このコーナーの主旨



 軍事問題を学ぼうとする時、一番困るのは、戦争というものがどのような形で行われるのかが分からないということです。士官学校に通わなくても、戦史を学ぶだけの書籍は出版されており、それらから相当なことを学べます。しかし、実際に部隊を動かして実感を味わうことで、さらに理解を深めるのはとても大事なのです。そこで軍人のコミュニティでは、ウォーゲームが用いられてきました。これは、映画などでご覧になったことがあるかも知れませんが、テーブルの上に作られた模型の戦場で戦術討議を行うことです。

 そして、そのテーマとして最適なのは、大隊から連隊規模の戦術を学ぶことなのです。この規模の戦闘を理解すれば、それらよりも小さい小部隊やより大きな部隊や軍全体の戦術も分かり、そこから戦略についても考えをめぐらせるようになります。大隊から連隊規模の戦闘には、異なる部隊の連携や支援砲撃の役目といった陸上戦闘に関するさまざまな要素が凝縮されているのです。そこで、平和を希求する一般人から自衛官(を志望する人も)まで、ウォーゲームで戦争の戦術面を学ぼうというのがこのコーナーの試みです。

 このゲームがよいところは、まず内容の確かさです。米海兵隊のI.L.ホールドリッジ少佐(退役)がゲームのデザインからプログラミングまでを一貫して制作し、米軍とカナダ軍の将校や民間の協力者によってテストが行われ、軍で指揮官の訓練用に使用されていることから、その内容は実際の戦闘の平均的データと合致しているのは間違いがないのです。一般的なゲームと違い、ビジュアル的な要素は「貧弱」といえるほど簡素です。このゲームに、スペクタクル的な戦闘シーンはなく、シンプルな映像と音声だけで戦闘の推移を表現しています。しかし、戦術討議のためには、この方がよいのです。

 ゲームとしては極めて安価で、パッケージ版が40ドル、ダウンロード版が25ドルです。ウィンドウズだけでなく、マッキントッシュ(Classic環境)でもプレイできます。しかも、このゲームは一人でコンピュータと対戦するだけでなく、ゲームのデータを電子メールで交換し、遠方の人とプレイすることもできるのです。

 「TacOps」を1ライセンス購入すれば、現代戦から近未来戦、第2次世界大戦くらいまでの戦闘を体験できます。そして、大事なのは、まずは大敗してみることなのです。そして、「損害が出たのは、作戦がどこかおかしいのだ」と考え、損害をより小さくする戦術を考え、試してみることです。次第に損害を出さない方法が分かるようになり、それに連れて戦術について造詣が深まっていきます。

 このようにして学んだ戦術技法を、現実の軍事分析に持ち込めば、比類ない力を発揮するでしょう。「イラクの自由作戦」のような大規模な作戦であろうと、それが始まる前から結果を予測できるようになるのです。そんな人たちを育てたいという思いから、このコーナーを立ち上げました。マニュアルの日本語化などで協力してくれる人はいつでも歓迎です。


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