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戦局の混迷と共にモラルも低下か

2007.7.27



 混迷する戦局とそれを取り繕う米政府高官。そして、兵士の家族たちの悲痛な叫びが、現在のアメリカには混在しているようです。

 military.comによれば、駐イラク米軍暫定指揮官レイ・オダイアノ中将は、今月の米軍の戦死者の少なさについて慎重な楽観論を示しました。同時に、ここ3ヶ月間、グリーン・ゾーンやその他の地域における迫撃砲とロケット砲の着弾が大きく改善されており、それにはイラン国内で行われる訓練と直接の関係があると考えていると述べました。記事に紹介された7月10日の例では、1ダースを超える迫撃砲とロケット砲の弾幕がチグリス川沿いの建物群に着弾し、アメリカ人1人を含む3人を殺し、18人を負傷させました。先月のバグダッドにある国連事務所の報告でも、着弾が正確で濃密になったと書かれています。ここ3ヶ月といえば、今年の米軍増派が完了しはじめた頃です。その時にイランで訓練を受けた兵士がバグダッドに潜入し、迫撃砲とロケット砲を正確に発射しているということになります。

 一方、別の記事によると、駐イラク米大使ライアン・クロッカーは、増派が暴力を減らしていると述べました。特に、アンバル州とバグダッド州で変化が起きているといいます。確かに最近は米兵の死亡は約半数になりましたが、イラク国民の死亡はそう減ったとは言えません。イラク軍と市民を含んだ死者数は、5月が1,980人、6月が1,345人、7月が1,515人(Iraq Coalition Casualty Count)で、今年初期に比べると減っていますが、昨年は1,000人を切った月もあるのに対して、今年は常に1,500人を越えています。

 復員軍人援護局の問題が収まりません。先日、復員軍人援護局の高官がウォルター・リード陸軍病院の不手際などを制服組に謝罪したばかりですが、今度は軍人援護局のジム・ニコルソン長官が自殺した海兵隊員の家族から訴えられたとmilitary.comが報じました。ニコルソン長官は先日辞職を発表したばかりです。訴えは海兵隊のジェフリー・ルシー伍長の家族が起こしました。ジェフリーは帰国後、悪夢に悩まされるようになり、飲酒を始めました。彼は鬱状態になり、首つり自殺をほのめかす発言をしたため、家族は彼を復員軍人医療センターに連れて行きました。しかし、PTSDであることが確認できなかったため、数日後に彼は退院させられました。家族は再び復員軍人医療センターに彼を連れて行きましたが、治療を拒絶されました。2週間後、ジェフリーは首を吊って死亡しました。家族は不法に障害給付金と治療を拒否したとして連邦裁判所に訴えを起こしました。

 military.comによれば、ピート・ゲレン陸軍長官(Army Secretary Peter Geren)は、パット・ティルマンが味方の誤射で戦死した事件で、フィリップ・ケンジンガー中将(Lt. Gen. Philip Kensinger)を少将へ降格させることを検討中です。ケンジンガー中将は、ティルマン事件に関して同士打ちを知りながら不適切な情報を提供したとされています。最終的な決断はされていませんが、ゲレン陸軍長官はゲーツ国防長官に降格を進言し、中将を非難する書簡を公表する可能性があります。こうしたことは米陸軍では異例のことです。なお、ティルマンの家族は陸軍の事件処理には不満足だとと述べています。

 すっかりベトナム戦争シンドロームが復活したようです。特に、増派後に武装勢力の間接照準射撃の精度が向上したのは、武器と人員が新しく持ち込まれたことを示しており、イランのイラク国内伝活動の盛況ぶりを示すものです。クロッカー大使がいくら事実を繕っても、イラクの治安がよくなったなどとは言えないのです。迫撃砲をテロ攻撃に使う場合、照明弾を使った着弾調整を行う時間の余裕がないので、最初から効力射(実弾による射撃)をするしかないのですが、それを少ない弾数で緊密に命中させるには、かなりの訓練が必要です。迫撃砲射撃には、目標を視認できる場所に仲間がいて、着弾位置を迫撃砲手に連絡する必要があります。これは十分な訓練を積まないとできないことです。最近、急に射撃の精度があがったということは、これまで迫撃砲テロを行っていた者たちではない、高度な訓練を受けた者がイラクに潜入した可能性を示唆します。イランではすでにイラク手のテロに特化した訓練を行い、現場で培われたノウハウが訓練へフィードバックされているのではないかとすら考えざるを得ません。

 こうした環境で苦しんでいるのが兵士とその家族です。ジェフリーの件は、未だに完全なPTSD診断法が確立されていない問題を象徴しています。軍はPTSDの確実な証拠を欲しがりますが、PTSDの発症は個人差が大きく、判定にしにくいのです。ジェフリーの場合、睡眠中の状態をモニタリングして症状を確認できなかったのでしょうか。ティルマン事件は中将の降格へと発展しそうです。戦争に期待が持てず、大衆の批判も激しい中で、都合が悪い事実を隠そうという心理が。高級将校の間に大きく働いているのでしょう。ブッシュ政権も9月の報告まであまりイラク状勢に関わりたくない様子ですが、その間にも犠牲者は増え続けるのです。


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