フィッツジェラルド衝突事件の調査記事

2019.2.11


 military.comによれば、調査報道は南シナ海の秘密の任務に向かっていた米海軍駆逐艦が関与した深夜の命を奪った衝突の新しい調査は、7人の隊員の命を奪った悲劇的な事故につながったいくつかの警告のサインを明らかにしました。

 調査報道を行う非営利団体「ProPublica」は今週、駆逐艦フィッツジェラルド(Fitzgerald)の2017年6月の日本沖での貨物船との衝突に関する一連の記事を報じました。「艦と闘う・それ自身の海軍によって運命づけられた戦闘艦の死と武勲」と名づけられた記事は、海軍指揮官たちが作った複数の厄介な誤りを明らかにし、それらのいくつかは過去に開示されました。

 記事は艦の乗員の勇敢な行動と心を引き裂く選択も詳しく述べます。

 ProPublicaは調査記録13,000ページ以上を細かく調べ、フィッツジェラルドの乗員、海軍将校と海事問題の専門家の多数に聞き取りをしました。ここに記事の調査結果のいくつかがあります。

1 不完全な認定

 駆逐艦が南シナ海の競合する海域に向けて秘密の任務にあたっていたものの、フィッツジェラルドはその準備の必要条件に合致していませんでした。

 「海軍は駆逐艦がそれ自体が航海の前に航海に適していて、戦闘の準備ができているのを証明するために22件の認定試験に合格することを必要とします。」とProPublicaは報じました。「フィッツジェラルドはこれらのテストの7件に合格しただけでした」。

 記事によれば、おそらく最も厄介だったのは、フィッツは「その主要な任務、対弾道ミサイル防衛を行う認定すらなかったということです」。

2 危機一髪は他にもあった

 以前にNavy Timesが報じたとおり、フィッツジェラルドは2017年6月17日に商船と衝突する前に一連のニアミスを起こしていました。

 駆逐艦は「少なくとも3回、船舶に危険に近づく機動をしていました」とProPublicaは報じました。しかし、事故はほとんど報じられませんでした。艦の安全な移動に責任を持つエリック・ユーデン(Eric Uhden)はフィッツジェラルドの第二位の指揮官、ショーン・バビット中佐(Cmdr. Sean Babbitt)に、艦に重大な問題があったと言いすらしたと、ProPublicaは報じました。

 「そして、ここで物事をよりよくする唯一の方法は、我々にとっては、重大事故を起こすか、誰かが死ぬことです」とユーデンは付け加えました。

3 艦全体の停電

 ProPublicaによれば、衝突の一週間前、フィッツジェラルド艦上で火災がありました。火災は艦全体の停電となり、機密と非機密の電子メールシステムが故障しました。

 「将校たちはかわりにGmailを使いました」とProPublicaは報じました。

4 レーダーの問題

 記事はフィッツジェラルドのレーダーが完全に動作していなかったことを示します。しばしば、レーダーは近くの船を捉えなかったと、ProPublicaは報じました。フィッツは17年もののソフトウェアの航行システムに頼り、スクリーンが新しい船の存在を示すために自動的に更新されなかったので、隊員はレーダーを描き直すために一時間に千回もボタンを叩かなければなりませんでしたと、記事は述べました。

 けれども、おそらくそれ以上に不安になるのは、レーダーが完全に機能したとしても、「乗員がレーダーがどう機能するかを知っているかが明らかではない」という意見でしたとProPublicaは報じました。

5 無視された嘆願

 フィッツジェラルドは2017年に太平洋の中で唯一の悲劇的な事故ではありません。2ヶ月も経たず、駆逐艦ジョン・マケイン(John McCain)がシンガポールの近くで石油タンカーと衝突し、隊員10人が死にました。

 事故の数日後、第7艦隊の当時の指揮官、ジョセフ・アーコイン中将(Vice Adm. Joseph Aucoin)は解任されました。いま彼はProPublicaに、彼は真実が表に出ることを望むと言いました。

 より多くの人的資源、艦船、訓練の時間を主張していたアーコインはProPublicaに、海軍指導層はアメリカの海上戦闘能力を弱らせたことに責任を持たなかったと言いました。

6 乗員の献身

 艦の問題はともかく、フィッツジェラルドの乗員は最悪のことが起きたときに勇敢に対応しました。指揮官たちはできるだけ多くの隊員ができる限り安全を得るのを助け、他の者たちを支援するために彼らの命を危険にさらしました。フィッツが浮いたままだったのは、乗員の行動だったと記事は述べます。

 「彼らは暗闇の中で、動力がなく、舵がなく、通信がない中で活動しました」と、記事は述べます。

 「若い将校は傾いた艦をどうやってまっすぐにするかを理解するために代数の方程式を走り書きしました」とProPublicaは報じました。「乗員はポンプが壊れたあと、バケツで艦から水を汲み出しました。フィッツジェラルドが港へ戻るために苦闘しているとき、航行用ディスプレイは故障し、予備のバッテリーは使い果たされました。艦の航海士はハンドヘルド型の商用GPSと艦を見などへ誘導するために紙のチャートを使いました」。

7 艦長の呼び出し

 衝突の前日、艦の元指揮官のブライス・ベンソン中佐(Cmdr. Bryce Benson)は隊員に午前6時に訓練のために出頭するようにしました。訓練が午後11時になっても終わらなかったとき、ベンソンは最後の数分間を典型的な夜間の命令に切り替えました。

 「通常、ベンソンは当直士官に、衝突を避けるために艦が計画したコースから500ヤード以上逸れたら彼を起こすように命じました」とProPublicaは報じました。「しかし今夜は、ベンソンは1,000ヤードへ数字を倍にして、将校に彼を起こす必要がなく機動を行うためにより多くの余裕を与えました」。

8 あり得た対立

 記事によれば、ベンソンが休息を必要とした理由の一つは、彼がフィッツのこれからの任務を心配したためでした。

 混雑する夜間の通行の間に艦橋に留まるのが艦長の常識ですが、ベンソンは中国の軍艦との対立となり得る、中国沖で領土紛争がある競合水域へ航海することを心配していたと、ProPublicaは指摘しました。

 それは一日中訓練も受けた年少の乗員を困難な状況の中に置き去りにしました。

9 人手不足の乗員

 任務の前、フィッツは修理場で数ヶ月を過ごし、乗員のほぼ半数は仕事が変わっていたと、ProPublicaは報じました。新しい乗員はより若く、より未熟でした」と記事は述べます。

 それは「艦隊の中でいかなる駆逐艦の乗員数の最高のパーセンテージでした」とProPublicaは報じました。

 「しかし、海軍指揮官たちはさらにもっと切り詰め、ベンソンが艦が順調に運行し続けるのに必要な隊員の人数を減らしました」と記事は述べます。「フィッツジェラルドには合計約270人がいて、海軍が提唱する303人の隊員に達していませんでした」。

10 重要な欠員

 艦の指揮官たちから海軍高官たちへ頻繁に要請されたにも関わらず、それはフィッツに乗った主要な部署を満たさせませんでしたとProPublicaは報じました。

 「艦を操縦するために経験の浅い隊員を訓練する責任がある上級下士官の操舵手の部署は、2年間以上にわたり充足していませんでした」と記事は述べます。「艦のレーダーに責任がある技術者は医療休暇中で、交代はいませんでした」。

 それらはかつての海軍の習慣である「艦の右舷と左舷両方の見張りを困難にしました」と彼らは付け加えました。

 ProPublicaのシリーズ記事の第1部はこちら

 第2部の「警告の数年間、そして死と災難 海軍はいかにして隊員を失ったか」はこちらです。


 元の記事はリンク先で読めます。衝突の状況をアニメーションで見られ、事故時のフィッツジェラルド艦上のカメラ映像が表示され、詳細な記事が掲載されています。できるだけ目を通したいと思います。

 これほどの情報が開示されていることには驚きです。自衛隊ならごく簡単にしか公開しません。記者会見で記者がなにか質問すると、確認に行って長時間戻らないので、うかつに質問もできないと聞いています。やはり、情報公開では米軍は自衛隊の数段上を行っています。自衛隊なら「敵に手の内をさらしてしまう」といって情報公開を拒否します。そこには税金で運用されるものに関係することは納税者に報告する義務があるという視点が完全に欠落しています。

 しかし一方、フィッツジェラルドが完全な状態になかったことはまったく知らされていませんでした。弾道ミサイル防衛機能が機能していなかったことは、まったく知られていませんでした。

 かつ、レーダーなどの装置が完全に動いていないこともあることは、韓国駆逐艦によるレーダー照射事件を考える上でも参考になります。この事件では、日韓両方が艦の機材の故障という仮定をまったく認めず、すべてが完全に機能している場合しか想定しませんでした。

 レーダーが不安定な装置であることは、自衛隊にこの装置を納入している会社の人からも簡潔に聞いたことがあります。レーダーを設置しても、直ちに動くようにはならないと。同じような問題は設置後のレーダーでも起こり得ます。

 機材も人員も完全でない艦を、夜間に移動させるような命令を米海軍上層部が下すことも、頭に入れていくべきことです。人口密集地に米軍基地が隣接する日本で、これが原因で事故が起きる可能性は常にあります。まして、有事になれば、その危険はさらに高まります。軍隊は意図しなくても民間人を殺傷する場合があります。それを忘れてはなりません。

 

 


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