脱原発で日本が核保有国になれない?

2014.2.6


 週刊プレイボーイNEWSが今日、「原発を保有する理由のひとつは、他国への“核の脅威”」なる、菅沼慶記者の署名記事を配信しましたが、とんでもない内容なので、注意を喚起しておきます。

 記事は東京都知事選挙の争点である脱原発について、外務省の現役キャリア官僚であるS氏の指摘を丸写しした内容ですが、S氏の話は基本的な部分で間違っており、菅沼記者はそれを垂れ流しにしています。

S氏の意見の問題点

  • 脱原発には国家の安全保障への多大なる影響がある。
  • 脱原発とは“核を放棄する”ということ。
  • 日本は非核保有国の中で唯一、使用済み核燃料を再処理する権利を持っている。
  • 日本は核兵器の原料となるプルトニウムを大量に保持している。
  • 日本はその気になれば、大した準備期間もなく、突然に核保有国宣言できる。
  • 日本は、世界の常識では、イザとなれば即核武装できる。
  • 脱原発になれば、核保有国からは日本の軍事力は竹槍に毛が生えた程度にしか見えない。
  • 特に中国やロシアは、今よりも上から目線の態度に出る。
  • 核武装できなくなると、日本は安全保障面で100パーセントアメリカに依存せざるを得なくなる。
  • アメリカに逆らえなくなる日本は、中東での戦争などに首を突っ込まされることになる。
  • これは経済的にも甚大な負担になる。
  • 日本がイスラム原理主義組織などからテロの標的にされる恐れがある。
  • そこまで想像して脱原発を望むのか。

 現役キャリア官僚S氏の意見のどこがおかしいか、下を読む前に、次の質問を考えてみてください。

広島、長崎に原爆を投下された日本が原発を持っても、国際社会から危険視されないのはなぜですか?。

 答えは、日本の商用原発はすべて「軽水炉」で、武器に転用できるプルトニウム(プルトニウム239の含有量が93%以上)は作れないからです。 逆に問うなら、イランと北朝鮮の原発ばかりが国際社会から危険視されるのはなぜかということです。彼らの原発は黒鉛型で、濃縮ウランを反応させてプルトニウム239を生産できます。だから、危険視されているのです。

 プルトニウムと一口に言っても、同じ原子番号でありながら、原子核の中性子の数が違う「同位体」があり、性質も違います。軽水炉から取り出されるプルトニウム239には240が多く含まれ、239より先に弱い爆発を起こしてしまいます。両者を分離するのは困難です。つまり、軽水炉の原子炉は、苦労しても大した武器は作れないのです。

 威力は弱くても、日本が原爆を作って攻撃する可能性があると考える人がいるかも知れません。この場合、核保有国は日本を核攻撃するしかなくなります。到底、引き合わない勝負であることを明白にするためです。

 そういう訳で、脱原発をやろうがやるまいが、日本は原爆は作れないのです。よって、S氏が言うような、安全保障上の危機は起こらず、自衛隊が中東の戦争に派遣されたり、日本でテロリストが暴れることはないのです。

 外務省のキャリア官僚が、こういう基本的事実を誤認し、そこから誤った国策を導き出しているという事実には戦慄します。以前、石破茂自民党幹事長が似たようなことを述べていましたが、この記事は、その話の発信源は外務省かも知れないことを教えています。(過去の記事はこちら

 さらに言うなら、外国が日本の脱原発を見て居丈高な態度に出ることもあり得ません。自衛隊が中東に行くことも、アルカイダが東京で自爆テロをやることもありません。

 「日本が非核保有国の中で唯一、使用済み核燃料を再処理する権利を持つ」とは、一体どんな権利ですか?。国際条約の中で、そんな特例がなぜ日本にだけ許されるでしょう?。最近は減っていますが、非核保有国でも、核燃料の再処理施設を持っていた国はあります。

 根本的に誤った仮定から、あり得ない未来を想い描き、それを真実と信じ込む人たちが、日本の安全保障問題を牛耳っています。

 大体、自衛隊を海外に派遣したがっているのは、外務省です。何を今さらとしか思えません。偽善の臭いが立ち上っています。

 菅沼記者と編集部は、外務官僚の誤りを質す記事を書くのに失敗したわけです。マスコミがこれだから、政治のレベルも上がらないのです。高級クラブで官僚に酒を飲まされ、ご高説を賜ってくるだけでは、外務省の広報別室にしかなれません。


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