マルジャ攻略まで数週間の見通し

2010.2.15


 military.comによれば、海兵隊の現地指揮官、ラリー・ニコルソン准将(Brig. Gen. Larry Nicholson)がマルジャの戦いは数週間続くという見通しを示しました。

 しかし、それは激しい銃撃戦を意味するのではなく、掃討活動の30日間となり、それよりも前に終わらせられるだろうと、ニコルソン准将は述べました。海兵隊とアフガン軍の部隊はマルジャの大半を占拠しましたが、銃撃戦は武装勢力の塹壕がある包囲された小地域で継続しています。狙撃兵の発砲でニコルソン准将は市の北部にある、第6連隊第3大隊L(リマ)中隊の最前線にある土手の陰に身を潜めました。「この発砲は、非常に機動力のある個人の小グループが作る散在する小さな包囲地域を、私がどう進むかを反映しています」と准将は述べました。IEDの数は非常に多く、ニコルソン准将は予想していたよりも多いIEDを発見したと述べました。金属探知機と爆薬捜索犬を使い、米軍は家から家へと爆発物の隠し場所を発見しています。放棄されたばかりで、手榴弾のブービートラップが仕掛けられた狙撃場所も発見されました。2カ所から爆弾の主成分である硝酸アンモニウムが約8,800ポンド(4,000kg)発見されたと、海兵隊の広報官ジョシュ・ディダマス大尉(Lt. Josh Diddams)は述べました。大尉は攻撃の性質が最初から変わったと述べました。「我々は現在、市の大部分に位置しています。我々は武装勢力が実際に防衛陣地を設けている場所に出くわし始めています。最初、多くは撃破し、逃走しました」。

 少なくとも2つのシューラ(イスラムの会議)を、北部のナド・アリ(Nad Ali)とマルジャのその他の場所の住民が開催しました。議論は有益で、さらなるシューラが地域社会のNATOの任務への支援に志願する拡大した戦略の一部として開催される予定です。

 アフガニスタン当局は、日曜日に少なくとも27人の武装勢力が死亡したと述べました。多くのタリバンは圧倒的な兵力に直面して散開しましたが、アフガニスタン南部で政府の統治を拡大する同盟軍の裏をかくために再編成して攻撃を待っていると見られます。米兵1人、イギリス兵1人が第1日目に戦死し、民間人が少なくとも7人負傷したとアフガン当局が発表しました。土曜日の夜明け前、30機以上の輸送ヘリコプターがマルジャの中心部に部隊を輸送しました。イギリス軍、アフガン軍、米軍は泥レンガの街、ナド・アリ地区を北に向けて、扇形に展開しました。ゴードン・メッセンジャ少将(Maj. Gen. Gordon Messenger)は、散発的な抵抗だけで地域を確保したと述べましたが、タリバンの広報官は戦士たちはまだ街を支配していると主張しました。少なくとも街の4カ所で戦闘を行った第6海兵連隊第3大隊の指揮官ブライアン・クリスマス中佐(Lt. Col. Brian Christmas)は、若干の激しい戦いに直面しました。同大隊のK(キロ)中隊は抵抗に遭うことなく投入されましたが、着陸地点から扇形に展開したところで激しい抵抗に遭遇しました。

 ワシントン・ポストが、大きな誤爆事件を報じています。高機動ロケット砲システム(High Mobility Artillery Rocket System)から、ナド・アリにいる武装勢力に向けて発射された2発のロケットが300ヤード(274m)も目標を逸れて家屋に着弾し、12人のアフガン人が死亡しました。民間人の犠牲を最小限にするよう求めていたカルザイ大統領はこの事件の調査を要求しています。大統領広報官のワヒド・オマル(Wahid Omar)は、大統領がこのニュースにひどく狼狽したと述べています。「大統領は再三、本当の勝利は人々を獲得すること、人々を守ること、人々によりよい未来という希望を与えることが、この作戦における現実だと述べていました。スタンリー・マクリスタル大将(Gen. Stanley A. McChrystal)は、事件を謝罪し、調査が終わるまではこのロケットを使用しないと述べました。「我々はこの悲劇的な犠牲を深く遺憾に思います。「中央ヘルマンドでの現在の作戦は、保安と安定をアフガニスタンのこの不可欠な地域に戻すことを目的とします。我々の共同の努力の最中に、無辜の命が失われたことは残念です」。オマル広報官は、カルザイ大統領はできる限り空爆撃を行わないように求めており、140回の空襲の要請の中で6〜7回が実行され、空爆が避けられないことにも触れています。(ウィキペディアによるHMARSの解説はこちら

 作戦は大体、13日付けの記事で予測したとおりに進んでいるようです。外縁部へ到達するまでは素早く動けますが、そこから先は時間がかかるのです。30日間を予定し、それよりは早く終わるだろうという予測も打倒だと感じます。あちこちにIEDが仕掛けられていることから、敵を攻撃するよりも前にIEDを探知し、それを除去するために排除すべき敵がいるかどうかを判断し、それから戦術を考えるのですから、任務の進行には自ずと時間がかかるのです。報道もごく一部の戦闘を説明するだけとなり、掌握するのは難しくなりますが、我々はそこから戦闘の状況を知るしかないのです。作戦は今のところは順調に進んでいるようです。今朝のCNNは作戦は成功か失敗かと報じていましたが、現段階では評価のしようがありません。戦術面での成否は、特に問題視するべきこともなく、標準的な進展とみておくべきですが、今後、タリバンが市民を人質にして、攻撃を遅延させる可能性があります。1日付けの記事で紹介したように、敵は米軍の交戦規定を利用しているのです。女性や子供を近くに置いて戦ったり、発砲してから武器を捨てて立ち上がることで、米軍が交戦規定上、発砲できない状況を作り出しています。米軍は兵士に発砲するには合理的な確証を求めており、マクリスタル大将は特にそれを徹底しています。成否の評価はもっと長期的に考える必要があります。この作戦の最終的な評価は、現地の治安と行政サービスが回復するかどうかにかかっています。仮に、一時的にアフガン政府の統治が回復しても、政府内の汚職に嫌気がさして住民がタリバン支持へ戻ってしまう可能性もあり、それは数年経過しないと分かるものではありません。

 航空支援や砲撃は制限するとはいいながら、米軍のレベルでの制限は並の軍隊程度の火力だろうと想像します。そのためか、高機動ロケット砲システムによる民間人の誤爆事件が起こりました。記事によって着弾の偏差が300ヤードと300mと、単位の違いがあるようですが、大体300mずれたと考えてよさそうです。HMARSはMLRSとほとんど同じシステムで、MLRSが使う多種類のロケットを発射できますが、どれを発射したのかは記事に書かれていません。子弾を沢山持つクラスター弾は、国際的な批判を巻き起こすために使わないでしょう。単一の爆薬のみの弾頭だと、90kgのHE(高性能爆薬)を搭載した、GPS誘導ができるM31が有力候補です。これが300mもずれたというのなら、かなり不運だったといえます。(参考:globalsecurity.orgに掲載されたMLRSのフィールドマニュアル

 しかし、目標から着弾地点までが300mとすれば、これはあまりにも近すぎるように思われます。榴弾砲の場合でも、友軍から300mの位置は攻撃しないものです。まして、ロケットは後述のとおりに、精度が低い兵器です。住宅地の近くへは砲爆撃を行わないのがマクリスタル大将の方針だったはずです。155ミリ榴弾砲のM795の場合、約10kgのTNT火薬を搭載していますが、M31は同じTNT火薬を90kgも搭載しています。人家の300mの位置にM795を撃ち込んだと聞いても危険だと感じるのに、ましてM31を使用したとすれば、無謀だとしか言えません。

 事件を調査しても、根本的な解決策は見当たらないかも知れません。ロケットは元々、広範囲を一気に制圧するための兵器です。1発で1〜2百m四方に子弾を何百個もばらまいて制圧するのがクラスター弾の特徴です。しかし、それを運搬するロケットは風の影響を受けやすいともいわれ、迫撃砲や榴弾砲に比べると精度の低い兵器なのです。GPS誘導でも榴弾砲や迫撃砲なら、最近は自由落下させるのではなく、砲弾に取り付けられた翼で弾道を精密に修正できる高価な榴弾M982「エクスカリバー」も実戦配備されています。M982のCEPは10mといわれており、これこそマルジャ戦に最適の兵器と思えます。昨年6月にヘルマンド州に派遣され、12月に帰国した第11海兵連隊の砲兵隊が、最初にM982を使用したことをmilitary.comが報じています。当然、マルジャ戦に参加している部隊もM982を持っているはずです。


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