石破茂が「原発をなくすと核抑止力を失う」

2011.10.20


 自民党の政調会長、石破茂氏が脱原発に反対する理由として、原発をなくすると核兵器が作れなくなる、原発があれば1年以内に核兵器を作れる、脱原発では抑止力を失うから反対と述べたという話を耳にしました。

 この石破氏の発言はラジオ番組で聞いたもので、彼の発言を直接読んだり、聞いたりしたのではありません。だから発言の全体像は分かりません。調べてみると、テレビ番組の「報道ステーション」で述べたことだという記述を見つけました。この番組と同じかどうかは不明ですが、YouTubeに同じ主旨のことを述べたと思われる映像があるのを見つけました。

 石破氏が2005年に出版した「国防」(144-145ページ)には、これと正反対のことが書いてあります。

 核に関して言えば、日本では議論することすらタブーになっています。この国は変な国で、核抑止力を正面からちゃんと議論したことが過去にありません。長官であった時には言えなかったのですが、個人的には非核三原則にも疑問があります。しかしそれは、「核を持て」といった勇ましい意味ではありません。私は核を持つことに反対です。

 日本国内でも「核に対しては核で対抗すべきだ」と言う人が一部にいますし、アメリカでもそんな主張をする人がいます。しかし私は、その立場には絶対に立ちません。

 なぜならば、日本が核を持っていいとなれば、北朝鮮が持ってはいけないという理由が何もなくなります。また、NPT(核兵器不拡散条約)から脱退したら、国内でもさまざまな問題がでてきます。

 まず、これまでのような、核燃料の供給ができなくなるでしょう。実は日本の原子力の技術は、自前でやっているものはほとんどありません。核燃料の供給も再処理も、外国の技術でやっているのです。それが全部止まってしまったら、どうするのでしょうか。

 これは石破氏が核兵器について述べた約2ページの中程の部分です。正直なところ、自衛隊を統括した人物がこういう議論を展開していること自体も疑問です。ここで展開しているのは持論みたいに見せかけた基礎知識です。

 NPTについては外務省のホームページの説明を参考にするのがよいでしょう(外務省の解説はこちら)。日本が核兵器を持つことになったらNPTから脱退することになり、そんな日本には核燃料の供給がなされるはずがないことは当然です。当たり前のことを回りくどい表現で述べているだけのことです。これは石破氏の意見の特徴です。

 そして今回、この記述を一切無視して、日本の原子力発電は核兵器を作れる能力を国外に示すことで機能する「抑止力」だったのだと新説を展開しているのです。そもそも核の「抑止力」が本当に存在するのか私は疑問です。アメリカがいくら脅かしても、北朝鮮はテポドン2号を打ち上げました。まして、日本は使用済みの核燃料を保持しているから、核兵器を作れるかも知れないなんてことが「抑止力」として機能するとは、私は考えません。

 少なくとも、核による抑止力を世界に示すためには、核爆弾と運搬手段の両方の能力を実験で証明する必要があります。その期間が1年間という短期間だとも思いません。試作品すら、この短期間には完成しません。 核爆弾を製造する技術開発だけでなく、日本の軽水炉から抽出するプルトニウムは核爆弾を製造するのに適していないという根本的な問題を解決する必要があるからです。それにかかる費用も考えると、日本が核兵器を持つ可能性は限りなく小さくなっていきます。

 石破氏の意見に見られるのは、脱原発論者なんか認めるもんかという強い反発心だけです。政界きっての軍事通と自他共に認める身でありながら、石破氏は理解に苦しむ持論を展開してきました。「国防」に書かれていることをはじめとして、彼の持論に対する疑問は当サイトでも指摘してきました。

 もともと、原発に関しては奇妙な主張がまかり通ってきました。かつてテレビで幅広く活躍した竹村健一氏は「放射能は自然界にもある」と主張し、人間はもともと自然界から放射線を受けているのだから、必要以上に原発の放射能を怖がる必要はないと主張しました。問題は放射線への被曝総量なのに、自然界の放射能を理由に恐怖を和らげようというわけです。この主張は最初から無理があったのに、テレビや本でかなり流布されました。あたかも、放射能を怖がる人は、理論的に考えていない人だといわんばかりにです。天然物なら何でも安全だと言うのなら、フグの身体の中にある猛毒も天然物だと言うべきです。

 こういう無茶な主張は、左翼勢力を何とかして抑えようとする過程で生み出されたものです。しかし、いまや右も左もすっかり様変わりし、重要なのは意見の信憑性だけという時代です。こんな発言は当人の信頼性を落とすだけなのです。



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