有人機がパキスタン領内を空爆

2010.9.29

 military.comによると、NATO軍のヘリコプターがアフガニスタン東部で珍しい大規模な空爆を行い、50人以上を殺害しました。同時に、国際部隊はカンダハル周辺からタリバンを追い出す主要な作戦フェーズを開始しました。

 越境した空爆は、武装勢力が国境に近いアフガン軍の小さな前哨基地を攻撃した後に行われ、NATO軍は攻撃は自衛権に基づいて正当化されると主張しました。パキスタンは自国内での攻撃に神経質ですが、米当局は目標の緊急越境追跡中(hot pursuit)にパキスタン空域内に数マイル横断するのを認める合意があると言いました。

 最初の攻撃は土曜日にパキスタンに拠点を置く武装勢力が、北ワジキスタンの部族地域(North Waziristan tribal area)コースト州(Khost province)のアフガン軍前哨を攻撃した後で行われました。この攻撃で49人の武装勢力が殺害されました。

 二番目の攻撃はヘリコプターが国境地域へ戻り、武装勢力に小火器による直接攻撃を受けた時に起きました。部隊は再び自衛権を発動し、武装勢力と交戦しました。この攻撃は少なくとも4人の武装勢力を殺害しました。

 一方、南部の国際部隊とアフガン軍は、カンダハル周辺の2、3ヶ所の地域へ移動しつつあります。市北西部のアルガンダブ地区(Arghandab district)の首長モハマンド・アーマディ(Mohammad Ahmadi)は、一度に圧迫するので、タリバンに逃げるチャンスはないと言います。「以前に我々がタリバンを駆逐しようとしたとき、ひとの地域を掃討すると、別の地域により多くのタリバンを見つけました」とアーマディな言います。

 NATO軍高官は土曜日に、数日前に連合軍は、武装勢力の地域を掃討し、彼らが自由に移動して、攻撃を行う能力を阻止するのを狙った、カンダハル周辺でのアフガン軍との合同作戦「ドラゴンの攻撃作戦(Operation Dragon Strike)」の戦闘フェーズを開始したと言いました。

 NATO軍広報官は「航空支援を伴う重要な地上戦です」「我々は激戦だと予測しています」「アフガン軍と連合軍はタリバンの守備位置を破壊しているので、彼らは隠れるところがなくなるでしょう」「これが終われば、武装勢力は地域を離れるか、戦って殺されるかを強いられるでしょう」と広報官は言いました。

 NATO軍は、武装勢力がRPG(rocket-propelled grenade)や小火器で反撃し、連合軍に死者は出ていないと言いました。

 その他のテロ攻撃も記事には載っていますが省略します。

 なお、military.comによると、パキスタンはNATO軍の空爆を非難しました。

 パキスタンは月曜日に、緊急越境追跡で2〜3km越境できるというNATO軍の主張に反論し、そのような合意の存在があることを否定し、空爆を批判しました。パキスタン外務省はプレス・リリースで、アフガンにいる外国部隊の権能は、アフガン国境で終わっており、攻撃は主権侵害であり、是正措置が用意されない限り、対応策を検討しなければならないだろう、と言いました。

 最初の攻撃の49人という数は、ヘリコプターに搭載されたガンカメラで得られたと、ISAF広報官は言います。コースト州の警察本部長アブドゥル・ハキム・イシャクジ(Abdul Hakim Ishaqzie)は、武装勢力が逃げたので、空爆はパキスタン側で起きたけども、彼らは行って、死体を数え、戦場から弾薬や武器を収集できたと言います。

 パキスタン情報当局は、2機のNATO軍のヘリコプターが月曜日朝にパキスタン領内で3回目の攻撃を行い、武装勢力5人を殺し、9人を負傷させたと言いました。攻撃は、アフガンのパクティア州(Paktia)とナンガルハル州(Nangarhar)に直接つながるクラーム部族地域(Abdul Hakim Ishaqzie)のマタ・サンガル(Mata Sanger)で起きたと、匿名の当局者は言いました。

 NATO軍は、それを直ちに追認しませんでした。

 パキスタンの強い抵抗は、北ワジキスタンでの無人機による攻撃に対する抑制された抗議と対照的です。パキスタンは、月曜日に北ワジキスタンの主要都市ミル・アリ(Mir Ali)で起き、4人を殺した、無人攻撃機と疑われる、今月20回目のミサイル攻撃について抗議しませんでした。パキスタンは過去に無人機の攻撃を主権侵害だと非難しましたが、ここ数ヶ月で鎮まりました。パキスタンは、あまりにも頻繁に起こるので、CIAと考えられる無人機の攻撃にすべて抗議する必要を感じなくなった可能性があります。しかし、有人機よるパキスタン領内の攻撃は、極めて希です。


 私には、死者数が最初の攻撃は「49人」、二番目が「4人以上」といったのが腑に落ちませんでした。1回目は人数を実際に数えたようなのに、2回目は概数のようなのです。アフガン警察が現場に行き、調査したのなら納得ですが、先に報じられたアフガン人による秘密部隊が確認したのではないかを、つい勘ぐってしまいます。

 緊急越境追跡は、犯罪者やテロ組織の追跡のために、短時間かつ短距離の範囲で、限定的に国境を越えることです。アメリカやアフガンとパキスタンの間で、どのような協定を結んでいたかが分かりませんが、事前に約束があれば、NATO軍の言うとおりです。

 近年では、トルコがイラク領内のテロ組織の攻撃のために、緊急越境追跡を持ち出し、アメリカはトルコに不快感をしたこともあります(記事1記事2記事3記事4)。トルコの越境は数百人規模で、計画性が感じられ、緊急越境追跡が適用される事例とは言い難い面があります。今回の事件もそうですが、緊急越境追跡が対テロ戦のために拡大解釈される傾向があるのです。

 協定があっても、直ちに相手国に通告するのが望ましく、この記事にはNATO軍がパキスタンに通告したとは書いていません。トルコに対しては、通告がないことに憤慨したことがあるのに、自分は通告しないでは、筋が通りません。現場に行かせたのがアフガン警察と発表されているのは、緊急越境追跡と説明するためでしょうが無理があります。

 このように、対テロのためなら、法を無視するとか、拡大解釈して適用するといった、悪しき習慣が世界に蔓延していることを、我々は認識する必要があります。


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