回答期限を過ぎ、人質の安否は不明のまま

2015.1.29


 日本人人質事件の状況は未だ変化がないとみられます。BBCによれば、ヨルダン政府はヨルダン人パイロット、モアズ・カサスバ中尉(1st Lt. Muath Kassasbeh)とイラク人死刑囚サジダ・リシャウィ(Sajida Rishawi)との交換を提案しています。

 ヨルダンは8月に始まった米主導のイスラム国に対する空爆に参加しました。飛行機がシリア北部に墜落し、カサスバ中尉は12月24日に拘束されました。

 BBCのポール・アダムス記者(Paul Adams)は、イスラム国がどのように両方の人質を解放するのを知るかは困難だと報告しました。それは日本とヨルダンを、自らが作ったのではない、国民をとりもどすという、恐ろしい戦いに置いたままにします。

 ヨルダン政府広報官、モハンマド・アル・モマニ(Mohammad al-Momani)は、ヨルダンはカサスバ中尉が解放され、命が救われれば、ヨルダンで死刑を宣告されたイラク人アルカイダ民兵のサジダ・アル・リシャウィ(Sajida al-Rishawi)を釈放する準備があると言いました。広報官は後藤健二氏には言及しませんでした。

 これとは別に、ヨルダンのナセル・ユダ外務大臣(Foreign Minister Nasser Judah)は、ヨルダンはイスラム国にパイロットが生きていて、安全であることを証明するよう要求したと言いました。

BBCの安全保障問題担当

フランク・ガードナー(Frank Gardner)の分析

 イスラム国が提案した取引は、本物であるかを別にして、人質拘束に関する一般的なジレンマの核心へと行き着くと言います。それは愛する者の解放を勝ち取るという要求に従うかということです。火曜日に決断するために最後の24時間を与えられたヨルダン政府は、ひどい立場にあることに気がつきました。イスラム国は有罪を宣告されたイラク出身のアルカイダテロリストの解放を望みます。彼女を釈放することはテロリズムに屈服したとみなされかねません。しかし同時に、多くのヨルダン人は米主導のイスラム国拠点に対する空爆を支援していません。彼らはパイロットが生きてヨルダンに帰り、ヨルダンがイスラム国との戦いに参加しないことを望みます。

 火曜日の夜、パイロットの親類と支援者数百人がアンマンにある首相のオフィスの外で、イスラム国の要求に従うよう抗議を行いました。

 カサスバ中尉の父、サフィ・アル・カサスバ(Safi al-Kasasbeh)は、彼が対イスラム国同盟に参加していることに同意していないと言いました。「モアズが空軍に入った時、彼はヨルダン国外で戦うために入隊したのではありません」「彼は自分はヨルダンの空域を守るヨルダンのパイロットであると考えていました。我々がヨルダン国境の外で戦うために他の国々に参加するとはまったく知りませんでした」。


 記事は一部を紹介しました。

 当初の予想と違い、ヨルダンとイスラム国の間には交渉らしいものはなく、回答期限に至っても、ヨルダンが人質の安否確認をできていない状態のようです。

 極めて危険です。イスラム国の考え方次第では、人質が両方殺されかねません。率直に言って、このヨルダンの対応には疑問があります。カサスバ中尉を取り戻すという最大の希望を自らの手でつぶす可能性があるからです。中尉は12月下旬に拘束されているのですから、安否確認なら、もっと前にできたはずです。イスラム国はヨルダン政府が時間の引き延ばしをしており、これ以上は許さないという意味のメッセージを出しました。その上で安否確認なのですから、これは理解できません。

 イスラム国が妥協し、カサスバ中尉とリシャウィを交換するとしても、それでは後藤氏が人質のままになるか、殺害される可能性があります。また、これではイスラム国にとっても、脅迫する側が被害者の要請に耳を貸すという、今後の人質交渉で足下を見られかねない事態となります。面倒だから、2対1の交換で決着する可能性も低そうです。

 さらに興味深いのは、ヨルダン国民の厭戦気分です。イスラム国への空爆に多くの国民が反対しているのです。

 ヨルダン政府が空爆に参加したのは、安倍総理がアメリカにすり寄るために集団的自衛権を主張するのとは違い、シリア内戦の影響が国内に及ぶ危険を避けるという実質的な国益のためと考えられます。シリアに強大なイスラム国の勢力圏が確立されると、次は自国領土に対する侵攻が考えられます。次に、シリア内戦が片付くことでもたらされる安定のためという理由が考えられます。

 しかし、ヨルダン国民はその公益を理解しておらず、領土が侵攻されない限りは戦う気がないようです。一方で、カサスバ中尉が捕虜となったことで、ヨルダン国民の結束が高まったと報じる報道記事もありました。

 ところで、警視庁の鑑定で、脅迫ビデオに合成などの加工はみられないと結論されたようです。当サイトでは最初から映像は加工されていないと主張してきました(関連記事はこちら)。そもそも、信憑性が重要な脅迫ビデオで、わざわざ合成などを行うわけがないのです。ネット上だけでの騒ぎはいつものことですが、政府内部やマスコミまでが騒いだのは、情けなく、危機管理能力の欠如としか言いようがありません。特に、左藤章防衛副大臣(衆議院議員・大阪2区)には、国防の担当者でありながら、デマに加担した罪、不確かなことを公言した罪があります(左藤氏のホームページはこちら)。はっきり言わせてもらうと、彼は「馬鹿野郎」です。

 


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