38northの分析に見る、火星12号迎撃の可能性

2017.8.12


 北朝鮮がグアムへ火星12号を4発同時発射すると発表し、自衛隊はPAC-3を中国・四国地方へ展開しました。改めて火星12号の性能を確認する必要が出てきたと考えます。38north.orgのラルフ・サベルズバーグ氏(RALPH SAVELSBERG)の解析から「ミサイル軌道シミュレーション(Missile Trajectory Simulations)」以降の部分を訳出しました。

 表についてはリンクしている原文から見てください。Table 1-5がそれです。

ミサイル軌道シミュレーション

 火星12号の性能を評価するために、私はその軌道のコンピュータシミュレーションを動かしました。パラメーターは入手できる写真とムスダンの基本的なパラメーターにもとづいて推定されました。ミサイルの直径は約1.5mでムスダンのそれと似ていますが、より長く、底部で少し広がります。弾頭を含めて、およその長さは15.7mです。ブースターの長さは約12.4m。私は単一の主要エンジンが基本的にムスダンで飛んだのと同じR-27で、さらに追加されたバーニヤ2基あると仮定します。これは流量と推力の若干の増加を導きます。

 推進体について、私は酸化剤として四酸化二窒素(N2O4)と燃料として非対称ジメチル・ヒドラジン(UDMH)を仮定し、特定の推力の換算値を燃料の有効性の尺度とします。これはR-27で使われた同じ推進剤の組み合わせです。ミサイルの長さは推進剤の量と推進剤の質量を見積もりを可能にし、表1のパラメーターを導きます。

 2016年6月のムスダンのロフト軌道のシミュレーションは、再突入体はなく、空の熱シールドだけで飛ばされたであろうことを示しました。

 弾道の計算モデルはムスダンの初期の解析で用いたのと同じです。これらのパラメーターで、クソン(Kusong)から発する打ち上げで、700kmの距離を超えるロフト軌道がシミュレートされました。初期方位は70度でした。シミュレーションには地球の自転を含みます。飛行の間に到達した最大高度は2,000kmで、総飛行時間は30分間に近く、どちらも報じられた値に近似します。シミュレートされた軌道は表3に、Google Earthは表4に示されます。

 このパフォーマンスを得るために、ブースターの構造質量はブースター総質量の7パーセントへ減らさなければなりませんでした。推進材タンクゃな長さは、この数字を減少させる傾向がありますが、低い値は推進材タンクの構造が異常に軽いことを意味します。たとえば、R-27の当量数は10パーセントに近いです。

 輸送するためにTELを使うことは、それが機動兵器であることを意味しますが、これらのパラメーターを踏まえると、ミサイルの機体が内部に推進材を持って移動、屹立するには非常に脆く、適していないと予測できます。これはミサイルが発射台上に垂直に置かれたあとに燃料を入れられなければならないことを意味します。

 酸化剤のN2O4も、安全に貯蔵し、使える非常に限らた温度範囲であり、機動システムとしてミサイルの有効性をさらに制限します。安全に扱うのがより簡単なために、抑制赤煙硝酸(IFRNA)は酸化剤の代替として使われますが、より低い限定された推進力となります。従って、火星12号がIFRNAを使うなら、飛行試験の間に飛ぶ軌道のために十分な推進力を得なかったでしょう。

 飛行試験のロフト軌道は弾道ミサイルの型に当てはまりません。しかし、ムスダンは2016年の成功した単一の飛行の間に、似たロフト軌道を400km以上の距離を飛び、1,000kmを超える高度に達しました。火星12号はより遠くに、高く飛びました。従って、それが距離を最大にする、最小限のエネルギー軌道を飛ばされるなら、ムスダンよりもより長い距離を移動できます。

 650kgのペイロード(熱シールドを含み、北朝鮮の核弾頭より軽いであろうR-27のペイロードと同じ)では、最大距離は3,700km以上とシミュレートされます(地球の自転を加味した方位70度で)(表5参照)。北朝鮮が十分に正確な誘導システムを持っていることを考えたら、これは火星12号が理論的に約3,400kmの距離、ムスダンが到達できない目標、グアムに届くことを認めます。

 ロフト軌道のシミュレーションで、再突入の間の速度は5.4km/sでピークに達します。これは最小エネルギー軌道のシミュレーションで到達した最大5.2km/sを僅かに早いだけです。従って、再突入体の新しい熱シールドを試すことはロフト軌道を選んだことのありそうな説明ではありません。この選択のよりありそうな説明は、ミサイルが日本のようなこの地域の国々の空域を侵犯することなく、最小エネルギー軌道で飛べないことです。速度はムスダンが達したピーク速度よりずっと早いものの、ICBMの速度により近いです。

予想される結果

 写真とコンピューターシミュレーションに基づくと、火星12号はムスダンより全長が長い軽量版とみられます。しかし、主エンジンは北朝鮮がすでに飛行試験をしたエンジンよりも、相当に非力です。

 ミサイルはムスダンよりも高いパフォーマンスを持っていて、グアムの遠くにまで送れるものの、それは軽く建造され、燃料と酸化剤の混合は機動の用途には適さないことを意味します。さらに、軽量に建造したにも関わらず、それはこのエンジンの推力に比べて重く、それはさらなる成長の余地が少ないことを意味します。

 新しいミサイルはICBMを目指し、熱シールドの実例として技術のいくつかの叩き台に役立つかもしれませんが、5月14日の火星12号の飛行テストは北朝鮮のICBM計画の大きな前進の証拠を示しませんでした。


 北朝鮮は「3356.7キロを1065秒で飛行して、グアムから30~40キロの海上に着弾」と声明を出しています。北朝鮮がいうグアム西方30〜40kmがどこかが分からないので、日本を通過するときの高度は幅を持って判断しなければなりません。

 北朝鮮が3356.7キロと手がかりをくれているので、場所はある程度は特定できます。北朝鮮の沿岸からこの距離を移動すると、大体グアム本島に行き着きます。北朝鮮は30~40キロ離れた場所に落とすと言っているので、北朝鮮の東海岸から内陸に30~40キロ入ったところから打ち上げるということになります。

 考えるために重要なのは表5です。

 北朝鮮がどこから発射するかはわからないものの、通過地点を指定していて、かつ韓国領空に入らないことをかんがえれば、発射位置から日本間での距離は、最短で600km、最長で900kmというところでしょう。

 通過は発射後、4分30秒から6分の間くらい。高度は300〜460km程度。

 問題はSM-3が迎撃できる最大高度と、目標の最大速度です。肝心のデータがないのです。米ミサイル防衛局は実験データを簡単にしか発表しません。判断は推測しかできません。

 迎撃実験では、SM-3は高度150〜160kmで標的ミサイルを迎撃しています。これが最大高度だとしたら、火星12号の迎撃は無理です。しかし、実験時の迎撃高度は最大高度ではありません。600kmまで行けるという研究者もいます。

 どれだけ早い目標に命中できるのかも、正確には分かりません。このシミュレーションでは、火星12号の速度は最大5.2km/sです。日本を通過するときは、もう少し遅いでしょうが、たとえば、SM-3が最大4.0km/sの目標にしか命中できないのなら、迎撃は無理だということになります。

 日本海にイージス艦を出して、高度が低いうちに迎撃するのなら可能性はあります。150km程度になるところで迎撃するなら、日本海上にいれば可能でしょう。しかし、これは日本領域にミサイルが落下するかを判断する前になるので、危険を回避するために撃ったという理由は成立せず、小野寺五典防衛相がいうように「存立危機事態」によって攻撃したことになります。これはまさに戦争に自分から突っ込んでいくということです。

 このことは、まったく議論されていません。自民党が集団的自衛権を行使できて、小躍りして喜んでいる様子もなく、野党が批判する気配もありません。

 なお、ペトリオットミサイルPAC-3の展開は、国民を安心させるためのショーですので、実際に動く可能性はありません。ミサイルが墜落すれば爆発しますし、北朝鮮が自爆させることもできます。PAC-3を発射する前にそうなるでしょう。破片が落下して被害が出る可能性もほとんどありません。

 

 


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.