CV-22墜落はフライトマニュアルが引き起こした

2012.7.18


 カールトン・メイヤー氏から転載の承認が得られたので、「CV-22墜落はフライトマニュアルが引き起こした(CV-22 Crash Caused by Flight Manual)」の全訳を掲載します。これは2010年4月9日にアフガニスタンのカラット付近で起きた墜落事件を分析したものです。

 今回は原文をできるだけ直訳しました。このレポートは非常に信憑性が高いと私は考えています。私のコメントはつけませんでした。分析には怒りと皮肉も含まれており、笑わずにはいられない部分すらあります。なお、文中の「TAB」は空軍の報告書の位置を示しています。

略語一覧

OPEVAL 運用評価
MA 事故機
Z ズールー時間
KGS キロノット対地速度
LVA 視界不良アプローチ
MCR 事故を起こした要員
MP 事故を起こしたパイロット

 

CV-22墜落は

フライトマニュアルが引き起こした

 

 2010年4月9日、新しい空軍ティルトローターCV-22がアフガニスタンで墜落しました。米兵4人が死亡して16人が負傷し、大半は重傷でした。物議を醸した調査は、墜落の結果は、主にフライト事故レコーダーが消失し、生き残った副操縦士が記憶喪失を主張したために不明だと結論しました。しかしながら、ビデオ記録は明確にティルトローターを上向きにした直後に岩のように墜落したことを示します。CV-22の墜落は単に行うべきでない時にホバリングしようとして起きたことを明らかです。

 パイロットのランデル・B・ヴォアス少佐は空軍で最も経験を積んだCV-22のパイロットのひとりでしたが、V-22は重い荷物を積んでいる時にホバリングすることはほとんどありません。彼はティルトローター固有の危険に遭遇しました。ヘリコプターはホバリングする力を失うと上昇できません。しかし、ティルトローターは距離が長いローリング離陸を実行すると、ホバリングするよりも重い総重量を乗せて翼に揚力を得ます。ヴォアス少佐は航空機の性能チャートとそうした性能をプログラムされたシミュレーターに基づいて、着陸できると推定しました。

 CV-22の公式なホバリングの限界は、典型的な総重量(燃料とペイロード)47,000ポンド(訳註 約23.5t)の時に5,400フィート(訳註 約1,646m)です。これはボーイング社ベル社のウェブサイトに仕様として載っていますが、より長くて平たいローターを持つ、類似した現代のヘリコプターが、同じペイロードで二倍の高さでホバリングできるために、話は厄介になります。「V-22地面効果外(HOGE)ホバリング」の「ホバリング」チャートは、「OPEVAL試験」の後ですら、古い性能目標に基づいています。それにも関わらず、こうした「目標値」は現在のフライトマニュアルで公開され、シミュレーターをプログラムをするのに使われています。それは入手したコピーが批判されたり、ティルトローターのコンセプトの欠陥を暴露するために使われないようにするためです。試験中にV-22を評価した航空専門家は、パイロットのマニュアルが誇張された性能データで満ち、それがV-22のシミュレーターをプログラムするのに使われていることに驚愕しました。

 

批判の間違いを証明する

 ティルトローターの制約は米陸軍航空部隊で知られています。V-22計画は米陸軍ではじまり、陸軍は平たいヘリコプターのローターと捻りがある航空機のプロペラはまったく異なることを知った後で、このアイデアを取り下げました。ティルトローターは、どちらのモードでも半分の性能を提供する、妥協策の「プロップローター」を使います。CV-22がアフガニスタンに到着する直前、陸軍は特殊作戦軍にCV-22の性能に不満だと発言させようとしました。『アビエーション・ウィーク』の2010年3月28日の記事は、陸軍特殊作戦、第160特殊作戦飛行隊のクレイ・ハートマーカー大佐を引き合いに出し、なぜこれ以上V-22を望まないかを説明しました。

「4,000フィート(訳註 約1,219m)以上では、V-22には大きな(ホバリング)制限があります」と彼は言いました。ティルトローターの技術者は、V-22は様々な状況でうまくホバリングする一方で、プロップローターの特別な捻りと大きさは、それを同じ状況におけるほとんどのヘリコプターと見比べると、利便性がある荷物を運べることから遠ざけています。

「私はV-22を批判しません」とハートマーカーは言いました。しかし、ホバリング能力は第160飛行隊にとって重大な意味を持ちます。「なぜなら、結局のところ、我々の任務はホバリングすることで終わろうとするからです」。

 間違いなく、小さなCV-22のコミュニティの誰もがこれを読みました。陸軍のヘリコプターが中高度のアフガニスタンに着陸できたので、新品で極めて高額のティルトローターと共に、新らたに到着したCV-22の要員は、その価値を証明する圧力の下に置かれていました。ハートマーカーがCV-22の4,000フィート以上でのホバリング能力を批判した1週間後、何者がが荷物を満載した3機のCV-22を、アフガンの最初の戦闘任務で、5,226フィート(約1,593m)においてホバリング着陸させました。着陸した最初の機は、ホバリングできずに墜落しました。

 

パイロットは少佐が着陸できるかを確認

 敵が現れるかも知れない場所に着陸するのは危険です。急降下し、乗客を降ろし、素早く立ち去ることが基本戦術です。この任務には3機のCV-22があったので、最善の戦術は3機全部が同時に着陸することでした。この任務では、編隊の最も経験があるパイロットが乗ったCV-22が最初に行き、他のCV-22は上空を旋回しました。彼らはCV-22のホバリング制限に近い危険な着陸だと知っていましたから、賢明に事態が明らかになるまで空中に待機したのです。

 ヴォアス少佐が操縦する最初のCV-22が墜落して出火した後、上空にいた2機のCV-22は援助するために急降下して、着陸しませんでした。彼らは上空を旋回してさらに燃料を燃やし、それから墜落現場から1マイル離れた別な場所に、距離が短くローリング着陸をする決断をしました。これはCV-22のパイロットがホバリング着陸できないことを知っている確固たる証拠です。

 

公式事故報告書

 長文の公式事故報告書はオンラインで読めます。結論に至らないという結論は異例です。報告書が簡単に手に入るのに、メディアはいくつかの主要な経過を読めば明らかになる事故の本当の原因をあえて読み解こうとしませんでした。それらは以下に青色で、黒色で著者のコメントを挿入して引用しました。これらは時系列ではありませんが、明確にするために問題点でグループ分けしてあります。

「MAは15Zの2009年4月8日、北緯32度4.7479、東経066度47.1487、基準海面5,226フィートに墜落しました(Tab M-7、Tab Z-27)。これは目指した着陸地点に0.23海里(訳註 426m)足りませんでした。MAは3つの着陸ギヤ全部を降ろしてロックし、ナセルは垂直に近く、速度は約75KGSでした(Tab Z-27、Tab JJ-3~JJ-4)」。

「MAの離陸総重量は45,485ポンドで、地面効果外(OGE)の5%増しとなりました(Tab K-6)。これはパワー差5%を追加すると50フィートのホバリングを可能にします。」

 こうした数字はテキストブックの47,000ポンドの時に5,400フィートというHOGE制限に基づいていますが、これはISA(静止空気)で、着陸地点に微風がある場合です。さらに乗客は重量に加えられておらず、それは装備を含めて、一人あたり240ポンド(訳註 約109kg)と仮定されました。結局、ジェットエンジンはブレードが磨耗して若干少ないパワーを生み出し、期待されたパワーを100%生み出しませんでした。ところが、主任調査官と報告書の著者、ドナルド・ハーベル准将は、風とペイロードを軽視し、エンジン磨耗が打ち消し得る、余裕のない5%の誤差限界について、まったく懸念を表明しませんでした。それだけでなく、ハートマーカー大佐がCV-22のHOGEチャートがV-22が4,000フィート以上でうまくホバリングできないと公に警告した後ですら、彼は不正確だということを決して検討しませんでした。ハーベル准将は書いています。

「詳細、慎重、完璧な調査の後で、敵の活動、ブラウンアウト、ボルテックス・リング状態、空中衝突、油圧システムの喪失、電気的な不良、ドライブシャフトの不良、スワッシュプレート・マウントの不良、フライトコントロールの不良、スラスト・コントロール・レバー(TCL)の不正操作、航空電子工学の不良、搭乗員の心理的問題を含めた複合的な原因だと決定しました」。

「私は明らかで、納得できる証拠で、この事故の原因を特定できませんでした」。

 ハーベル准将は多くの要素を検討したのに、CV-22がホバリングできずに墜落した後ですら、HOGE性能問題を無視しました。

「着陸地点から0.5海里(訳註 約926m)の時点で、MAは128KGSに減速しました(Tab JJ-4)。通常の速度は60~70KGSでなければなりません(Tab BB-31)。とても激しい議論が墜落の数秒前にコックピットの中で起こりました(Tab V-60.28、V-60.34)。MCRのメンバーが急いで『10、9、8、7』とカウントダウンし、『7』で航空機は地上に墜落しました(Tab V-20.4)。」

 ハーベル准将は、一度ティルトローターが完全に上向きの位置に移動すると搭乗員は航空機が素早く下がると慌て、彼らは降下をやめられなくなり、予定されたグライドパス(図を参照)よりも7秒早く、機首の車輪を破壊した小さな排水溝をかわす前に、地面に激突したと指摘しました。どのパイロットにも、それが安全な着陸にはなり難いことは明らかです。上向きのローターと翼下の100knotの空気の流れを借りても、それはホバリングできず、空中に留まることすらできないのです。

訳註 図は右クリックで拡大できます。

「予期しない高い降下率

 ビデオ解析はMAが比較的安定を維持していたものの、着陸地点0.4海里(訳註 約741m)、高度150フィート(訳註 約46m)ではじまり、主着陸ギヤ(MLG)が地面に衝突するまでの高い降下率を示しました(Tab Z-3、Z-5、Z-27、Tab JJ-4)。最後の7秒間のある時点で、降下率は約1,800フィート毎分(訳註 約549m)でした(Tab JJ-4)。アプローチ中のこの段階における通常の降下率は200フィート毎分(訳註 約61m)でなければなりません(Tab V-24.7~V-24.8、Tab BB-31)。

 高地の環境、気温、風、MAの重量と対気速度、ナセルの設定が降下率に影響しました(Tab K-8、Tab R-77、Tab V-13.6、V-60.35、Tab II-6、Tab JJ-11、JJ-16)。シミュレータの飛行は、降下率を十分に早く見つけ、パイロットが適切な制御入力を行い、エンジンが普通に性能を発揮したら、ゴーアラウンドが可能なことを確認しました(Tab JJ-11~JJ-17)。圧倒的多数の証拠は、MAの高い降下率はLVAのこの段階では異常だという結論を支えました。」

 実際の飛行がそれに欠陥があることを示した後でも、ハーベル准将はシミュレータに使われたデータに疑問を呈しませんでした。CV-22はCV-22のシミュレータが彼に起きると言ったより9倍早く降下し始めました。明らかな原因はHOGE性能チャートが間違っており、そのためにシミュレータが間違っていたということです。

「興奮した議論とカウントダウンは、彼らが降下率に気がついて修正しようとしたものの、異常なエンジンの反応のために、なし得なかったことを示します。

MCR(要員)がこの時点でゴーアラウンドを決断した可能性もありますが、すでに起きていた降下率では、この機動を成し遂げる高度とパワーを得ませんでした。この場合、MCRは正しい行動方針を選択しましたが、達成できませんでした」。

「着陸はランプ、主着陸ギヤのタイヤ、ドア、底面を無傷のままにしておくのに十分にスムーズでした(Tab R-23、Tab V-7.35)。最初の墜落地点で、砂の中に大きな痕跡がないことは、意図的で完璧に実行された、直線のロールオン着陸を示しています(Tab Z-3、Z-5)。信頼できる証拠のより大きな重要さは、MAがゴーアラウンドを実行するには十分なパワーを持たないと彼が考え、MPがロールオン着陸だけを実行したことを示します。

訳註 図は右クリックで拡大できます。

 私は航空機の性能問題がMPがロールオン着陸を実行する決断に完全な原因になったと判断しました。急降下の間、ゴーアラウンドをするパワーがあって、別のアプローチを用意できたのに、経験豊富で優れたMPが荒れ地にロールオン着陸を実行することを選ぶことはありそうにありません」

 まさに航空機の性能の問題なのです!。エンジンがフルパワーを提供しなかったか、航空機が戦闘装備の乗客16人の重さを載せて5,226フィートでホバリングしようとする性能の範囲外にいたという2つだけの可能性しかありません。ハーベル准将は注意深くエンジン問題の可能性を分析したものの、僅かな証拠しか存在しませんでした。CV-22は4,000フィート以上でホバリングできないというハートマーカー大佐の最近の警告をよそに、未知の原因により、彼は別の案を検討することを拒絶しました。計器が両方のエンジンがフルパワーであることを示していたのに、CV-22が岩のように落ち、HOGEチャートとシミュレータが彼らにそれは起こらないと言っていたために、チームは「異常なエンジン反応」の可能性を議論しました。

「フライト事故レコーダー、振動構造寿命とエンジン診断の制御ユニット、右エンジンがなくなったことは、委員会がこの事故の原因の明確で説得力がある証拠を手に入れることを妨げました」。

 フライト事故レコーダー(FIR)の回収に失敗したことは、2つのおかしな言い訳のせいにされました。CV-22の搭乗員が救出部隊に提示したにも関わらず、誰もそれらがCV-22のどこにあるかを知らないか、存在していなかったと発表されました。敵の活動の兆候がない中、現場で2時間費やしたにも関わらず、救出部隊には時間がなかったとも主張されました。搭乗員は翌日に近くの空軍基地から戻りましたが、FIRはアフガン人に盗まれ、「行方不明」になったと主張されました。タリバンのリバースエンジニアが彼ら自身のCV-22を設計して製造させないために、CV-22の残骸は即座に破壊されました。

 ハーベル准将がアフガニスタンで、そのCV-22の基地で数日を過ごしたにも関わらず、彼は必要な事実を収集できませんでした。安全に着陸できるかを確認するために、彼は搭乗員と共にCV-22で正確に同じ任務を飛べたはずです。16人の乗客がいなければ、CV-22は約4,000ポンドとより軽く、5,225フィートの現場でホバリング着陸ができたはずです。CV-22がホバリング着陸できないとか、ハードランディングしたなら、彼の調査は完了したでしょう。報告書はこの常識テストを現場やアメリカに戻ってやらなかった理由に触れていません。報告書はなぜ、調査をする将官がCV-22ではなく、契約業者が飛ばせたロシア製ヘリコプターで現場へ飛んだかを説明していません。

 

事故の要素

1 CV-22の要員は海面のずっと上にある空軍基地から来た航空機の価値を証明する圧力の下にありました。

2 経験豊富なCV-22のパイロットは最終アプローチの間にあまりにも早く高度を失い、止められなかったことに驚きました。これは中止するためにすぐにパワーを使える固定翼機ほど単純ではありません。最大パワーでホバリングできないティルトローターは、対気速度を得るためにローターを前方へ傾けなければなりません。それには数秒間必要です。ヴァオス中佐は手の込んだローリング着陸を試み、それは部分的に成功しました。

3 他2機のCV-22は危険をはらんだ着陸が成功するかを見るために上空を旋回しました。墜落はホバリング着陸が不可能なことを確認させたので、彼らは燃料(重量)を捨て、ローリング着陸ができる別の場所を探しました。

4 フライトレコーダーを含む墜落地点の証拠すべては調査が始まる前に破壊されました。

5 パイロットとフライトエンジニアは死亡しました。副操縦士のブライアン・ルース大尉は生き残りましたが、記憶喪失を主張し、僅かな情報しか提供しませんでした。報告書のTab Qは、彼が話したことは一般公開のためでないことを指摘しました。ルースは足と背中の怪我からすぐに回復し、フライトできる状態に戻って、少佐に昇進し、結局、2012年6月の別のCV-22の墜落で負傷しました。

6 調査はCV-22はチャートとシミュレータができると示した高度で、僅か5%の差があっても、ホバリング着陸できないことを検討していませんでした。それはエンジン出力の低下、風、乗客の重量が見積もりよりも大きいならば、より下回ることがあります。CV-22のホバリング性能の可能性は、エンジンが完全に動かなかった可能性を除けば切り離せないことは疑いようがありません。

7 ハーベル准将の報告書は遅れ、上官に問題視され、その公表直後に彼は空軍を去りました。彼は記者や故人の家族と話さないよう命じられました。

8 1基のエンジンのパワー喪失が墜落を招いたという証拠が若干あります、これはなぜ経験豊富なパイロットが着陸を中断できなかったかを説明します。

9 事故原因はパイロットかエンジン故障のせいに限定されました。フライトマニュアルの誇張された性能データが原因だという他の可能性は決して言われませんでした。

 

論理的結論

 CV-22は無理な場所に派遣されました。パイロットはフライトマニュアルとシミュレータの誇張された性能データに惑わされました。これは直ちに修正され、誰に責任があるかを調べるために調査を始める必要があります。これはすでに行われているかも知れませんが、多くの公式報告書と同じく、一般公開には適さないかも知れません。



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