反政府派がトリポリの秘密組織と接触

2011.6.27


 BBCによれば、リビアの反政府派はトリポリの反カダフィ派の地下ネットワークと密接な関係にあります。

 この記事の著者は特派員ブリジット・ケンドール(Bridget Kendall)です。

 ベンガジの反政府派暫定国家評議会は彼らが政権崩壊の準備のために秘密交渉を行っていることを明らかにしました。そのメンバーはスカイプや衛星電話を通じて行っていると言いました。

 反政府派はNATO軍の空襲の圧力の影響とトリポリの士気低下をはかりたがっています。それから、彼らはカダフィ大佐を追放するために、トリポリの地下組織を彼らの戦略の中に関与させたがっています。

 彼らは「トリポリ・ファイブ」と、彼らの拠点ベンガジから、毎晩、トリポリの100人以上のネットワークと接触する暫定評議会の5人のメンバー、と呼ばれています。

 彼らはカダフィ政権の監視を回避する方法を見つけたと考えています。暫定国家評議会のアラミン・ベルハジ(Alamin Belhaj)は、スカイプと衛星電話を経由して直接会話するのは、これまで誰も逮捕されていないので安全だと考えています。

 「我々は毎晩1時間くらい話をします。このネットワークは社会のすべての分野を網羅していて、彼らは友人が考えていることや、モスクと街で何が起きたかを教えてくれます」。

 ベルハジ氏は秘密ネットワークを動かすのを助けるために配置されました。彼は、最初にトリポリに拠点を起き、その後にマンチェスターに亡命した、かつて活動を禁止されたリビア・ムスリム同胞団(Libyan Muslim Brotherhood)の主要メンバーとして、30年間にわたり反カダフィ派でした。

 「我々は地下で活動して、よい経験を積みました。30年間、我々は一度も組織に潜入されたことがありません」。

 いま、彼は反政府派のタスクフォースに参加しています。それはカダフィ大佐が倒れる日のためにトリポリの準備を整えようとしています。

 ベルハジ氏は、リビアの指導者に反対する者たちが恐れを減らし、政権が弱体化していると考えています。彼は、仕事に行ったら、担当官が姿を消していたという政府職員の報告に触れました。彼は、沢山いたカダフィを支持する準軍事組織が、どこか他の場所の任務のために引き抜かれたかのように減ったという別の報告を述べました。

 「我々はトリポリで反乱があるだろうと100%確信しています。唯一の問題はタイミングです」。

 反政府派の指導者たちが望まないのは、2月下旬にベンガジでの反乱に続いたパターンを繰り返さないことです。当時、人々が反カダフィのデモ行進を行った時、抗議者は少なく、調整されておらず、簡単に粉砕されました。

 今回は反政府派の指導者たちは、南、西、東からのカダフィ軍に対する軍事的圧迫を首都内部の武装勢力と合致させるために、トリポリの地下組織との接触をよりよく調整しようとしています。彼らは、カダフィ軍が鎮圧のためには引き延ばされすぎることを望んでいます。

 「我々はすべてを一緒にやります」とベルハジ氏は言います。

 しかし、トリポリの地下組織には政権が崩壊した時には大量殺人を避けるという、別の仕事があります。「我々はカダフィは追放される時に何か企むと考えています」「それから、我々は政権を守る(カダフィ派の)革命委員と軍の一部を恐れています。我々はカダフィが権力を失うと起きるかもしれない最悪のシナリオに備える包括的な計画を持たねばなりません」。

 だから、反政府派は専門家や官僚、特に警察官と軍将校に接触していると、彼は言います。彼らは、まだカダフィ大佐に従っていますが、彼がいなくなれば立場を変え、暫定評議会の命令を受けると密かに反政府派に請け負いました。
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 このように、反政府派は、市内での略奪、サボタージュ、全般的な破壊行為を避けるのを期待しています。

 「軍と警察の多くの人々は我々に、今はカダフィの側にいますが、時がきたら我々につくと言っています、彼らは我々に明確にメッセージを与えています」とベルハジ氏は言いました。

 この話は簡単に確認できません。ほとんどは希望的観測か単なるプロパガンダかも知れません。

 ベンガジの反政府派指導者の一部は、軽快されているらしいもの大筋を認めました。他の者たちは、国家安全上の懸念から口を閉ざしました。

 そこで、私はベルハジ氏に、なぜ暫定評議会が望み、計画する秘密の詳細と思われるものすべてをBBC を通じて世界と共有しようとするのかを尋ねました。

 「我々にとって最も危険なのは、人々に情報を開示を提供できないことだからです」「人々は暫定評議会で我々がしていることについて質問するようになっています。我々は政権が崩壊した時のために彼らに準備を整えさせ始めなければなりません」。

 ケンドール記者の記事はここまでです。

 南部の戦線に関する情報が出ました。BBCによれば、前線はトリポリに向けて前進しています。

 首都に至る戦略的要所、バー・アイヤド(Bir Ayad・kmzファイルはこちら)にいるBBC特派員、マーク・ドイル(Mark Doyle)は、カダフィ軍が背後から反政府派を攻撃して切り離そうとした時に日曜日の戦闘が始まったと言いました。砲兵、自動火器の銃声、たまにNATO軍のジェット機の音が遠くで聞こえ、戦闘は離れた場所で起きていました。

 反政府派は6月はじめにナフサ山脈(Nafusa mountains)から平地に降りてきて、トリポリの入り口に近づいていると特派員は言いました。しかし、彼らはカダフィ軍の強い抵抗に遭いました。彼は最前線は移動しているものの、反政府派は西部の山岳地帯での位置を徐々に強化しているように見えると言いました。現在の最前線は、ちょうどバー・アイヤドの北からバー・アル・ガンナン(Bir al-Ghanam・kmzファイルはこちら)の近くまでの間と考えられています。AFP特派員は近くでロケットと機関銃の激しい発砲音を聞きました。反政府派広報官、グマ・エル・ガマティ(Guma el-Gamaty)はAP通信に、バー・アル・ガンナンは、トリポリの西の入り口、ザウイヤ(Zawiya・kmzファイルはこちら)の30km南にあるために重要だと言いました。反政府軍の防衛大臣、ジャラル・アル・デヘリ(Jalal al-Dgheli)はBBCに、彼らの兵器が非常に限られているため、それらのほとんどは西部山地からトリポリへ向けての圧迫に集中していると言いました。しかし、近い将来にブレガ(Brega・kmzファイルはこちら)付近の東方からトリポリへ前進があるかもしれないと言いました。「カダフィから離反した者たちから学んだところでは、カダフィの支持者たちは次第に減り、彼に近い者たちは彼を捨て、彼の側近グループは日ごとに小さくなっているということです」と彼は付け加えました。

 リビア政府はカダフィ大佐が権力に留まるかどうかを投票で決めるという提案を再開しました。カダフィ大佐の広報官、ムーサ・イブラヒム(Moussa Ibrahim)はトリポリの記者たちに、政府は国家的対話の期間と国連とアフリカ連合に監督される選挙を提案したと言ったと伝えられました。「リビア国民がカダフィが去るべきだと決めるなら、彼は去ります」「国民が彼が留まるべきだと決めるなら、彼は留まります」。

 さらに、BBCがトリポリのカダフィ大佐の住居付近の衛星写真を掲載し、どの程度破壊されているかを公表しました。写真の中の資格をクリックすると、さらに拡大した写真を見られます。


 ケンドール記者が書いた記事は、非常に興味深い内容です。

 まず、記者の態度が冷静です。ベルハジ氏の話を紹介しながらも、自身では確認し得ないことなので、そのことを明記し、さらに事実でない可能性にも触れています。さらに、別の反政府派に裏を取ろうとしています。先日紹介しましたが、日本のメディアは官僚から聞いた話を事実としてそのまま書き、しかも読者に判断の余地を与えようとしません(関連記事はこちら)。ケンドール記者の態度は、多くの西欧のメディアに見られるものです。私は早く日本のメディアも、こういう基本的な取材態度を身につけて欲しいと思っていますが、いつもの居丈高な態度は改まる様子もなく、それは国民の世論や選挙への態度に悪影響を与えていると、私は考えています。

 次にベルハジ氏の話が真実かどうかです。本当なら、反政府派の勝利は疑いがないところです。しかし、この記事は直接的な証拠では証明できません。

 それでも、私はベルハジ氏の話は事実だと思いました。もちろん、彼の話は秘密にすべきことを公表している訳で、疑うに十分な理由もあります。それでも、私は信じる理由があると考えます。

 まず、三方からトリポリを攻めるときにトリポリ市内でも反乱を起させるのは、敵の戦力を分散し、味方の戦力を集中する点で合理的です。ベルハジ氏が言うようなことは軍事作戦の常道です。むしろ、こうした工作をやっていない方がおかしいと言えます。

 トリポリのカダフィ派が、反政府派につく意志がありながら裏切ろうとしないのには理由があります。地方のリビア軍は、生活が地元に根ざしているので、裏切りやすいのです。裏切っても、カダフィ軍は遠征して、その土地を占領しなければ報復できません。しかし、トリポリに生活基盤がある者は親族に危害が及ぶのを心配して動けないのです。

 スカイプと衛星電話の通話をリビア政府が解析できない可能性は十分にあり、特に不思議ではありません。インターネットは遮断されているといいます。ロイター通信によると、リビア政府はインターネットや携帯電話のメールサービスを遮断したといいます。多分、衛星電話でインターネットに接続し、スカイプで通話すると、リビア政府には盗聴できないのでしょう。

 さらに、暫定評議会のメンバーの反応があります。否定する者がおらず、大筋を認めたことは、話が本当であることを不十分ながら裏付けています。

 他の戦域の動きも、ベルハジ氏の話と矛盾しません。カダフィ大佐は東、西、南から徐々に締め付けられています。ウォールストリート・ジャーナルは米当局者の話として、カダフィ大佐がトリポリを脱出することを考えていると報じました。これはカダフィ支持派を攪乱するための情報戦かもしれませんが、本当ならば、相当な圧迫を大佐が感じていることになります。彼が首都を離れれば、それは反政府派の勝利と同じことです。「首都を離れない」と言っていたカダフィ大佐の言葉が嘘であることが明らかになれば、彼の部下たちの緊張感は一気に解け、政権は崩壊してしまいます。

 理想的なのは、首都攻防戦が起きずに勝敗が決まることです。現在やっていることは、そのための準備なのです。カダフィ政権が選挙を提案しているのは、単なる時間稼ぎのためであり、民主主義のためではありません。「対話」や「選挙」といった単語に目を奪われることは、それこそ民主主義を失う原因になります。



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