9月に余剰の撤退はあるか?

2008.5.23



 デビッド・ペトラエス大将(Gen. David Petraeus)が上院軍事委員会前の公聴会で、9月までにイラクの治安が改善するようなら撤退を勧告できると述べたと、military.comが報じました。

 同時に、大将は今年中にイラクの保安部隊がすべての州で主導権を取ることはないとも述べました。過去一月半に起きた出来事(バスラでのテロ事件を意味するようです)が、目標を2009年へ押しやったと言いました。地方選挙も10月から11月に延期される見込みです。

 先月、ペトラエス大将は7月に増派分の部隊が撤退した後、45日間の評価期間を設けるべきだと発言しました(記事はこちら)。今回の発言は当然、これと関係しています。カール・レヴィン上院議員から質問された、増派分以外の撤退があり得るかという問題です。4月の段階では、大将は明言を避けました。今回もそれはほとんど変わっていません。すべては治安の状態によって決まるということです。大将は、ウィリアム・ファロン海軍大将に替わり、中東、中央アジア、アフリカの一部の指揮官を務めることになっています。最初の仕事はパキスタン訪問だと説明して、委員会の支持を得ました。これは、イラクから足を抜いて、パキスタンへ移し替えるべきだという政界の意向を満足させるための発言と考えられます。

 何度も述べているように、こうした撤退の予測はほとんど意味がありません。4月に大将が証言した時、大将は2〜3月の治安が向上した期間のデータを見ていたはずです。4月は状況が悪化し、戦死者は51人に増えました。ひと頃の三桁台からは減ったとはいえ、少ない数とは言えません。大将の口が堅くなるのも当然です。現状が進展しなければ、余剰の撤退はないわけですが、大将はそれをできるだけ口にしたくないのです。

 一方、アフガニスタンでは、イラクで訓練中の狙撃兵がコーランを射撃訓練の標的にした事件の余波がリトアニアのNATO兵士1人を殺したと、military.comが報じました。この事件に抗議したデモ隊約2,000人が西ゴア州(western Ghor province)の空軍基地へ押しかけ、警察が発砲して銃撃戦が起こり、兵士のほか、民間人2名が死亡し、7人が負傷しました。小さな成果をあげても、ひとりのミスで大きな後退が起こります。

 困ったことに、大統領選挙もあり、アメリカ人の関心はイラクからの撤退だけに集中しています。目標はテロ活動の根絶なのに、イラクからの撤退だけが、それがあまりにも遠大であるために、真の問題と置き換わっています。議員たちは、自分がイラクからの撤退を推進したとアピールしたいために、議会で活発に発言し、軍人から少しでもよい答えを引き出そうとします。こうしたやり取りは問題を解決するために必要なプロセスをむしろ停滞させる恐れがあります。

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