騒乱に動揺する情けないトランプ政権

2020.6.2



 military.comに よれば、米国防総省は、街がより暴力的なデモに備えるとき、ノースカロライナ州のフォート・ブラッグ(Fort Bragg)の憲兵の現役大隊にワシントン特別区(Washington, D.C.)への派遣を命じました。

 ブラッグの200〜250人の憲兵の派遣命令を報じた第一陣の中にCNNがありました。国防総省当局は Military.comに、第18空挺軍団の憲兵だと認めました。

 当局は、憲兵が受けた命令を細かく述べませんでした。ABCは国防当局者の言として、兵士たちは特別区に送られたが、必要 になった事態における予備能力でしかないと報じました。

 この動きは金曜日に、5月25日に警察に拘束されて死んだ非武装の黒人、ジョージ・フロイド(George Floyd)の死が引き起こした暴動に対処する警察を増強する通告に備え、国防総省がブラッグ、ニューヨーク州のフォート・ドラム(Fort Drum)、コロラド州のフォート・カーソン(Fort Carson)、カンザス州のフォート・リレー(Fort Riley)の現役憲兵部隊派遣のための警戒態勢に置いた後にありました。

 警察の蛮行に抗議するでも参加者たちは主要な街で法執行機関と衝突し、週末に数千人の州兵の派遣につながりました。

 マーク・エスパー国防長官(Defense Secretary Mark Esper)とマーク・ミレー統合参謀本部議長(the Joint Chiefs of Staff Army Gen. Mark Milley)は、月曜日に知事たちに電話をかけたドナルド・トランプ大統領(President Donald Trump)に加わりました。通話はマスコミに漏洩しました。通話の中でトランプは知事たちに抗議者に「もっと厳しくしろ」 と主張しました。通話は抗議者と警察の間の衝突が暴力的になった数日間に引き続きました。

 トランプは抗議者を逮捕して裁判にかける必要がある「アナキスト」と呼びました。彼は知事たちに「君らほとんどが弱々し い」ともいいました。

 「彼らは君たちをひっくり返し、君たちはバカみたいに見えるだろう」とトランプはいいました。

 エスパー長官は「我々は戦場を支配する必要がある」とつけ加えました。

 「彼らがやる必要があることをやるために、どのように州軍を動員するという観点で皆さんを完全に支援するために、私は用意 ができています。参謀本部議長は準備ができています。州軍のトップは準備ができています」と国防長官はいいました。

 トランプはミレー参謀本部議長を軍の対応を任せたといいましたが、議長が演じる役割を説明しませんでした。ホワイトハウス 大統領報道官、ケイリー・マッケニー(Kayleigh McEnany)は後刻、記者にミレー議長は司令センターを指揮すると述べながらも、「我々が発表するであろうどの行動にも先走ることはしません」といって、さらに詳細を 述べませんでした。

 大統領は月曜日に、抗議者に対抗するために現役兵を送れと求める共和党のトム・コットン上院議員(Sen. Tom Cotton)の支援をツイートしました。

 抗議者の大胆さは、秩序を回復するためにできることを何でもするために、第101空挺師団、第10山岳師団、第82空挺師 団、第1騎兵師団と第3歩兵師団のような現役戦闘部隊の派遣を求めるようコットンを促しました。

 一方、州軍は23州に約17,000人の州兵を出して、より小さな攻撃的なメッセージを示しています。

 「我々は命と財産を保護し、平和、秩序と公共の安全を守るためににいます」と、州軍局の長官、ジョセフ・レンギェル大将 (Gen. Joseph Lengyel)は今日の声明でいいました。



 昨日のコメントでも書いたように、この記事でも大統領府の狼狽ぶりが心配です。

 憲兵隊がワシントン特別区に送られた意味は、軍ができるだけ強いメッセージを出さないようにと工夫したものと解釈できま す。

 旧日本軍の憲兵隊とは違い、米軍のそれは軍隊内の規律を維持するために存在します。日本の憲兵隊は反政府的な人物や団体を 取り締まる任務ももち、特高警察と仕事が被っていました。だから、日本人はここで憲兵隊が出たことは強権的手法と解釈するか もしれません。

 記事にある「現役の戦闘部隊」を選ばなかったのは、国民に強い刺激を与えるのを避けるためです。例に挙げられる第101空 挺師団などは第一線の部隊であり、これらを出動させるのは、犠牲者が出ても構わないから暴動を鎮圧しろということです。

 この避けるべき手段をトランプ政権が選べば、事態はさらに悪化します。

 エスパー長官の「我々は戦場を支配する必要がある」という発言は聞き捨てなりません。事態は戦場と呼ぶべき状態にはありま せん。暴動は組織的には行われておらず、戦争未満です。隣りにいたミレー参謀本部議長はどんな顔をして、これを聞いたので しょうか。おまけにミレー議長の役割ははっきりしていないときています。詳細は詰めていないのでしょう。

 一方、州軍が抑制的に動いているのは評価できます。現場が冷静なのに、トップのホワイトハウスが血をたぎらせているのは不 安材料にしかなりません。トランプ大統領が一時、地下バンカーに避難したとの報道もあり、いきなりの騒乱に慌てふためいてい るとしか思えません。シュプレヒコールを叫ぶ群衆が敵兵に見えるとは情けない。

 その上に、知事たちとの通話が漏洩し、さらなる弾圧を示唆したのですから、自分で事態を悪化させているとしかいえません。 前任のバラク・オバマがデモ参加者に冷静になるよう呼びかけて、横からサポートする体たらくです。

 トランプはいま、国民に「何が不満かを言って欲しい。必ず実現するよう努力する」というべきでした。その言葉だけでデモ隊 は半減します。デモを弾圧しろなんていうのは最低の対応です。会議に及んだ知事たちも呆れたでしょう。

 アメリカの法律では、治安維持には州軍を投入するのが普通です。その州軍もできるだけ使わない方がよい。連邦法の民警法が 連邦軍を国内の法執行に連邦軍を使うことを禁じているので、同じ姿をしている州軍も、組織が違っていても使わない方がよいの です。

 連邦軍は反乱に際しては動員できますが、市民が起こす程度の騒乱に投入できるかは難しいでしょう。連邦軍の一部が反乱でも 起こさない限り無理です。

 大統領が頼りないなら、各地のオピニオンリーダーたちが地元民の不満をまとめ、それを州議会や連邦議会で形にすることで、 事態の沈静化を図るしかないでしょう。鍵は市民が握っています。政権ではありません。
 

 


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.