北朝鮮水爆実験の初期レポート

2017.9.5


 38north.orgによる、9月3日の核実験についてのレポートを全訳しました。

 2017年9月3日、協定世界時3時30分頃(北朝鮮時間正午)、北朝鮮の核兵器研究所は最大で、長らく予測された6回目の核兵器実験を豊渓里核実験施設で行いました。アメリカ地質調査所(USGS)からの初期報告は最初、マグニチュード5.2と主張しましたが、素早く事象をマグニチュード6.3へとあげました。包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)と独立系のノルウェー研究機関(NORSAR)を含めた、その他の地震学機関はマグニチュードを5.8と判定しました。複数の予備的地震測定値は来る数日間に精査される必要があるものの、このより低い数字が正確であるとして、NORSARは試験機は核威力を約120キロトンのと算出しました(1945年に広島市に投下された爆弾の約8倍で、2016年9月9日に豊渓里で行われた5回目の試験の約6倍)。

 公表された北朝鮮当局の声明は「朝鮮民主主義人民共和国は9月3日午後12時に北朝鮮北部核実験場でICBM用の水爆爆弾の実験を成功させた…」と主張します。事件の前触れとして、朝鮮中央テレビ(KCTV)は試験の前日に、金正恩が大陸間弾道ミサイル(ICBM)火星14号用の二段式水素爆弾の弾頭と説明するものを視察するために「核兵器機関」を訪問する映像を掲載しました。その発表は、弾頭は数十キロトンから数百キロトンへ調整できる爆発力、可変的な核威力をもつように設計され、戦略目的に従って超強力なEMP攻撃のための高い高度ですら起爆できる、莫大な破壊力を持つ、多機能の熱核反応核弾頭だと主張しました。

 公表された写真は、金正恩が北朝鮮の記者が弾道ミサイル用の熱核弾頭と呼ぶものについてガイダンスを提供するのを意図的に示します。映像の中で示される装置は、そうした装置の特徴の多くを持ちます(2段階装置との主張に合致したピーナッツのような2つの球根状の端)。しかし、これはアメリカその他が映像をみることから到達する北朝鮮が望む結論であるため、それは実際の装置は幾分違った設計になりそうで、これが原寸模型に過ぎないということは注意される必要があります。

 もう一つの地震の出来事、マグニチュード4.6が正午の出来事の8.5分後に探知されたことに留意する必要があります。USGSが提案した試験後の「トンネル崩落」のような出来事の可能性がありますが、それは試験の上方の区域が、「煙突」として知られる、上方へ移動した洞窟を生じた試験用の洞窟が下方へ崩落したことで生じた「煙突崩落」であったかもしれません。もう一つの可能性は、これが大規模な試験(あるいは恐らく、可能性は小さいものの、何かの種類の小さな、まだ特定されていない爆発性の出来事)が誘発した、地すべりやその他の地球の運動であったということです。こうした試験後のこのマグニチュードは放射性ガスの放出の見込みを増し、CTBTOなどに探知されれば、より特定の装置のパラメーターを確立するのを助けるかもしれません。

 これまでに北朝鮮が行ったこの最大の地下核実験の観察できる地表への影響の限界を判断するために、我々は事件後の写真を手に入れるところです。

予測されること

 何らかの核分裂核融合(熱核反応)を含んでいるらしいものの、必ずしも2段階装置ではない、この最新の実験は、核兵器機関の声明が説明するとおり、彼らのコンピュータ上のモデルを洗練し、兵器設計を向上させ、エンジニアリングを立証する、疑いなくとても価値のある科学的、技術的データを北朝鮮に提供するでしょう。

 「実験の計測の結果は、総合的な爆発力と核分裂核融合の割合およびその他の物理的な仕様を含めた核弾頭の威力の仕様が完全に設計図に合致した2段階熱核兵器の質的なレベルを反映する」

 この最新の試験がICBMの使用可能な弾頭、あるいは装置だけだったかどうかに関わらず、試験の核威力は明らかに核兵器の核威力を向上する上での北朝鮮の進展を示します。この重要性は、個々の核弾頭が潜在的にいまや10倍の破壊力を持つために、その戦略軍(弾道ミサイルに責任を持つ)がもたらす脅威を劇的に向上する潜在力を持つことです。これはより大きな数の目標が現在のミサイルすべてで関与するのを許すため、より少ないミサイルが所定の目標を破壊するのを確実にするために使用されるのを可能にし、北朝鮮のICBMに脅かされる目標の設定を増やします。装置が可変的な核威力(数十〜数百キロトン)を持つとの主張が本当ならば、これはさもなくば最小限の抑止を実行する対価ドクトリンを必要とするよりは、より制限された、柔軟で、個別の目標の選択肢を想像する、より洗練された行使のドクトリンも暗示するでしょう。


 少し難しい言い回しもありますが、重要なのは、北朝鮮メディアが示した水爆の映像は模型である可能性が高いこと。爆発力が大きかったので、地表に痕跡が生じた可能性があることです。

 北朝鮮はよく模型を作ります。まだ存在していないものが、あたかも完成しているように示されるのは、過去に何度も見られました。そもそも、北朝鮮は核爆弾をこのサイズまで小型化できたかすら判然としていません。水爆は核爆弾を起爆用に使うので、さらに大きくなると考えるべきです。

 手品のタネと同じです。手品師が見せたコインはギミック(仕掛けのある小道具)かもしれないのです。水爆の模型を見せて、その直後に実験を行えば、映像で見た水爆を起爆させたと人々は思い込みます。

 トンネル崩落は北朝鮮の核実験場はもとは坑道であったことに関係します。爆発で坑道が崩落したのが一つの可能性です。煙突崩落は、核爆発で爆心地の上に空洞ができて、それが崩落するものです。

 いずれにしても、地表に変化が起きているかもしれません。私もかつて、爆発の影響が見られないかと、豊渓里実験場の衛星写真を精査したことがあります。これが確認できると、かなり大きな爆発があったことになります。推定される震源の深さと合わせて、爆発力を推定する一つの証拠となります。

 国際社会はそろそろ北朝鮮の核実験を阻止したくなっているはずです。そのための手段が、核実験場と核施設の爆撃です。地中貫通爆弾により坑道を塞ぎ、核施設を破壊して、これ以上の核爆弾の製造(本当に製造していればですが)を防ぎます。

 これに反発した北朝鮮が韓国国内に攻撃を行う可能性はあります。民間人がいる地域を含めて、榴弾砲やロケット砲などで攻撃します。しかし、これは韓国軍による、さらなる反撃を招きます。韓国軍はすでに敵の攻撃に応じて反撃する原則を捨てて、倍返しをすると決めています。

 この場合、日本に対する攻撃はほとんど心配されません。核爆弾がまだ完成していないとみられますし、通常爆薬で弾道ミサイルを撃つのは、あまり効率的とはいえません。もちろん、形だけでも攻撃するという判断はありえます。弾道ミサイル以外で日本を攻撃する手段は北朝鮮にはありません。特に海軍は沿岸しか守れないレベルです。

 しかし、これで朝鮮戦争が再発するのかというと、その可能性は低そうです。お互いのやり合いは激しいものになり、被害はかなり出ますが、地上部隊で侵攻する可能性は低いといえます。北朝鮮軍には侵攻能力がありませんし、韓国軍は中国軍が加勢した場合を考えざるを得ません。

 攻撃の後で、適当なところで休戦となるでしょう。この場合、38度線の中立地帯での休戦協定は難しいので、外国政府による仲裁が行われるかもしれません。スイスとスウェーデンがそれを申し出たところです。

 日本は当事者なのに大した役割は果たせないでしょう。北朝鮮がICBMをまた発射する準備をしているのに、迎撃態勢を変えるつもりはありません。また、日本領域に落ちなければ迎撃しないのです。北朝鮮もバカではないので、そんな軌道では撃ちません。また警報を鳴らして、対処した振りをするだけです。なにしろ、今頃になって自民党内から核シェルターを造る話が出たくらいですから、寝ぼけているのです。政治家がこんな意識で、この問題で大きな役割など果たせないでしょう。

 

 


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.