ロシアがアフガン戦支援を強化

2010.11.12

 military.comによれば、NATO軍は、装甲車両がアフガニスタンを出入りするのを認めるように現行の輸送合意を拡大することを含む、アフガン戦争におけるロシアとの協力を模索しています。

 これは、装備品が中央道アジアからロシアまで同じルートでヨーロッパへ返送されることも認めます。現在の合意では、食料や燃料のような非致死の補給品に限られていました。

 南部国境でイスラム過激派の拡大を恐れるロシアは、アフガン国内への軍隊の派遣を拒否してきましたが、NATO軍の活動の支援を提供してきました。来週ポルトガルのリスボンで開かれる28ヶ国のNATO指導者とメドベージェフ大統領が会うNATOサミットで、輸送ルートなどの合意がなされる見込みです。

 NATO軍は、アフガン空軍のために20機のMil-17輸送ヘリコプターと、パイロットとクルーの訓練をロシアに求めています。アフガン空軍はすでに数ダースの中古Milを使っています。問題はその予算で、NATO諸国はこのために個別の信託資金を作ることを検討しています。

 ロシアはサンクト・ペテルブルク近郊に麻薬捜査官の訓練センターを開設することも検討しています。NATO軍は、この施設がパキスタンと近くの国の麻薬捜査官を訓練したいと考えています。

 ロシアは、数年前から、アフガンからの麻薬密輸が急増したのを懸念していて、モスクワ近郊でアフガンと中央アジア諸国の麻薬捜査官の訓練センターを運営しています。NATO軍は、ミサイル防衛システムのヨーロッパ配備で、ロシアの協力を模索中です。


 ロシアを経由する補給路は以前から様々な報道があり、当サイトでも注目してきました。(関連記事 

 アフガン問題に対して、各国が自国の利益を考えながら、様々な活動をしていることが分かります。そこには領海を侵犯した漁船に特別な計らいをすることが「外交」だと勘違いするようなミスはありません。

 ロシアはアフガン侵攻の経験から、この地に再び軍隊を派遣する気はありません。しかし、対テロに関して、何もしないと思われるのを避けるために、様々な方法で参加しています。これは、ロシア国内でのイスラム過激派に対する牽制にもなると考えているはずです。ロシアがやっていることを見れば、NATOが喜びそうなもの、自国の利益になるものばかりです。それを対テロのためというオブラートに包んで合理化しているところに計算が見られます。補給路を提供すれば、安全な輸送路を欲しがっているNATO軍に恩を売れます。アフガンやパキスタンに麻薬捜査官を養成すれば、自国の麻薬問題の一助となります。また、グルジア問題に関するNATO諸国との軋轢も緩和が期待できます。このように、世界の公益の追求という建前と自国の利益を巧みに両立させ、正当化している点に注目すべきです。実は、ロシアのこうした動きは、対テロ問題の解決には大きなものではありません。なぜなら、補給路の提供は、イラクでの戦略を漠然とアフガンでも続けている誤ったアメリカ主導の作戦を助けるだけですから、当然、問題を解決しません。麻薬捜査官の方は、実利が期待できそうですが、ロシアで麻薬が売りにくくなれば、他の国で売ればよいという話になるでしょう。間接的な効果が期待できるだけと考えるべきです。

 それでも、尖閣諸島の中国漁船衝突事件における菅内閣の失敗と、その後のドタバタ劇に比べると、ロシアの戦略はずっと鋭いと言えます。ロシアはアメリカに協力する振りをしていますが、現在の実力では太刀打ちできないので、アメリカが戦争で消耗している間に、自分たちの利益を獲得しようとしているだけです。現時点でベストのことをやるという発想は、平和すぎて夢の中に生きている日本が見失っていることです。だから、尖閣諸島に自衛隊を常駐させろといった不合理な声が出たりするのです。



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