朝鮮半島有事に自衛隊を派遣?

2010.12.14

 連合ニュースが、菅直人首相の「朝鮮半島有事の自衛隊派遣」について、韓国政府高官の冷ややかな反応を報じています。

 記事から韓国当局者の反応を箇条書きにまとめました。

どういった脈絡で出たものかよくわからない。
おそらく深く考えて述べたものではないだろう。
日本国内でも批判論が出ていることに言及。
日本もそうした計画を持っているのではないだろう。
(韓日米間で)戦略的疎通を強化しているものはある。
自衛隊派遣まで協議する状況ではなく、韓日間でも深い話し合いはしていない。

 military.comによると、韓国が実弾射撃演習を再開したのに対して、北朝鮮は核戦争で恫喝しています。射撃演習は月曜日から火曜日まで、27ヶ所で行われます。

 北朝鮮は平壌への圧力を増加させ続けるために韓国がアメリカと日本と協力したと非難しました。その協力は「南北の緊張を拡大し、朝鮮半島を覆う核戦争の暗雲をもたらす背信以外の何者でもない」と、平壌の主要な労働新聞が朝鮮中央通信社のコメントとして伝えました。


 当サイトでは、駐韓米軍の家族や駐韓米人は脱出の用意をしていないという記事を先に紹介しています(過去記事はこちら)。

 韓国メディアも菅総理の発言を酷評と報じられています。なぜこうなるのかが分かっていれば、菅総理もこんな発言はしなかったでしょう。

 日本人がどう思おうと、韓国人から見れば、これは日本が朝鮮半島の動乱に乗じて、軍隊派遣の前例を作ろうとしているようにしか見えないのです。かつて、日本が朝鮮半島を支配したことを、彼らは忘れていません。日本人はすっかり忘れているようです。

 また、南北朝鮮を合わせても日本の人口には及びません。彼らは日本からプレッシャーを受けているのですが、日本人は朝鮮半島からのプレッシャーばかりを感じています。大統領にもなった金大中氏が日本でKCIAに拉致された時、日本政府が主権侵害だと韓国政府を批判したところ、「我々が共産主義者と戦っているときに、日本は後ろから刺すのか」という返事が返ってきたという話があります。韓国の立場になってみると、北朝鮮や中国という圧力を受けている中で、日本に背後で変な動きをして欲しくないのです。

 先日、北朝鮮問題で韓国と戦略的な連帯を築くべきだと私が主張したのには、こういう理由があります。日本の北朝鮮問題に対する立場を明確にして、韓国に疑いを持たせないことで、統一後の影響力をごく自然な形で維持していくのです。だから、日本は「後ろからアメリカと協力して韓国をバックアップします」と言っておくのが得策なのです。ここで韓国の国益のために、なぜ日本の税金を使うのかという声をあげるのは意味がありません。米軍基地を置くことで、すでにそのために散々金を使っているのですから。

 しかし、そうすることで危険はないのかという疑問の根拠が、北朝鮮が核戦争による恫喝を続けている点です。北朝鮮が核兵器と、その運搬システムを完成させたかは謎のままです。実戦配備されているノドンミサイルがあるのは間違いありませんから、それに搭載できる核爆弾を完成させていたら、北朝鮮は核攻撃能力を持っていることになります。その場合、日本の米軍基地に向けて核ミサイルを発射する危険は考えておかなければなりません。北朝鮮のミサイル技術のレベルからして、ミサイルは目標を大きく外す危険もあります。核爆弾の効力範囲からしても、攻撃を受ける可能性のある範囲は極めて広くなります。横須賀の米海軍基地を狙った核爆弾は東京に被害をもたらすかも知れません。

 しかし、現在の段階では北朝鮮の発言は口で言うだけのレベルです。日本の発言も同じです。だから、とにかく発声するのが大事なのです。北朝鮮がテポドン2号を発射する準備を始めたとき、アメリカは迎撃すると言い、実際には迎撃をしませんでした。このように、初期段階では言葉による攻撃が行われるものです。菅総理は、事態のレベルをよく理解せずに発言したように思えます。

 民主党の欠点は、自民党がやってきた防衛政策の後を追いかけていることです。邦人救出に政府専用機を使うという話にも、自衛隊の海外派遣の実績を作るためという裏話がつきまとってきました。自民党の防衛政策がよかったかと言えば、疑問符がつくことばかりでした。自衛隊には目的のよく分からない装備品もあり、防衛白書は読んでも理解しがたく、防衛産業との黒い癒着については自浄能力はまったく期待できませんでした。民主党が新しい防衛態勢を創造すべきなのに、そういう努力がみられません。あるのは、自民党の防衛政策を追いかけるだけで、防衛政策を行っていると錯覚することだけです。変えるべきところは沢山あるはずなのに、気がついていないのです。この問題は当面、解決されることはないでしょう。



Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.