローテーションの必要性」と題した1ページ目の冒頭に「 2基のエンジンが同時に故障する可能性は極めて低い」と書いてあります。トラブルが起きた場合の話をしている時に、それは起こりにくいと頭から否定しています。これは危機管理において避けるべきことです。

 米陸軍と海兵隊のM4小銃で頻繁に作動不良が起きるとの苦情があがった時、2007年に陸軍は実弾で試験を行いました(記事はこちら)。M4は類似する小銃のどれよりも成績が悪く、68発に一度の割合で相談不良が起きたにも関わらず、米軍は「兵士が戦闘中に140発よりも多く発砲することは希だ」といいました。しかし、最終的に陸軍は弾を変え、現在、海兵隊はそれを行うよう議会から求められています(記事はこちら)。

 さらに、同じページに「垂直離着陸モードは全体の5%程度」とも書かれています。この説明で安心することはできません。航空事故のおよそ8割は、離着陸時、特に離陸後の3分間と着陸前の8分間の11分間に起きているといわれます。日本の運輸安全委員会によれば、今年起きた13件の航空機事故の中で、ヘリコプターの事故は2件で、どちらも着陸時に機体を損傷したというものです(関連ページはこちら)。

 戦場のような環境では、起きて欲しくないことは起きるべきではないのです。特に、航空機の墜落に関することは、致命的な問題であり、可能性が低いからと排除できる問題ではありません。

 報告書は「1基のエンジンのみで両翼のローターを回転させ飛行継続可能」とも書いています。ボーイング社のオスプレイのカタログにも同じことが載っています。あたかも何の問題もないと思わせる記述です。しかし、昨年ハワイで起きた事故は片方のエンジンが故障しただけで墜落しています。この事故で海兵隊員2人が死亡し、多数が負傷しました(関連記事はこちら 引用元の記事中に事故の動画あり)。Military.comが公表した事故時の映像は、オスプレイが自分が巻き上げた砂塵でエンジントラブルを起こし、あっという間に墜落する様子を示します。事故は着陸するためのホバリング中に起こりました。つまり、状況によってはエンジン1基では飛行できないのです。もちろん、火を噴かなかった方のエンジンも出力は落ちていたでしょうが、故障したエンジンもまったく回転を辞めたわけではなく、出力が著しく低下したというところです。それでも墜落しました。

 「エンジンが1基動いていれば飛べる」という事実は事故が起きた状況により、変わるのです。

高い降下率

 2ページではオートローテーションは可能としながらも、「ただし、オートローテーション中の降下率は他の回転翼機より高い。- 降下率は最大で4000~5000fpm(毎秒約20~25m) 」と書かれています。「fpm」は1分間あたりに何フィート降下するかを示します。4000~5000フィートは1219〜1524mです。これは旅客機の緊急着陸時の降下率よりも高く、とても安全に着陸できるとは思えないほどの数字です。5ページには自衛隊が他機種の模擬訓練装置でオートローテーション訓練を行うときの降下率が書かれていて、「2000~3000fpm程度」とあります。つまり、オスプレイは航空自衛隊でオートローテーションに関して最も条件が悪い機体なのです。

 しかも、ヘリコプターモードの着陸時の速度は時速130kmと高速度です。シミュレーターでは2、3回のバウンドをしただけとのことですが、到底、信じられません。時速130kmはプロペラ機の着陸速度です。ヘリコプターがオートローテーションで着陸する時、速度はほとんどゼロに近くなります。時速130kmでは、たとえ舗装された滑走路に対してでも、機体は大破、横転すると考えるのが自然です。

 オートローテーションは可能でも、設置時に機体が大破し、衝撃で乗員が死傷する可能性は最も高いといえます。

シミュレーターは信用できない

 4ページにはシミュレーターによるオートローテーション訓練視察の結果が書かれています。これは米軍パイロットが行う訓練を見学したものと思われますが、肝心な情報が抜けています。機体重量などの条件が抜けているのです。パイロットしか乗っていない状態なのか、完全武装の海兵隊員を満載した状態なのかがまったく分かりません。これで着陸可能かを評価しろといっても無理です。調査チームは現場で確認しなかったのか、あえて伏せたたのかのいずれかでしょう。最も重要な条件を欠いた報告書は意味がありません。

 同じページに「MV-22は回転翼機と比較すれば降下率は高く機体損傷の可能性は排除されないものの、オートローテーション機能は有していることを確認。」と書かれていますが、これは可能だというだけで、やれば大惨事になるのは目に見えています。現に、オスプレイがオートローテーションで着陸する映像を見たことがありません。安全にできるのなら、デモ飛行などで行った実績があるはずです。他の機種ではデモ飛行が行われています。航空自衛隊はなぜ、視察の際にオートローテーションの実演を見せてくれと言わなかったのでしょうか?。あまりも危険なので頼めなかったのでしょう。

 さらに、オスプレイの訓練シミュレーターの信頼性については、当サイトでかつて取り上げたことがあります。(該当記事はこちら

 元海兵隊の軍事アナリスト、カールトン・メイヤー氏は、オスプレイのフライトシミュレーターはオスプレイの性能目標、つまり開発する上で目標とされた性能に基づいているものの、運用評価でそれらの大半は実現できなかった点を指摘します。シミュレーターには性能目標の数値が使われ、運用評価で判明した数値は使われませんでした。その結果、オスプレイの操縦を学ぶ者たちはオスプレイの性能を誤解します。それが、アフガニスタンで2010年4月9日に米空軍のCV-22がアフガニスタンで墜落した事故(死亡4人、負傷16人)につながりました。

 この事故では、特集部隊を侵入させるために着陸しようとしたオスプレイが墜落しました。典型的な総重量約23.5tの時にオスプレイがホバリングできる高度の限界は約1,646m)です。事故の直前には航空専門誌に、高度約1,219m)以上では、V-22には大きなホバリングの制限があるとの記事が掲載されました。ところが、作戦指揮官は高度約1,593mの場所にオスプレイ(事故時の重量20.63t)をホバリングで着陸させる作戦を命じたのです。

 編隊長はこれが行えるかどうか疑問だったらしく、普通は3機で同時に着陸する方法をとらず、まず、自分が着陸してみせ、うまく行ったら他の2機を着陸させようとしました。そして、墜落したのです。

 このように実際の飛行性能が反映されていないシミュレーターによってオスプレイは墜落しており、航空自衛隊はそのシミュレーターを見ただけで、オートローテーションが可能だと判断し、しかも報告書にはシミュレーターによるデモンストレーションの詳細なデータが載っていないのです。これは単に型通りに行われた検証でしかなく、信頼に値しません。しかも、アフガニスタンの事故と航空自衛隊の検証は、同じ2012年に行われています。

問題を指摘する論文

 2012年の6年前の2006年、米空軍退役大佐エベレスト・E・リクソニ(Everest E. Riccioni) は、オスプレイの問題点を指摘した論文「欠陥を持つV-22オスプレイと海兵隊(The Flawed V-22 Osprey and the Marine Corps)」の中(7ページ目)で、オートローテーション機能を批判しました。(pdfファイルはこちら

 もう一つの問題は、完全なパワーが得られない場合のオートローテーションです。すべてのヘリコプターはオートローテーションによって荷物満載でのパワーオフ着陸をする能力を示さなければなりません。オートローテーションは降下のエネルギーをローターが回転するエネルギーに転換します。それは、それから速度を落とされた効果と安全な着陸へ変換できます。直径が小さく、慣性力が小さなプロップローターを持つオスプレイは、安全な着陸を成し遂げるための十分なエネルギーを蓄えられません。19 多くの搭乗員と乗客はベトナムでオートローテーションに頼ることで救われました。エンジン一基が故障したら、オスプレイは残るエンジンで両方のローターを動かして飛ぶことができます。確かに、完全なパワー喪失は寒冷時や燃料切れを除けば、平時にはありそうにありませんが、戦闘中は完全なパワー喪失は起こりやすいのです。すべての垂直離着陸機はそうです。20 次に航空機はその胴体で安全に着陸するために滑空できると海兵隊は主張します。非常に小さな翼のために、オスプレイの滑空速度は極度に速く、準備されていない地面への衝突着陸は大抵は大惨事となるでしょう。疑いなく、敵に近接し、戦闘の損傷の危険に直面すると、ヘリコプターよりも生存能力はずっと低いのです。控えめにみても、すべての要素を考えると、ヘリコプターは戦闘活動において5〜10倍以上の生存能力があります。かつて、敵の攻撃を抑えるために、多銃身速射のガトリング砲を搭載する計画がありました。これは付随する振動、銃身の問題、加えられるであろう望まれない重量のために起こっていません。遠隔照準射撃システムは10%近い、新たな1,000ポンド(訳註 約454kg)によって有益な積載物を失うでしょう。その荷物を持ち上げる能力はすでに不足し、主要性能パラーメーター(最低基準で)の半分です。防御制圧はオスプレイに与えられそうにありません。21

 オスプレイは生存能力のある面では優位にあるようです。固定翼機モードでは、ヘリコプターがするよりも著しく音の痕跡が小さいのです。垂直揚力モードでは、比較的騒音を出します。しかし再び、信頼性と積載性能の問題が邪魔をします。ヘリコプターのそれと同じ成功率のために必要な条件を満たすためには、より多くのオスプレイが必要です。所要の機数は作戦の痕跡を増します。(数、数、数なのです)

 リクソニ元大佐の論文は航空自衛隊の見解と著しく違うことに驚かされます。その内容はほとんど正反対です。

 以上、見てきたように、オスプレイのオートローテーションで着地を試みるのは自殺行為です。開発段階では高い高度でエンジンを止めてオートローテーションを試し、またエンジンを点火する試験を繰り返したはずです。

 航空自衛隊の報告書は恥知らずです。一度のシミュレータのデモだけで、搭乗員の声明に関わる問題を結論するなど、正気の沙汰ではありません。このような報告は直ちに撤回し、訂正をするべきなのです。





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