韓国は海洋警察艦のレーダー説を主張か

2019.1.17
修正 2019.1.20


 レーダー照射問題で、韓国側の主張がようやく見えてきました。韓国は日本が探知したレーダー電波は韓国海軍の駆逐艦、広開土大王(クァンゲト・デワン)のものではなく、海洋警察の三峰号(参峰号とも書かれます)の航海用レーダーだと考えています。

 17日付の中央日報「哨戒機照準問題…日本、証拠出せない理由が何かあるのか」によれば、シンガポールで行われた日韓協議において、「韓国代表団は日本哨戒機のレーダー波の受信情報を公開するよう日本側に要求した」とのことです。

 韓国海軍関係者は広開土大王の射撃管制レーダー「STIR-180」はIバンドで、このときに稼働していたのはCバンドの「MW-08」だったといいます。海洋警察の三峰号のレーダーがIバンドを使っていたので、哨戒機がこれと勘違いした可能性があると見ています。さらに、STIR-180は出力が強いために哨戒機が探知すると「レーダースコープには水平な1つの列で現れる」が「しかし、一般Iバンドレーダーだと地震波のような高低がある電波信号を送るため、専門家がこれを見たとすれば誤解しにくい状況」だという予備役海軍大佐の見解を紹介しています。ここから記事は「日本がこれを知りつつも意図的に外交的な問題提起に出た可能性があるということだ」と結論しています。

 これが真相であった場合、事態はどんでん返しになり、日本は韓国に平謝りしなければならなくなります。こういう心配があるから、私は最初から慎重に進めるべきだと主張してきたのです。

 記事がいうような「意図的に外交的な問題提起」は日本政府は意図していないと思われます。防衛省の報告が徴用工判決で苛々していた自民党政治家に火をつけただけです。その前に防衛省の解析ミスがあります。哨戒機のクルーが勘違いして、その報告を海上自衛隊上層部が修正できず、防衛省に報告したのが、そもそもの間違いです。政界には徴用工判決で苛ついていた政治家が大勢いました。マッチの火が一気に周囲に燃え広がったというわけです。まあ、日本人が愚かだったということですが。

 韓国の見解には納得できる部分があります。

 広開土大王にはSTIR-180と同じ周波数帯(帯域)の電波を出す水上レーダー「SPS-95K」があります。軍事評論家の小川和久氏がSPS-95Kの電波だった可能性があると推測していることは先に紹介しました(関連記事はこちら)。しかし、この推測には疑問もあります。哨戒機は過去に確認している広開土大王の射撃管制レーダーの周波数の電波を探知したと言っています。すると、SPS-95KとSTIR-180が同じ周波数を使っていることになり、これはありそうにないことです。同じ周波数を近くで発信すれば、電波が干渉しあい、レーダーとして機能しないからです。もちろん周波数は変えられますから、いまはSPS-95KがかつてSTIR-180が使った周波数に変えられていたということも考えられないわけではありません。

 三峰号のレーダーはケルヴィン・ヒューズ社の「SHARPEYE」で、周波数はIバンド(8〜12GHz)とSバンド(2〜4GHz)です。STIR-180が用いる周波数も発信できます。なので、過去に広開土大王のSTIR-180が使っていた周波数と同じ周波数を使っていた可能性は否定できません。(IバンドはXバンドとも書かれます)

 なお、周波数はレーダーの「指紋」だといった主張が、この事件に関する報道で見られますが、指紋が不変なのに対して、周波数は可変だということを忘れた主張だと言わざるを得ません。

 韓国の見解には疑問もあります。

 三峰号のレーダーは常に360度回転してレーダーを照射します。レーダーが哨戒機に向いた瞬間に電波の強さが最大になり、反対側を向くと電波は届きません。つまり約3〜4秒ごとにレーダーの電波が届く形です。防衛省の説明では一定の強さの電波が数分単位で継続したといいます。だから、航海用レーダーではなく射撃管制レーダーだと防衛省は主張しています。防衛省が公開したビデオ映像を見ても、クルーの反応から電波照射が長く続いているらしいことが分かります。

 三峰号は航行と遭難船の捜索のためにSHARPEYEをずっと使っていたはずです。従って、哨戒機は接近する前からこの信号も受信していたはずです。それがなぜ、あの段階で急に強い信号となって連続的に発信され、哨戒機がそれを誤解したのかは、現段階では分かりません。

 これには哨戒機の電波解析機材の性能やクルーの能力に疑問も湧きます。さらに上層部でも誤りを訂正できなかったのなら、海上自衛隊の電波解析能力全体の質が問われることになります。

 まだ謎は残されていますが、真相は少しずつ明らかになっているように見えます。

 


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