初期情報から見る今回のテポドンの特徴

2016.2.7


 とりあえず、今日入手できた情報から、今回打ち上げられたテポドン2号について言えることをまとめました。

機体の大きさは2012年12月の時と同じ

 2012年12月と今回のテポドン2号の写真をCADソフトにコピーして、片方を半透明にして重ね合わせたところ、ぴったりと重なりました。双方の大きさはまったく同じとして差し支えありません。

図は右クリックで拡大できます。

エンジン制御はジェットベーン式

 2012年12月の時のジェットベーン式と同じです。噴射口の下に突き出ている黒い棒状のベーンが確認できます。下の写真の矢印が示すのがベーンです。

図は右クリックで拡大できます。

 ジェットベーンは旧式の方式です。噴煙の中に突き出たベーンで噴射の方向を変えるので、エネルギーのロスが大きいのです。

 2012年4月にはこれがない方式、つまりエンジン自体の方向を変えるジンバル式で打ち上げ、1段機体に異常が生じて墜落しました。今回、ジェットベーン式が使われたのは、ジンバル式で打ち上げる自信がなかったためです。つまり、技術的な進展は、少なくとも外目には今回は見られなかったということです。

1段機体は切り離し後に自爆

 韓国軍関係者によると、北朝鮮のミサイルは発射から約2分後の同日午前9時32分に1段目が分離後に爆発し、約270の破片が落下したと聯合ニュースが報じました。情報公開に熱心な韓国軍に感謝したいですね。中央日報はイージス艦「世宗大王」、ピースアイ(早期警戒機)、グリーンパインレーダー(迎撃ミサイルシステム)がほぼ同時に補足し、世宗大王がミサイルと識別したと報じました。イージス艦のレーダーは200個以上の物体を識別できるとされますが、270個もいけると、これで確認できました。日本の防衛省はこの種の情報は出さないでしょう。「敵に手の内を見せないため」だそうですが。

 約2分後に1段機体が切り離されたのは飛行が正常だった証拠です。1段機体の燃焼時間は130秒とする見解がありますので、2分後ならこれにほぼ合致します。普通ならそのまま落下する1段機体が爆発したのは、明らかに自爆させたものと考えられます。この段階では1段機体の燃料は残っておらず、意図せずに大きな爆発は起こりません。

 前回、韓国軍に海中の1段機体を回収されてしまいました。その結果、1段目のエンジン(全長2.7m)、燃料タンク(3.9m)、酸化剤タンク(7.5m)、燃料タンクと酸化剤タンクの連結部(0.9m)を入手。韓国軍はミサイルの作動原理や1段目の材質、燃料物質のほか、海外製部品を使用しているかどうかなど北朝鮮の長距離ミサイル技術に関する情報を確保したと聯合ニュースはいいます。そこで北朝鮮はまた解析されることを防ぐために自爆させたのです。

 日本も一度チャンスがありながら回収しなかったので、1段機体の解析はできませんでした。今回、そのチャンスは永遠に失われたのです。これくらいヘマをやっても、政権が批判されないのは本当に不思議です。ちなみに、韓国軍は残骸でも回収できるものは回収すると言っており、時事通信によると、早速、先端のカバー(フェアリング)を回収しています。

打ち上げが失敗したかのような政府発表

 読売新聞が日本政府の発表を次のように報じています。

 日本政府は7日、北朝鮮が午前9時31分頃、「人工衛星」と称する事実上の長距離弾道ミサイル1発を沖縄県方向に向けて発射した、と発表した。ミサイルは5つに分離し、1つは朝鮮半島の西約150キロ・メートルの黄海上に落下したものと推定される。そのほか2つは、朝鮮半島の南西約250キロ・メートルの東シナ海上に、もう1つは沖縄県上空を通過し、太平洋上に落下したと推定される。

 私は最初、打ち上げが失敗したのかと思いました。この文章は政府発表をそのまま書いたのでしょうが、成功しているものを失敗したかのように言う、ひねくれた根性に呆れ、情けなくなりました。事実は事実として認識しなければなりません。

 FNNによれば、7日夕方、韓国の韓民求(ハン・ミング)国防相は、国会への報告の中で、ミサイルについて問われ、成功の可能性が高いと認めています。

機体の落下点が前回より短い理由

 中央日報によれば、ロケット1段目は2012年に比べ北側海上に落ちました。聯合ニュースによれば、東倉里から南790キロ地点の約380キロ上空で衛星保護カバー(フェアリング)が分離された後、レーダーから消えました。毎日新聞によると、一つは、同9時41分ごろ、沖縄県上空を通過し、同9時45分ごろ、本邦の南約2千キロメートルの太平洋上(予告落下区域外)に落下したものと推定されます。

 1段機体と2段機体の飛距離が前回よりも短く、特に2段機体は予告区域外でした。これは上昇する角度が前回よりも急になったのか、何かの異常で予定よりも飛ばなかったのかです。韓国軍はペイロード(人工衛星部分)が前よりも重かった可能性を指摘していますが、いずれかは現段階では分かりません。高度に関する情報が少なすぎるのです。

金正恩の存在

 朝鮮中央テレビが金正恩が打ち上げを見学した写真を報じました。かつて当サイトで、施設内に建設されたドーム状の建物に関する報道を批判したことがありました(過去の記事はこちら)。ここは謎でも何でもなく、高官らが打ち上げを見学するための施設だと当サイトは主張しました。当時、Google Earth上でこの施設から発射台を見た映像を作成しました(左図)。黄色い線の先端に発射台があります。右図の写真はほぼ同じアングルで撮影されています。奥に見える煙がテポドン2号の噴煙です。

図は右クリックで拡大できます。

 


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