シリア攻撃でロシアは静観の構えか

2018.4.16


 military.comによれば、米英仏との戦闘を行うか、同盟国を攻撃する彼らを傍観するかの厳しい選択に直面し、ウラジーミル・プーチン大統領(President Vladimir Putin)は平和的な道を選びました。

 慎重な対応はロシアの指導者のタフガイのイメージを弱めるかもしれませんが、それは彼がシリアで得たものを蝕まないし、母国での彼の権威を失墜させないでしょう。

 クレムリンはワシントンに、ロシアはシリアで隊員を危険にさらすいかなる攻撃も払いのけると警告しました。西欧諸国はシリアの空軍基地を攻撃した一年前にやったように、土曜日の攻撃の事前警告を与えてレッドラインを尊重しました。ロシアは当時下がって動かずに座っていましたが、今回は報復すると脅しました。

 そうした衝突はすぐに制御できなくなり、世界が辛うじて核戦争を脱した1962年のキューバ危機と比べて、極度に危険なシナリオです。

 「我々の同盟国とともに、我々はロシアが事前に警告を受けるようにしました」と、フランスのフローレンス・パーリィ国防大臣(Defense Minister Florence Parly)は言いました。アメリカが率いる空爆は4月7日のドーマ(Douma)での民間人に対する化学攻撃とされる出来事への対応でした。ロシアは専門家は化学剤の痕跡を発見しなかったと言いました。

 フランス政府高官は、エマニュエル・マクロン大統領(President Emmanuel Macron)はプーチン大統領に、金曜日の電話会談で攻撃について言わなかったものの、ある程度の衝突回避メカニズムが、すでにその時までに作動していて、両者は新しいフェーズがすぐに始まろうとしていることを知っていたと指摘しました。

 プーチン大統領は土曜日の攻撃を、シリアの人道主義の大災害を悪化させ、国際関係の全システムへの破壊的な影響がある侵略行為として非難しました。彼はワシントンとその同盟国を国際化学兵器攻撃監視機関の調査官がダマスカス近郊のドーマを訪問するのを待たずに攻撃したことで批判しました。

 ロシア軍はシリアの2つの基地の防空網はミサイル飛来を追跡したものの、それらと交戦しなかったと言いました。

 ロシアのソーシャルメディアは土曜日、プーチン大統領が同盟国を守れなかったのを非難する国粋主義者のコメントでザワつきました。しかし、国営テレビは、モスクワが嘘の化学攻撃と呼ぶものに基づいた行為で西欧諸国を非難するのに集中しました。

 クレムリンのきついメディア統制は、注意深く育てた強い指導者のイメージをプーチン大統領が少しでも重大な損害を受けるのを避けるのを助けるでしょう。

 事実、彼の慎重な態度は、ロシアを席巻した戦争の恐怖の中、彼の人気をさらに高めるかもしれません。最近、国営メディアは核戦争での行動と爆弾シェルターにどんな物資を持ち込むかのヒントを提供しています。

 ほとんどのロシア人はいま安堵し、プーチン大統領が瀬戸際から戻ったことに感謝しています。国営テレビはドナルド・トランプ大統領(President Donald Trump)の向こう見ずな行動とプーチン大統領がとった責任がある、政治家らしい態度を比べました。

 外交国防評議会議長で、ロシア外交政策・安全保障専門家協会のフィヨドール・ルキャノフ(Fyodor Lukyanov)は国営テレビで、反撃するとのモスクワの警告は明らかに国防総省に注目されず、攻撃はまったく慎重でした」と言いました。

 クレムリンは、世界を混沌に陥れ国際法を無視するという攻撃的な西欧諸国の物語を先へ進めるために、危機を利用するでしょう。

 ロシア政府当局者と議員たちは、危機をバグダッドが核兵器を開発しているとの主張に基づいて始め、疑いが虚偽と証明された、2003年のアメリカが率いたイラク侵攻と比較しました。

 国営テレビのコメンテーターは、トランプ大統領とイギリスのテレサ・メイ首相(Prime Minister Theresa May)は、母国での政治的問題から注意祖を逸らすために攻撃を始めたと主張しました。

 今のところ、プーチン大統領は対応を国連安保理の緊急会合を招集することに制限しました。

 軍事的処置は直ちには発表されませんでしたが、アメリカと同盟国への明確な警告において、ロシア軍参謀のセルゲイ・ルドスコイ上級大将(Col. Gen. Sergei Rudskoi)は、モスクワはシリアのソ連時代の防空資産を最新技術のS-300ミサイルで強化すると言いました。

 彼はモスクワはこれまでのところ、ダマスカスへミサイルを提供するなとの西欧諸国の要請を聞き入れているが、いまは再考するかも知れないと言いました。

 ルドスコイ上級大将は、モスクワは長距離ミサイルを特定しない他国へ提供するかも知れないと付け加え、イランに言及した可能性があります。イランは過去にS-300を提供されました。

 声明は明らかに西欧諸国を、バシャル・アサド大統領(President Bashar Assad)の戦場での成果を危険に晒しかねない、さらなるシリアへの攻撃から思い止まらせることを目的としていました。シリアでロシアの支援は多くの戦略的地域の支配を確保するのを助けました。


 この記事で驚くのは、ロシアが核戦争に発展する危険性も考えて、避難方法を放送していたことです。

 これには、①ロシア政府が危機に備えて国民に啓発活動を行った、②危機感を高めて国民を統制できるようにした、の2つの見方があります。

 ①では、ロシアの準備のレベルが分かります。北朝鮮がミサイルを発射しても、シェルターを造ろうとしない日本政府とは雲泥の差です。万一のことを考えての対処か、過剰な反応かは検討が必要ですが、戦争の準備という点では常識的な行動ともいえます。

 ②では、プーチン大統領が戦争の不安を利用して、国民を意のままに操ろうとしていると考えられます。危機管理は政府の責任ですが、やり方によっては国民の統制のために活用できます。

 マクロン大統領が述べたように、プーチン大統領が電話会談で状況を理解しているように見えたというのなら、②である可能性が高まります。もし、本当に本土への核攻撃を想定したのなら、態度はまったく違う、緊張感に満ちたものになったはずです。

 今回の攻撃はシリア政府の施設に限定されると、ロシアは見通していたと想像するほうが簡単です。

 複雑に絡み合ったシリアの状況は、単純に相手をやっつけるという視点からは考えられません。目標を達した上で、面子を保ち、互いに全面戦争に至る危険も避けるという点で、今回の攻撃目標の選択は合理的でした。

 気になるのは、一度、廃棄した化学兵器施設がまだ存在したということです。おそらく、バルザ研究開発センターはそういう施設だったと考えます。ヒムス・シンザル化学兵器貯蔵施設とヒムス・シンザル化学兵器掩蔽壕施設は、この周辺にはたくさんある軍事施設のどれかだと考えられます。ここを攻撃した理由は、ここから化学兵器を積んだ航空機が発着する空軍基地へ物資が運ばれているためなのでしょう。

 2015年にロシアがシリア国内を巡航ミサイルで攻撃したとき、26発発射した巡航ミサイルの内、4発が途中で墜落しています。米英仏のミサイルが全弾目標に命中したことは、ロシアにとって脅威でしょう。大半が撃墜されたという説明は、こういう武器の精度不足を目立たなくするためでしょうが、逆に目立ってしまっています。

 

 


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