アメリカが核配備評価を更新

2018.2.5


 military.comによれば、アメリカはたとえば生物兵器や化学兵器からの攻撃、破滅的な非核兵器の攻撃に対して核兵器で対応するオプションを持つと、当局は新しい核配備評価(the Nuclear Posture Review: NPR)の中で言いました。

 NPRは新しく低威力の弾頭を潜水艦の弾道ミサイルと新型の潜水艦発射巡航ミサイルのために開発することも計画し、北朝鮮、ロシア、中国、イランを抑止するために「適合した」戦略を含みました。

 その上、NPRはアメリカは「必要と認めない限り」兵器を強化するために核実験を再開する意図を持たないと述べました。

 国防総省のブリーフィングで、国防総省、エネルギー省、国務省当局は、地上配備ミサイル、長距離爆撃機、潜水艦の核の三本柱を近代化するためのNPRの提案について費用の見積もりを提供することを辞退しましたが、議会予算局は2040年までに1兆2000億ドルと見積もりました。

 NPRのゴールは「今世紀のアメリカの安全を現代的で信頼できる抑止によって守ること」であり「彼らが常に優勢な立場から話すように外交官に力を与えること」でもあると、国防副長官パトリック・シャナハン(Deputy Defense Secretary Patrick Shanahan)はブリーフィングで言いました。

 国の核兵器と三本柱はアメリカを70年間核攻撃から安全に保ち、「我々はそれを時代遅れにはできません」とシャナハンは言いました。

 核兵器が開発されてから、アメリカは第一撃を完全に除外しませんでしたが、NPRは「第一撃」が考えられる状況を拡大するように見えました。

 ジム・マティス国防長官(Defense Secretary Jim Mattis)が監督するNPRは、アメリカ、同盟国、パートナーの重大利益を守るために極度の状況でのみ核兵器の使用を検討すると述べました。

 しかしシャナハンは、NPRは「極度の状況」を明言する長年の方針はアメリカが核兵器による対応をもたらす「重大な非核戦略敵攻撃」を含むことも明らかにすると言いました。

 シャナハンは「この明確化は安定化」であり「何者かによる核使用のリスクを低くする」と主張しました。

 彼は「合衆国は核兵器を使うのを望んでいません」が、「我々はアメリカと我々の同盟国とパートナーをしっかりと安全に保ち続けるために有効な抑止を維持するのを望んでいます」と言いました。

 ブリーフィングで、政策担当国防総省次官ジョン・ルード(Policy John Rood)は、送電網をノックアウトしたような大規模なサイバー攻撃のような非核攻撃に対してアメリカが核兵器を使うときに関する「仮定」について推測するのを拒否しました。

 彼は、アメリカが核兵器を使う時について「一定の曖昧さを維持する」のが長年のアメリカの政策だと言いました。

 ルートはアメリカが定義していない「極度の状況」において行うものに「自動性」はないとも言いました。

 金曜日に公表された74ページのNPRの要旨は、北朝鮮を「明らかで重大な脅威」と呼び、金正恩(Kim Jong-un)政権によるいかなるアメリカや同盟国に対する攻撃も「政権の終わり」をもたらすと述べました。

 「金政権が核兵器を用いて生き残れるシナリオはありません」とNPRは言いました。

 国務強当局者のアニタ・フリード(Anita Fried)はブリーフィングで、「私はこれをロシアを中心としたNPRと呼びません」言いましたが、要旨はロシアに「NATO同盟国に対して限定核攻撃で脅せば受け入れがたい大きなコストに直面すると信じさせる必要を強調しました。

 フリードはロシアと中国はアメリカの政策を明らかにして「誤算のリスク」を避けるために、NPRの見本を与えられると言いました。

 三本柱の近代化の論拠を説明する上で、NPRはアメリカは数十年間、世界中で核兵器削減述に腐心する努力を率い、努力はソ連崩壊で加速したと言いました。

 しかしロシアは近年、核部隊を近代化しており、「彼らの成功のために核のエスカレーションに依存する軍の戦略と能力のロシアの採用はさらに問題でした」とNPRは述べました。

 「中国もすでにかなりの核部隊をキンダカし、拡張しています」とNPRは言いました。

 「ロシアと同じく、中国は特定の国家安全保障の目的を成し遂げるためにまったく新しい核能力を追求し、通常軍も近代化し、西太平洋で伝統的な米軍の優勢に挑戦しています」。

 さらに「イラン核開発計画は未解決の懸念のまま」で「世界的に核のテロリズムは現実の危険のままです」とNPRは言いました。

 「我々の目的は敵に彼らは得るものがなく、核兵器の使用ですべてを失うと信じさせることです」「このアプローチは核の敷居を低くしません」とNPRは言いました。

 「むしろ、核兵器を限定的に使っても、彼らが許容できるよりも高くつくと敵を信じさせることにより、事実上、敷居をあげます」とNPRは言いました。

 「潜在的な敵対者の範囲、彼らの能力と戦略的目的を考えると、我々は、我々があるべきと臨むのではなく、ありのままに現実を直視して、世界を理解しなければなりません」とNPRは言いました。

 「この評価は、異なる状況で一つかそれ以上の敵を抑止する方法を適合するためにアメリカの大統領の柔軟性を与える核能力の多様なセットを求めます」とNPRは言いました。

 最後のNPRは2010年に発行され、ドナルド・トランプ大統領は2017年1月に就任した一週間後に新しい評価を招集しました。

 金曜日午後の声明で、トランプ大統領はNPRの結論は世界的な安全保障環境の現実的な評価と、地球で最大の破壊的兵器を使うのを抑止するための必要と、わが国の長年の核不拡散への関与に基づくと言いました。

 他の国は備蓄と能力を拡張しているが、過去のアメリカの政権は「非常に必要な核兵器の近代化を遅らせてきた」とトランプ大統領は言いました。

 新しいNPRはアメリカの核部隊の近代化と再建の青写真を提供したと、トランプ大統領は言いました。

 NPRの下で、「アメリカは我々の核兵器の指揮、統制、通信、3本柱すべて、二重の能力を持つ航空機、核のインフラの近代化を追求します」とトランプ大統領は言いました。


 核開発やそれを用いた戦略の策定は慎重に評価しないと誤ります。それが顕著なのは、むしろ日本政界における議論です。

 政界では分かりやすく、政敵を論破したがる傾向があるから、何かと拙速な議論になりがちです。

 河野太郎外相は3日、NPRについて「わが国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にした。高く評価する」との談話を発表しました。これは、こういう拙速な議論の典型です。

 この談話で、日本国内では、NPRは抑止力が高まるという議論だけが正論となります。しかし、核攻撃は様々な形が予想され、簡単な言葉だけで片付けるのは不適切です。

 また、核攻撃のような究極的な決定は、本当に起こる可能性は極めて低いのであり、直ちに脅威が迫っていると誤解してはなりません。

 一方で、事態が発生した場合にどうするかは明確に決めておく必要があります。そうしないと、短い時間で決断をくだせません。

 つまり、「極めて稀有な事態について」「明確な判断基準を定める」という二つのポイントがある訳です。

 その上で、「判断基準の一部を曖昧なままにする」という、不思議な手法をアメリカは採用しています。これは究極的な判断基準を敵に利用されないためです。

 さらに、サイバー攻撃でも核戦力で反撃すると間違った見解を示す識者もいます。先日ここに書いたように、統合参謀本部副議長のポール・セルバ空軍大将は、サイバー攻撃では核戦力を用いないのがアメリカの伝統的な考え方だと述べています。(過去の記事はこちら

 おそらく、今回のNPRは従来の内容から大きく変わってはいません。気になるのは、低威力の核兵器を開発するという点です。

 すでに戦術核兵器は存在しますが、さらに威力の弱い核兵器を開発するとのことです。こうした兵器は都市爆撃用に使うのではなく、戦線に穴を開けるとか、規模の大きな基地を叩くのに使えます。

 しかし、戦場で使うと、友軍への被害を防ぐために、放射線量の観測が必要になり、汚染地域には入れなくなるなど、作戦遂行を難しくします。

 通常兵器で核兵器に近い威力のものがあるのだから、そちらを使う方が楽です。

 つまり、低威力の核兵器も外交官が優位な立場から交渉できるようにするためのものだと言えます。

 こうした点からも、外務大臣はNPRに対して談話を出さず、それを真似して評価を曖昧なままにした方がよかったと思われます。核攻撃に関する環境は複雑で、単純に談話を出すべきでないと外務大臣が述べても、北朝鮮に与える圧力は同じ程度でしょう。曖昧にすることで、逆に北朝鮮に判断をしにくくする効果もあります。

 ところで、トランプ大統領の発言は例によって誤りを含んでいます。オバマ政権でも、核兵器の近代化のために核爆発を伴わない臨界前核実験を何度も行っています。核廃絶を訴えられても、技術者からあがってくる開発スケジュールは、理論的に否定できない限りは実行しなければならないからです。

 「二重の能力を持つ航空機(dual capable aircraft)」は何を指しているか見当もつきません。

 

 

 


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