延坪島砲撃事件は次の段階へ移行中

2010.12.1

 事件は第二段階へ進んでいるようです。今回はニュースと私のコメントを併記します。太字がニュース部分です。

 ボロダフキン外務次官が韓国の駐ロシア大使と会談し、「人的被害を出した北朝鮮による韓国への砲撃は非難されるべきとの立場を確認した」と述べました。

 北朝鮮を名指ししての批判です。意外と早かったですね。報告書を出すよりも、こちらの方が簡単ですし、いち早く味方につくことで報告書の話を韓国に忘れてもらうことにもつながります。こうして周辺国の反応が一回りすると、次は北朝鮮が次の手を打つ番です。

 30日付の労働党機関紙・労働新聞は論評で、北朝鮮が軽水炉の建設を進めており、数千基の遠心分離機を備えたウラン濃縮施設を稼働させていると確認しました。北朝鮮の公式メディアが報じたのは初めてです。 

 北朝鮮は外国人科学者に施設を公開するだけでなく、党機関誌でもウラン濃縮を認めました。また、北朝鮮が恫喝のレベルを一歩上げました。しかし、2千基程度の遠心分離器では、核兵器を作るにはかなりの時間がかかります。韓国にとっても、いまは核兵器よりも砲撃事件の方が印象が強く、この脅しはあまり効果を生まないでしょう。

 北朝鮮の崔泰福労働党書記(最高人民会議議長)が30日に北京に到着しました。延坪島事件について意見交換するものとみられます。

 中国はこれまでの経緯を時間をかけて説明し、形勢が悪いことを伝えるでしょう。韓国政府が不愉快に思うほど中国は慌ただしく韓国に特使を派遣し、代表者会議の開催を求めましたが、韓国の反応は冷淡でした。中国の報告は北朝鮮に次の行動を促します。現在行われている演習に手を出すほど北朝鮮に自信はありません。別の方法、別の地域を選んでくるはずです。

 韓国の崔成竜(チェ・ソンヨン)拉致被害者家族会代表は、国内情報機関と北朝鮮内部の情報によると「今回の北朝鮮の延坪島砲撃挑発に対する韓国軍の対応過程で、茂島とケモリで北朝鮮軍1人が死亡し、2人が重傷を負った」「死亡した北朝鮮軍はケモリ海岸砲基地および茂島基地にいた兵士であり、重傷を負った2人の北朝鮮軍は現在入院治療中だが、命が危ない」と言いました。李弘基(イ・ホンギ)合同参謀本部作戦本部長は23日に「少なくとも10人以上の北朝鮮軍が死亡と推定」と述べていました。

 砲撃の成果は、どこに命中したか、目標が露出していたか、などにより大きく左右されるものです。崔家族会代表と李作戦本部長の主張はいずれも違和感はありません。砲弾が命中した場所や施設の破壊具合は偵察で分かっても、何人を死傷させたかは内部情報を収集するしかありません。被害を隠蔽するために、敵が偽情報を流すこともあります。榴弾砲は何人を確実に殺すという目的のためには使えません。韓国人が4人死んだから、北朝鮮人も4人以上死ぬべきだと考える必要はないのです。

 military.comによれば、アメリカは今のところ、韓国にいるアメリカ人を非難させる予定はありません。状況が悪化すれば、米大使は不要な人員を非難させますが、米大使館はそのような計画はないと言います。

 米韓合同演習の間は、まだ砲撃の成果が明確ではないこともあり、正面切って戦う能力もないので、北朝鮮は大きな動きは見せないでしょう。西海5島付近で似たような恫喝を行う可能性は低いと想いますが、ここで今年2回も事件を起こしたのは、境界線が不明確だという不安定要素を利用してのものでした。過去の事例を見ると、他の地域で同じように文句をつけられそうな場所を選んでくると考えられます。非武装地帯で起きた「ポプラの木事件」も、北朝鮮人が育てていると主張するポプラの木に対して、韓国軍が定例の枝切りを行おうとしたところ、殺傷沙汰に及んだものでした。韓国軍と米軍は、西海5島付近だけを警戒するのではなく、こうした衝突の種を含む地域を探して、どんな方法が用いられるかを検討すべきです。我々の感覚ではなく、飢えた北朝鮮人の視点が必要です。



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