テポドン騒動のまとめ その1

2009.4.10



 テポドン2号そのものについては、まだ結論が出せないので、日本政府の対応について、現段階までの見解をまとめてみます。

 テポドン2号発射に関する日本政府の対応について、世論は好意的に評価しているようです。しかし、私は完全に間違っていたと考えています。


テポドン2号は弾道ミサイルか?

 まずは、テポドン2号を弾道ミサイルと呼んだことについて、もう一度まとめます。

 おそらくは外務省の意向なのでしょうが、北朝鮮が「人工衛星ロケット『銀河2号』を打ち上げる」と発表したことを、「人工衛星ロケットを名目にした弾道ミサイルの打ち上げ」へ切り替えるため、「弾道ミサイル」という言葉を何度も用いました。マスコミにもテポドン2号を「弾道ミサイル」と呼ぶように依頼したらしく、NHKをはじめとしたすべてのメディアが、それに従いました。人工衛星ロケットという言葉が定着してしまうと、2006年の国連決議違反というシナリオが崩れると考えたのです。

 しかし、これは逆効果でした。「テポドン2号は弾道ミサイルではない」という直接的な反論を北朝鮮に与えてしまったからです。さらに、中国とロシアを国連の場で味方につけるのが難しくなります。「弾道ミサイルの技術開発のための人工衛星ロケットを打ち上げることは、国連決議違反である」という筋書きを考えた方がよかったのです。北朝鮮は弾道ミサイルの開発だけをやっているのではなく、人工衛星ロケットから経済支援の要請まで、考えられることのすべてを狙っているのです。よって、今後は打ち上げの事実だけを問題にするのではなく、弾道ミサイルに直接関係する技術の存在を調査して国連決議を求めるように政策を変更する必要があります。

 また、このロケット打ち上げが実験なのか、戦争行為なのかすら明確ではない表現を用いたことは、こうした問題に無知な人びとを混乱させた可能性すらあります。関東地方にも迎撃ミサイルを展開したのですから、てっきり戦争だと思った人もいたはずです。これに、日本国民は平和ボケだから、少し刺激を与えた方がよいとか、ミサイル防衛を推進するためには危機感を盛り上げた方がよいという考えがあったのなら、それは将来起こり得る核戦争に余計な混乱しかもたらさないでしょう。

 賢明な人なら、今回のロケット打ち上げで、北朝鮮から発射された弾道ミサイルは7分足らずで日本に着弾することを察したはずです。こうした短時間で有効な避難を行うのならば、公共の場所に避難所が設けられるべきであり、自宅には地下シェルターを設置するのが最も有効であることに気がつくはずです。少なくとも、開発中の迎撃ミサイルよりも地下シェルターの方が効果は実証されています。北朝鮮と核戦争が起こりそうな場合、夜間は寝室ではなく、地下シェルターで眠らないと、避難は間に合わないことも理解できたはずです。日本はこのことに気がつく絶好の機会を逃しました。テポドン2号が飛び去ると、誰もが危機は去ったと考え、翌日のトップニュースは人気タレントが結核で入院した話に変わりました。しかし、真の問題は北朝鮮がどこまでロケット技術を進歩させたかであり、それはこれからの解析で明らかになるのです。


迎撃ミサイルの展開について

 日本だけが迎撃ミサイルを洋上と陸上に展開しました。仮にテポドン2号が日本列島に墜落するとしても、最も多くの燃料を積んだ1段機体は切り離された後であり、2段機体の燃料も多くが使用された後か、すべて使用した後ですから、日本に対する危険はほとんどありません。関東地方にもPAC-3を配備したのは明らかにやりすぎです。おまけに、すべてのPAC-3部隊がテポドン2号の予想コースから外れた場所で、ごく一部の人口密集地域しか守っていなかった事実を報じるメディアは見られませんでした。

テポドン2号の発射に備える新谷駐屯地のPAC-3部隊。ミサイルランチャは見えませんが、中央の2本の細い柱のようなものは通信用のアンテナマストでしょう。その右側は電源車です。
(撮影・APF通信社 転載許可済)



警報について

 秋田県の海岸で、私がテポドン2号発射を知った直後、男鹿半島の方向から打ち上げを知らせるサイレンが聞こえてきました。それは周辺の自治体が鳴らしたサイレンであったはずです。それはまるで空襲警報のように感じられました。しかし、同時に何と意味のない警報かとも思いました。私たちが宿泊したホテルには、東京から派遣されたらしい消防局員もおり、海岸の近くの消防団員が集まっているのも目撃しました。私が耳にしたところでは、県民の意見はバラバラで、「恐い」という人もいれば、「どうせ墜落はしない」と言う人もいました。

 住民に注意を喚起するためには、テポドン2号がどこを通過し、落下した場合、どのように見えるのかも指導しておく必要がありました。こうした情報の提供はなく、漠然と注意を促したのは、政府自体が墜落の危険性がほとんどないと考えていたことを意味します。しかし、こうした無意味な警報は国民が真の危険を見つける力を損なう恐れがあります。

 本物の戦争において、警報はほとんど機能していません。誤報は頻繁に出るようになるので、誰もが本気にしなくなるのです。日本海軍が真珠湾を攻撃した時、米海軍は真珠湾の手前で日本の特殊潜行艇を発見して撃沈しました。ところが、撃沈が報告されても太平洋艦隊司令部はこれを信じませんでした。当時、流木を潜水艦と誤認するような報告が連続していたためです。プロの軍人ですら、この調子です。政府や自治体は警報システムを作らざるを得ないのですが、それが戦争で機能することは少ないことを、まず知っておく必要があります。マスコミは、誤報はあったものの、今回の警戒態勢は全般的に成功だったと報じていますが、こうした評価を信じる必要はありません。家族を本当に守りたいのなら、自宅の地下にシェルターを作って、食糧等の必要物資を備蓄し、核戦争の危険が迫ったと感じたら、家族全員でシェルターに避難するしかありません。警報が出るのを待っていたら死ぬ可能性があります。


1段機体の引き揚げについて

 民主党の白真勲氏が7日の参院外交防衛委員会で浜田防衛大臣に対して、日本海に落下した1段機体について引き上げを求め、浜田大臣が前向きに検討すると答えました。私は先月19日に、日本領域内にテポドン2号が落下した場合、回収して解析すべきだと書きました(記事はこちら)。白氏の意見はこれに近いものですが、日本領海外の落下物についての主張である点で、私の意見とは異なっています。

 1段機体の落下点は、秋田県西方約280kmとしか発表されていませんが、おそらく日本領海内ではないものの、排他的経済水域(領海基線から約370kmまでの海域)の中と推測されます。排他的経済水域の場合、海洋資源に関しては優先的利用権がありますが、沈没した他国の資産については疑問があります。しかし、「資源の管理や海洋汚染防止の義務」が課されているので、ロケット燃料による海洋汚染の危険性を理由にして、1段機体を引き揚げることは可能だろうと思われます。残念なことに、日本はそれらしい油膜を洋上に確認したにもかかわらず、航空機しか派遣していなかったので、そのサンプルを回収することができませんでした。日本は完全に後手に回ったのです。

 8日、朝鮮人民軍は外交防衛委員会での質疑応答について「許し難い軍事的挑発行為である」と猛烈な反発を示しました。これだけの反応を引き出せるのなら、なぜ日本政府は打ち上げの前に日本政府の声明として発表しなかったのかと思います。言うだけでなく、周辺海域に海保の船舶を展開し、深海探査艇やサルベージ船をチャーターし、宇宙航空研究開発機構に技術顧問を派遣するよう要請し、それらのすべてを公表すれば、北朝鮮に対する相当な圧力になったはずです。日本は生真面目に「迎撃一本槍」の態勢しかとらず、こうした外交戦の効果を軽視しました。どうも日本人だけで物事を解決しようという力みが、必要な判断力を殺いでいるように感じます。白氏は日本人と韓国人の血をひいており、こうした事件ではむしろアイデアが浮かぶのでしょう。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.