中学校で銃剣道を教えるな

2017.3.13


 佐藤正久参議院議員は3月9日、参議院外交防衛委員会での自らの発言について、フェイスブックにこう書いています。

4.最後は武道科目について、文部科学省の田野瀬政務官に質問しました。昨年12月の中央教育審議会では明記されていた銃剣道が、中学校の新学習指導要領(案)では、体育科目に入っていませんでした。銃剣道は他の武道科目と比較しても、競技人口は決して少なくないのです。陸上自衛隊と航空自衛隊では必修科目となっており、佐藤も若いころには銃剣道に打ち込みました。そのため、学習指導要領に銃剣道を入れるよう求めた次第です。

 中学校の新学習指導要領に銃剣道を含めよと佐藤議員は文科省に求めています。

 銃剣道は剣道の一種のように思えますが、実際には歩兵の格闘技の一つで、銃の先端に取り付けたナイフ(銃剣)を槍のように使い、相手を殺すための技術です。もとは「銃剣術」とよばれていて、後に「銃剣術」と名称が変わりました。Wikipediaの説明では以下のようになっています。

戦前の銃剣道は、名称変更された後も技法面では銃剣術と変わらず、教育機関でも指導された。太平洋戦争(大東亜戦争)末期の昭和19年(1944年)ごろから主に男性を中心に行われた竹槍の訓練(女性は薙刀の訓練が主であった)も、その内容は槍術ではなく銃剣術であった。このため現在でも年配者には、戦前の銃剣道や竹槍訓練を「銃剣術」および「銃槍術」と呼ぶことがある。

 明らかに、銃剣道は戦争のための技術であり、それは文科省の『学制百年史』の記述からも、柔道や剣道のような「武道」とは一線が引かれていたことが分かります。

二 新教育の基本方針

 このように四つの指令は、軍国主義的、極端な国家主義的な思想と教育に直接、間接にかかわりのある教育者、科目、教科書、教材その他刊行物、施設、設備、行事等のいっさいを学校教育の場から排除したもので、占領政策のきびしさを示すとともに新しい教育の発足のための地盤の荒ごなしとなったのである。なお、このほか、前記四つの指令に関連する禁止または廃止の措置としては、終戦後まもなく八月二十四日に学徒軍事教育、戦時体練および学校防空関係の訓令はすべて廃止され、十月三日には銃剣道・教練を、十一月六日には武道が禁止された。(後略)

 GHQは銃剣道と教練(軍事訓練)を共に禁止し、後日、その他の武道を禁止しています。先に銃剣道を禁止したのは、それが軍国主義と直接結びついているとの判断です。銃剣道と競技化した武道が別物として理解されていることに注意してください。

 戦後は全日本銃剣道連盟が結成され、再興を追求していきます。初代会長には高潔な人柄で知られた今村均元陸軍大将が選ばれたものの、スポーツとして定着したとは言いがたいものがあります。旧陸軍を連想させる白い胴着が剣道と同じに変更されたのは平成10年になってからです。陸上自衛隊と航空自衛隊以外では、あまり盛んではありません。私は航空自衛隊では銃剣道は必要ないとも思っています。

 剣道などと同じように、武術を競技化することは可能です。競技として打ち込んでいる人もいるでしょう。

 しかし、銃剣に関しては、旧日本軍による悪しき歴史がつきまとい、それを払拭することが難しく、諸外国からの理解が得られにくいと考えられます。

 なにより心配なのは、銃剣道は日本軍が銃剣を用いて捕虜や民間人を突き殺していたことを想起させることです。これが違法な殺人とされて、大勢の兵士がBC級戦犯として裁かれました。そうやって殺害した捕虜の人肉を食べたという話もあり、今後長期間にわたって日本人のイメージを損ねることは避けられません。

 銃剣刺殺の真偽については色々と議論がありますが、元日本兵の証言の中にも多数登場するものであり、BC級戦犯の被告人が約5700人、約1000人が死刑判決を受けたという史実からしても、銃剣による殺人はかなりあったと考えられます(石垣島事件、カラゴン事件、アレクサンドラ病院事件など)。

 さらに、銃剣術は世界的にも希なスポーツでしかなく、オリンピック競技になる可能性もありません。

 米第82空挺師団の元隊員、ローガン・ナイ(Logan Nye)の小論を要約して紹介します。(該当ページはこちら

 最初のオリンピック大会が1896年に開催される前、国家や国際スポーツクラブが主催したオリンピック大会が数多くありました。銃剣術は1866年に国内オリンピック協会が開催し、1万人を招いたオリンピック・フェスティバルで取り上げられた程度です。銃剣術は今日、ニッチなスポーツであり、国際オリンピック委員会は一度も受け入れたことはありません。米海兵隊を含めた一部の軍隊は未だに銃剣術訓練を必要とします。

 学校で教える体育は、競技形態のものよりも、健康を増進するための運動や健康に関する知識の取得に主眼を置いて欲しいと私は考えています。なにより、競技には道具がつきもので、高額の支払いが必要です。ストレッチは道具をほとんど使わずに関節を柔らかくしたり、筋肉を弛緩させる効果があります。競技を上手に行う上でも、体の柔軟性は必要で、それなしにいくら体を動かしても、高いパフォーマンスは得られないものです。股関節が硬いと、高齢になってから転倒しやすく、股関節を骨折する場合があり、それがきっかけ手認知症が進行する場合があると聞きます。そういう事態にならないための知恵を学ぶことで、医療費の抑制にもつながるでしょう。

 

 

 


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