進展のないシリアからの撤退論

2020.8.2



 military.comが 「Defense Priorities」のフェローで、「Washington Examiner」のコラムニストのダニエル・R・デペトリス(Daniel R. DePetris)のシリア撤退を主張する論説を報じました。

 2019年3月下旬に、アメリカとシリア民主軍(the Syrian Democratic Forces)のパートナーは歴史的な発表を行いました。数ヶ月の戦闘の後、埃まみれのシリアの集落、バゴーズ(Baghouz)のイスラム国の最後の僅かな領域が最終的 に奪還されたと。イスラム国戦闘員多数の降伏とイスラム国の領土上のカリフの排除は、4年以上の米軍の空爆と、クルド人とア ラブ人の派閥による地上戦の絶頂でした。

 発表がなされてから16ヶ月後、数百人の米兵が、トルコ軍とロシア軍、シリアと同盟する民兵、クルド軍と機能していない ISISのカリフの残兵を含むごった煮の軍隊を抱える、戦争で苦しむ国のさじ加減が難しい部分、シリア北東部に派遣されたま まです。

 ごく近くにあまりにも多くの軍隊がいるため、事件は必ず起きます。一部は多大な武力対立の結果となり、人員不足の米軍が航 空戦力を持つロシア人傭兵のかなり大きなグループと数時間、膠着状態になったとき、2018年に最も深刻な事件が起こりまし た。

 幸い、2018年の事件の間に、米兵は死傷しませんでした。それでも、米軍隊員がシリアに居続けるだけ、米軍の家族はお悔 やみの電話を受ける側になるでしょう。

 シリア北東におけるワシントンとモスクワの間の論争はより頻繁になり始めています。7月18日、元対ISIS同盟大統領特 使、ベレット・マッグーク(Brett McGurk)は、ロシア軍の車両が2台の米軍輸送車が彼らのルートに続くのを拒否する短いビデオ映像をツイートしました。最新の事件は、ロシアが米要員が活動する地域に ロシア軍航空機を故意に飛ばして米軍の対応を試すと、より強く断定する報道のあとに来ます。

 国防総省はアメリカとロシアの間の論争を、単独の事件だとして否定する傾向があります。ケネス・イクマン空軍少将 (Maj. Gen. Kenneth Ekman)は7月22日に「(アメリカとロシアの間の誤解が)二組の軍隊の間でより強い感情を引き起こすのは、とても稀です」と記者にいいました。

 しかし、衝突回避チャンネルやモスクワがどう振る舞うかに集中することは、木を見て森を見ないのに似ています。アメリカの 政策立案者に最も懸念される問題は、なぜ何百人もの米兵がISISの領土的カリフが破壊された後、一年半近くもシリアに配置 されているのかです。

 米当局者は一般的に、進行中の米軍の駐留を、この地域でISISが復活しないのを確実にするために必要なツールとして正当 化します。しかし、これらの同じ当局者は、アメリカがこのテロリスト・グループを封じ込め続ける動機がある唯一の権力ではな いことを認めたがりません。

 シリア政府、クルド人、アラブ部族勢力、ロシア、イラクとトルコは、シリアをどう統治すべきか、誰がこの国の再建に資金を 出すか、バシャル・アル・アサド(Bashar al-Assad)が権力に留まるかどうかについて、たくさんの問題で同意しないかもしれません。それでも、各々はISISが2014年にやったようにシリアとイラクの地 方で巡業公演をするのを防ぐことは彼ら自身の国家安全保障上の利益だということで合意します。特に、地域の政府が合意できる 単一の安全保障問題があるなら、それはISISが活動し、拡張する場所を奪うことです。

 ワシントン特別区の外交政策の支配層は、あたかも、ワシントンと敵国ロシアとイランとの間の長期的で地政学的なゲームにお ける重要な中心点であるかのように、シリアについて議論し続けます。現実はずっと平凡で、10年間の戦争の中にいるシリア は、アメリカに僅かしか提供できない経済的な無力な国です。シリアの全般的な価値はワシントンにとって、または必要なときに 中東にパワーを投射する能力にとっては限度を下回っています。

 米・シリア関係はそもそも、とりわけ強くはありませんでした。その関係は、少なくとも1970年代以降から敵対行為によっ て特徴づけられるから、アサド政権の勝利はこの地域でのより小さな帰結的な展開であり、むしろ以前の状態への回帰に近い。イ ランとロシアがシリアで勝ったと主張することは、いまや完成して、混乱状態となったものを彼らが管理するのがいかに難しいか を無視するだけでなく、歴史への無知でもあり、テヘランとモスクワが数十年間、ダマスカスと戦略的関係を持ってきているとい う事実を無視することでもあります。

 シリアに米軍の駐留を維持することの利点は、単純に費用に値しないのです。日を追うごとに、アメリカはミッション・クリー プ(終りが見えない展開を指す軍事用語・mission-creep)という消耗した道を一歩ずつ下ります。アメリカの政策 立案者はその一方で、本来の目的を見失っています。元国家安全保障顧問のジョン・ボルトン(John Bolton)が認めたところでは、アメリカのシリア政策は現在、ISISとの戦いよりも、議会議事堂で議論されたことも、それに値する真剣な政策審議を与えられたことも なかった任務変更であるイランの勢力を封じ込めることにあります。

 最近の過程では、任務が成功して終わったときに、まったく新しい目標のセットへの任務が転換することがとても多い。アフガ ニスタンでの戦争が素早く1兆ドルの対武装勢力戦と国家建設作戦へと陥ったのと同じく、シリアでの米軍の関与は現在、イラン が想定される戦利品を収穫するのを防ごうとしています。戦利品には破綻したシリア経済、4000億ドルのインフラ被害、自ら を権力の座に据えるために外国軍に依存するダマスカスの統一されていない政権と価値を大きく失ったシリア通貨が含まれます。

 米軍はシリアの国内政治や経済問題に責任はなく、それらのすべては解決に数十年かかりそうです。トランプ政権は、よりアメ リカ人の生命が失われる前に米軍に帰国するよう命じるべきです。



 シリアにアメリカが関与したのは、もともとは人道目的です。そもそも、シリアにはアメリカの利権はほとんどありませんでし た。シリア政権による反政府派の弾圧や、イスラム国からクルド人を守ることが目的でした。だから、今更、それを理由に撤退す るというのは、当初の目的を忘れたということです。

 私がシリアに武力介入して人道的危機を防ぐべきだと主張してから、実際に介入が行われるまでに何年もかかりました。アサド 大統領が化学兵器を反政府派に対して使ったのを口実に介入しようとしましたが、イラクでフセインの化学兵器の件で大嘘をやら かした過去のため、国際的な世論は介入を支持しませんでした。

 ようやく介入したものの、反アサド軍はなかなか成果を出せず、その戦略も定まりませんでした。そうしている内にロシアが介 入してしまい、これで望みは絶たれたかもしれない。最初に早く介入して、ロシアが参加する前に決着すべきだったと思いまし た。

 実際、すでに現場での改善は見込めないところまで来ています。地上部隊は撤退すべきかもしれません。しかし、航空戦力によ る支援や物資の提供、状況分析は続けるべきです。

 シリア内戦は武力介入の難しさを感じさせられる経験でした。世の中はうまくいかないものなのだと。

 アメリカが完全に手を引くと、シリアはアサドを支持しない人たちの地獄となります。すでに十年間、地獄だったわけですが、 それがもっとひどくなります。彼らの苦しみは続きます。そこがどうしても納得いきません。

 武力を使う人道支援について、もっと高度な戦略が必要なのだと考えます。一般的に軍隊は、国家同士の戦いの技術ばかり磨き ます。人道支援のために武力を使う場合の戦略はほとんど聞きません。新しい考え方が必要なのだと思います。
 
 

 


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