アフガン版の「ハート・ロッカー」

2010.2.2


 military.comによると、アフガニスタン南部で活動している米海兵隊員の間に感情的な問題が起こっています。

 ヘルマンド州のタリバンの拠点、マルジャ(Marjah)に近い基地で、怒り、欲求不満、復讐への渇望がアフガニスタン南部の海兵隊で高まっています。それは、IEDの多用と交戦規定を利用したタリバンの戦い方に起因しています。

 第6海兵連隊のアーロン・マクレーン中尉(First Lt. Aaron MacLean)は、「多くの欲求不満が生まれました。部下は復讐を望んでいます。これは当然です」と言います。「しかし、私は部下に、規則は理由のある規則だと言い続けています。我々が怒って、何にでも撃ち始めたら、結局、我々は大衆の支持を失って戦争に負けるだろう、と」。彼も欲求不満を感じており、タリバンが女性と子供を盾に使ったり、武器を捨てて、姿が見える場所に立つ前に発砲し、交戦規定を巧みに利用するのを非難しました。「彼らは、我々が銃を持っていない者や確証なしに発砲できないのを知っているのです。彼らはいま我々と違うレベルで戦っています」とマクレーン中尉は言います。彼は最近、マルジャの近くで、自分の部隊を率いて定期的な徒歩のパトロールを行いました。彼らはタリバンの激しい銃火に曝され、3時間くぎ付けになり、2人を失いました。ある伍長がIEDを踏むと、彼の両足は吹き飛び、彼は数ヤードも空中に飛ばされました。さらに、伍長を助けるために軍曹が駆けつけると、銃弾が雨あられと飛来して、軍曹を殺しました。この戦いで他にも3人が負傷しました。これは、オバマ大統領が昨年12月に新しい増派を発表して以来、海兵隊が最も大きな損害を出した日になりました。1月に、アフガンでは米軍とNATO軍の兵士44人が死亡し、8年間の戦争で最大の月となりました。比較して、2009年の1月は25人でした。米軍情報当局者は、IEDは外国軍の90%以上の命を奪っていると言います。

 記事の後半は省略します。これまでIEDが原因の死傷率は75%といわれていましたが、戦死率90%(死傷率ではない)という数字が出ました。受け入れがたいほど大きな数字です。アフガンはイラク以上にIEDによる損害が出ているのでしょうか。アフガンの戦死に関して詳しく調査する必要を感じました。

 軍服を着ない武装集団を相手にした戦いでは、攻撃側が相手が武器を持っているかどうかを確認することが求められます。軍服を着用しない敵でも、公然と武器を携帯していれば、ジュネーブ条約(国際人道法)上の「戦闘員」と認め、そうでない者は「民間人」として、攻撃の対象にしてはならないのです。米軍はそれを守ろうとし、タリバンは逆に利用するわけです。空爆が半ば無差別的に爆撃して被害を多く出しているのに、陸戦では生真面目に規則を守ろうとするのは変に見えるかもしれません。タリバンはそれを利用して、発砲したら銃を置いて立ち上がり、米兵が攻撃を躊躇するのを期待するのです。

 これで海兵隊員が苛立つのは当然ですが、これがゲリラ戦の特徴だと割り切るしかありません。人類はようやく戦争を防止する手段として、ジュネーブ条約を考え出し、戦争にルールを設けたのです。同時多発テロ以降、ジュネーブ条約を守るべきアメリカが、多くの違反行為を行い、人類の英知を傷つけてきました。イスラム武装勢力には、このジュネーブ条約を守ろうとする意志はなく、好き放題にやられているのです。こうした挑発に乗るべきではありません。ジュネーブ条約がない十字軍時代には、イスラムには人道的に捕虜を扱った英雄サラディンがいましたが、そんな人は現代にはいません。

 こうした環境の中では、タリバンは積極的にジュネーブ条約を利用しようとします。マクリスタル大将は、タリバンが人質として民間人を手元に置いて戦闘を行う場合、民間人が逃げる余地を残すため、完全に包囲をしない方針です。このため、タリバンが女装して逃げたという事例もあります。ルールの抜け道を利用するのは、ルールを守るよりも簡単なので、決定的な対処法はありません。

 しかし、ここに来て、こうした感情的な問題が起こるのは、派遣回数の多い兵士が増えたためかも知れません。戦闘を重ねすぎると、捕虜を虐待する兵士が現れることがあります。なにか大きな事件が起こらないか心配です。


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