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米政府内でも見解は錯綜

2007.7.18



 イラクに関して様々な見解が出ています。米軍が行ったウォーゲームは、米軍が撤退すればイラクは3つに分裂するという結論を得ました。統合参謀本部議長ピーター・ペース大将がイラクの治安について楽観的な見通しを述べました。両者の見解は相反します。分裂しそうな国の治安が安定しているわけはありません。

 ワシントン・ポストが最近行われたウォーゲームの結果を報じました。米軍がイラクから撤退すると、多数を占めるシーア派がスンニ派を派閥が混在する地域からアンバル州へ追い払い、イラク南部ではシーア派グループ間で内戦が起こり、クルド人は領土を確固とするために米軍を召致するでしょう。その結果、イラクは3つに分割されるというのです。このウォーゲームは、ペンシルバニア州の陸軍大学において、ゲーリー・アンダーソン退役海兵大佐によって行われました。アンダーソン大佐はイラクで従軍経験がありますが、現在は民間軍事会社に在籍しています。

 統合参謀本部議長ピーター・ペース大将がイラクを訪問し、治安について楽観的な見通しを述べたとmilitary.comが報じました。「若干の進歩が見られる」という楽観的な発言には驚かざるを得ません。若干の進歩ならこれまで何度も起こっては打ち消されてきたことです。統合参謀本部議長としては、9月の査定を前に当たり障りのない発言をしたということでしょう。

 イラクの分裂は誰もがあり得ると考えていることです。もともと、異なる民族を無理につないで作った国ですから、いつそうなってもおかしくはありません。そのためにテロ事件が頻発しているのです。ただ、アンダーソン大佐が民間軍事会社にいることは気になります。米政府との長期契約のために、悲観的な結論を出した可能性もあるからです。その一方で、ペース大将の発言はあまりにも極端で、聞きにくいものです。先日、増派の選択肢もあることを口にしたばかりだからです。

 このように、米政府間でも戦争に関する見解は異なるものです。誰の意見を聞くべきかは、発言者の立場に注目する必要があります。また、過去の戦争で、誰がいつどんな発言をしたかを見れば、立場の違いによる見解の違いの仕組みが見えてきます。先日、「ソ連参戦は原爆投下の理由か?」で書いたように、原爆投下については軍人の間に広く懐疑的な意見があったにも関わらず、米政府の公式見解は「原爆投下は正しかった」であり、これは現在に至っても変わっていません。これは日本政府が従軍慰安婦問題を認めようとしないのと同じで、政府の正規の手続きに従って行われたものなので、容易に撤回できないのです。特に、政府は正直に事実を話すことが悪影響を生むと考えると公表を止めたり、嘘をつくものなのははっきりしています。派遣された軍隊が都合が悪いことを政府に報告しないこともあります。「公式見解」も証明できる事実を確認できない限りは信じるべきではありません。

 イラク侵略に関して、イラクに民主主義を定着させるために支持すると言う人を見たことがあります。その方は民主主義に普通以上に信頼しているらしく、そのためにはどんな手段も行使すべきだと考えているように、私には思えました。たとえ、その可能性が低いと専門家が指摘しようとも、少しでも可能性があるならやるべきだというのです。なぜ、彼が成功と犠牲ついて少しでも考えようとしないのかが不思議でした。彼が今、イラク状勢をどう考えているのかを知りたいものです。

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