じわじわと来る補給不足の影響

2009.2.6



 パキスタンとアフガニスタンをつなぐ補給ルートの問題をspace-war.comが報じました。

 この記事に、キルギスタンのマナス空軍基地の輸送量が記されていました。毎月人員が15,000人、荷物が500トンです。マナス基地は空中給油機の基地として使用されていますが、15,000人が出入りしているのなら、人員の輸送にもかなり関わっているのでしょう。アメリカとキルギスタンの交渉が成功しない限り、これがゼロになるわけです。そして、記事は中央アジアの基地が使えない場合、クウェートとカタールが空輸を受け持ち、より輸送費がかかると書いています。一般に、飛行機による空輸では、輸送量の2〜5%分の燃料が必要です。ヘリコプターを使う場合は10%に跳ね上がります。陸自のヘリコプター部隊を欲しがっているアメリカは、燃費の悪いヘリ輸送でもよいからやりたいと考えていることになります。つまり、アフガンまでの空路も、アフガン国内の空路も問題が起きていると考えなければなりません。それでも、米軍関係者からは「大丈夫」という声しか聞こえてきません。これを変だと思わないわけにはいきません。

 記事には「懸念はあるが、間違いなく災難ではない」というウィリアム・ナッシュ退役陸軍大将(William Nash)のコメントが載っています。大将は潜在的に使える基地があり、中央アジアにはどこにでもアメリカが使える基地や道路がある、と大将は言います。

 しかし、補給の問題はじわじわと来るのが特徴で、二元的な考え方は禁物だと、私は考えます。補給が不足してもしばらくは戦力を維持したまま活動できますし、影響が出てからも問題は少しずつ深まっていくのです。だから、カエルが茹であがるように、ゆっくりと死に至るのです。軍の指揮官が補給に関して強い自信を示している時、それは安心すべき時ではありません。指揮官なら、味方の補給路を守り、敵の補給路を脅かす工作を繰り返すべきで、自信に満ちあふれている場合ではないからです。

 別の記事は、キルギスタンの議会がマナス基地の閉鎖を決める投票を来週まで延期したことを知らせています。これはアメリカの交渉に余裕を与えました。延期の理由は明確にされていません。多くの専門家がキルギスタンがロシアの圧力を受けていると主張します。基地がいつ閉鎖されるかは不明ですが、協定によると180日間の事前通告が必要とされています。

 そこで気になるのが、ロシアが核兵器制限交渉(START) に乗り気になっていることです。space-war.comによれば、セルゲイ・イワノフ副首相(deputy Prime Minister Sergei Ivanov)が、オバマ政権が1年以内に同条約を更新することに賛同を示しています。また、ロシアはアメリカとイランの交渉の仲介を申し出るということです。元々、STARTは今年12月5日に失効することになっており、合意は難しくないとみられていました。記事によると、1月に国務長官に就任する前、ヒラリー・クリントンは交渉をすぐに開始したいと述べていました。この記事の末尾に、イワノフがキルギスタンの決定に対するロシアの関与を否定しているのが気になります。

 先日、アメリカが東ヨーロッパからミサイル防衛を引き揚げれば、ロシアもイスカンダルミサイルを配備しないという情報がロシアから流れ、欧米が支持を示するとロシアが否定するという事件がありました(記事はこちら)。どうも、ロシアはSTART狙いもあって、あれこれと画策しているように見えます。経済発展を狙うロシアとしては、金のかかる核戦力を、アメリカと対等の力を維持しながら節約したいのでしょう。そこで、オバマ政権の核廃絶(当面は核軍縮)に乗り、減らせるものを減らしてしまおうという考えのようです。ロシアは腹の痛まないイラン問題で協力を申し出て、START交渉をやりやすくし、その中で東ヨーロッパのミサイル問題も議題にしたいのではないかと想像します。オバマ政権としては、注意しながらロシアの相手を務めなければなりません。うまいと言えばうまいやり方ですが、平和とは縁遠い権謀術数の世界の話です。キルギスタンがロシアの意向を汲んで基地を閉鎖し、困ったアメリカがSTART交渉で下手に出るようなら、オバマ政権の外交は失敗です。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.