イランは無人機を返却しない

2011.12.12

 military.comによれば、イランの革命防衛隊高官は捕獲したアメリカの無人偵察機を返却しないと言いました。

 革命防衛隊の副指揮官、ホセイン・サラミ大将(Gen. Hossein Salami)国営放送で放送された発言の中で、米無人機によるイランの空域侵害は敵対行動であり、より大きな対応で警告されたと言いました。彼はテヘランが何をするかについては述べませんでした。「誰も国の国家安全保障に関連する秘密の致命的な情報を探す当事者に侵略の象徴を返却しません」とサラミ大将は言いました。

 イラン国営放送は、無人偵察機はアフガニスタン国境から約140マイル(225km)にある東部の街、カーシュマル(Kashmar・kmzファイルはこちら)の上空で探知されたと言いました。

 サラミ大将はその捕獲を、複雑な諜報と技術の戦いにおけるイランの勝利、アメリカの敗北だと言いました。「イランは無人機の分野で最新技術を持つ数少ない国の一つです。イランとアメリカの技術格差は大きくはありません」と彼は言いました。

 革命防衛隊の将校は以前に、同軍が電子的な待ち伏せで偵察機を撃ち落とし、最小限の損害だけを引き起こしたと主張しました。匿名を希望する米当局者は、情報評価はイランは無人機を撃墜も、電子的、サイバーテクノロジーもしていないことを示すと言いました。

 サラミ大将は航空機を捕獲したというイランの主張について詳細を提供することを拒否しました。「情報戦で勝利した当事者はその方法を明らかにしません。我々は迎撃、制御、発見、撃墜に用いた方法を詳しく言えません」。


 無人機を返却しないという主張は当然です。しかし、それよりもイランが無人機を地面に降ろした方法が気になります。

 アメリカが言うとおりに、故障によって墜落したのなら、もっと機体は損傷するはずです。見たところ、機体には左の翼の前面に小さなへこみがある程度です。あり得ないこととは言えませんが、これほど小さな損傷で墜落することは考えにくいことです。実験中のプレデターが墜落する映像を見ても、機体が無事とは考えられません。

 水中に落下した場合は、機体はあまり損傷しないようですが、カーシュマル付近には大きな湖はなさそうです。

 「電子的な待ち伏せ」は通信傍受とレーダー探知の両方かいずれかを連想させます。無人機は雲程度の反射しかレーダー波を反射しませんが、レーダーは感度を変えられます。気象観測用の雲レーダーは雲が写るくらいに感度を上げたレーダーで、航空管制用のレーダーは雲は邪魔なので、感度を下げてあります。気象観測用のレーダーで無人機を探すと、雲の中に変な動きをする点を見つけることができるのかも知れません。

 しかし、点を見つけられても、地上に降ろすには、銃撃するか、ハッキングで乗っ取るかしなければなりません。RQ-170の仕様は不明ですが、通信は人工衛星を経由しているはずで、それに侵入するのは難しそうです。それでも、イランは過去に無人機が送信したビデオ映像を傍受したことがあります(記事はこちら。)。これは暗号化されていなかったために起こりました。

 イランが感度のよいレーダーで無人機を探知し、妨害電波を送って無人機の操縦を失わせ、無人機が水面に墜落すれば、今回のような事態は生じるかも知れません。しかし、この推測が当たっているかどうかは判断しようがありません。

 さらに疑問なのは、アメリカが機密保持のためにRQ-170を自爆させなかったことです。もともと、RQ-170には自爆装置がついていないのか、故障によって自爆装置も故障したか、イランの妨害電波で操作が行えなかったのかのいずれかでしょう。



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