テロ問題に関する米ロの思惑

2009.2.9



 ロシアが米軍の補給物資の自国領内通過を許した件について、もう一度考えます。military.comの記事をもう少し詳しく紹介します。

 昨年4月、ロシアは武器など「敵を殺害するのに関係のない米軍の軍事物資(non-lethal U.S. military supplies)」が自国領内を通過してアフガニスタンへ送られることをNATO諸国に許可しました。さらに、11月にドイツ軍の武器・装備品が通過することを許可しました(記事はこちら)。これはグルジア問題に関して、ロシアがドイツに配慮した動きを見せたと考えられます。このように、ロシアはアフガン問題を、自国の別の問題を有利にするために利用してきました。今回の発表も、それに関した動きと見ることができます。米軍の物資はカザフスタンからウズベキスタンを通り、アフガン北部に入る見込みです。アメリカはカザフスタンと予備的な交渉を終えており、いまはウズベキスタンと話し合っています。ウズベキスタンとアフガンは大河沿いに国境を接しています。補給物資はこの川を渡ってアフガンに入ることになります。

 こうして対テロに関して、米ロの協力体制ができあがっており、今後共に発展する見込みです。別の記事によれば、ソマリアの海賊から解放されたウクライナの輸送船フィアナ号に燃料、食糧・水を提供したのは米軍の艦船でした。海賊たちは空中から投下された現金320万ドルと共に船を去っており、ロシアの艦艇が接近しても問題はなかったでしょう。しかし、あえてアメリカが手を差し伸べる形を演出したのです。一見、良好な関係のように見えますが、早い話が海賊問題を理由にして、埋めがたいギャップを埋め合っているだけです。第2時世界大戦で、ソ連は連合軍の側につきましたが、政治体制では水と油でした。アメリカにはドイツと組んでソ連と戦うという選択肢もありましたが、成り行きでソ連を支援せざるを得なくなったのです。ドイツが次々と外征に成功すれば勢いづき、いずれアメリカの力で止めることはできなくなります。ソ連のことは後回しにしてドイツを先に阻止するのが、アメリカの選択でした。だから、第2次対戦が終わると、アメリカはソ連と冷戦に突入しました。

 こうした国益で手を組むという発想は今も変わっていません。こうした関係は崩壊しやすく、真の平和とは関係のないことです。かつては各国の王室同士が政略結婚までやって対立を阻止しようとしましたが、戦争はなくなりませんでした。民主的な議会が政治の中心になっても、こうした計略は続きました。国権を中心とした政治に問題があると分かった人類は、国際連盟と国際連合を発足させましたが、それでもまだ戦争はなくなりません。恒久的な平和を達成するには、国同士が計略を通じて会話をするようなやり方を止める必要があります。


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