ティルマン誤射の調査が進行中

2006.11.10



 military.comによると、プロ・フットボール選手でありながら、陸軍に志願し、アフガニスタンで味方に誤射されて死亡したパット・ティルマンの死因に関する調査が進んでいます。犯罪捜査部は現場での調査を終え、今年12月までに捜査を完了したいとしています。

 陸軍は、ティルマンが死んだ状況は、混乱とコミュニケーションの途絶のためとしています。ティルマンの小隊は移動中で、152mほどの深さの峡谷内に入りました。そこで武装勢力と銃撃戦になりました。そこへ後続部隊がやってきて、ハンヴィーに乗ったレンジャー隊員がティルマンと小隊長を誤射したのです。ティルマンは無線で「撃つのを止めろ。友軍だ。私はパット・ティルマンだ。なんてことだ!」と繰り返し叫んだといわれています。

 軍が混乱とコミュニケーションの途絶が原因としていますが、AP通信は数千ページの陸軍の報告書を調べ、関係者へのインタビューを通じ、別の原因をあげました。

  • トレバー・アルダース二等軍曹は、最近PRKレーザー視力矯正手術を受け、まっすぐ前にある腕4本は見えるが、視界はぼやけていた。彼は、味方だと示す信号を見落とし、ティルマンと一緒に殺された味方のアフガニスタン人を敵だとみなした。
  • スティーブ・エリオット技術兵は、ライフル銃や発砲のせん光を見て興奮していた。
  • スティーブン・アシュポール技術兵は、二人の人影を認め、皆が撃っている場所を狙った。
  • 分隊長グレッグ・ベーカー軍曹は、20-20の視力を持つものの、視野狭窄でもあった。混乱の中でアドレナリンの分泌により、ベーカーは自分が敵だと思ったものを繰り返し攻撃した。彼はAK-47が見えたので、ティルマンを狙ったと言う。
  • 隊員の一人によると、ティルマンの小隊は最近、補給のほとんどを使い果たし、自分たちのキャメルバック(チューブを使って歩きながら水が飲めるバック)の水だけしか持っていなかった。地元の売人から山羊を買うことを強いられた。補給物資の空輸は遅れ、飢えと疲労が誤った判断を起こさせた。

 センチメンタルな愛国心など、戦場の冷酷さは何の躊躇もせずに奪い去るのが現実です。私が少年の頃、戦場をロマンチックに描いたアクション漫画が流行していました。それらの元になったのは、アメリカの戦争映画でした。戦場の冷酷さは抑え気味に描き、ヒロイズムに満ちた映画は実に数多く作られ、時代の要求に応えてきました。しかし、いまやそうした映画に出演してきたクリント・イーストウッドが、戦争の矛盾をテーマにした映画を製作する時代となりました。彼は「そろそろ戦争に対する単純な考え方を止めよう」と呼びかけています。日本にもアメリカにも、実に単純な戦争観しか持たない人がいます。このたびの中間選挙でも、そうしたアメリカ人を、報道を通じて数多くみかけました。この単純すぎる戦争観を廃絶しない限り、戦争でより多くの人が死ぬのです。そのためにも、戦争をより詳細に研究する必要があります。ティルマンの死因について思うのは、このことです。

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