PKO五原則が崩れても派遣部隊が撤退しない理由

2016.8.23


 昨日、PKO法には派遣場所が派遣条件に合致しなくなった場合、撤退することになっていると説明しました。しかし、PKO五原則では、そういう場合、撤退することになっているはずと思う人がいるかも知れません。

 実は、撤退条件に関しては規定がありません。確かに、PKO五原則には次のように書かれています。

    1. 紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
    2. 当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊へのわが国の参加に同意していること。
    3. 当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
    4. 上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
    5. 武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。

 「撤収することが出来る」であって、「撤収しなければならない」ではないことに注意が必要です。

 PKO法で、この件について定義するのは第六条ですが、まず冒頭で、条件に合致する場合、国際平和協力業務を行うために閣議にはかれるとしています。閣議では議論するのではなく、単なる承認機関ですから、実際には政治判断、つまりは総理大臣の決定によることになります。総理大臣は外務省の意見を聞くのが通例ですから、外務省が計画して、総理に進めるということになります。

(実施計画)
第六条  内閣総理大臣は、我が国として国際平和協力業務を実施することが適当であると認める場合であって、次に掲げる同意があるとき(国際連合平和維持活動又は国際連携平和安全活動のために実施する国際平和協力業務であって第三条第五号トに掲げるもの若しくはこれに類するものとして同号ナの政令で定めるもの又は同号ラに掲げるものを実施する場合にあっては、同条第一号イからハまで又は第二号イからハまでに規定する同意及び第一号又は第二号に掲げる同意が当該活動及び当該業務が行われる期間を通じて安定的に維持されると認められるときに限り、人道的な国際救援活動のために実施する国際平和協力業務であって同条第五号ラに掲げるものを実施する場合にあっては、同条第三号に規定する同意及び第三号に掲げる同意が当該活動及び当該業務が行われる期間を通じて安定的に維持され、並びに当該活動が行われる地域の属する国が紛争当事者であるときは、紛争当事者の当該活動及び当該業務が行われることについての同意があり、かつ、その同意が当該活動及び当該業務が行われる期間を通じて安定的に維持されると認められるときに限る。)は、国際平和協力業務を実施すること及び実施計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。

 第六条の2で、実施計画に定める事柄を列挙していますが、撤退条件は載っていないので、計画作成時に定めなくてよいことになります。

 第六条の13で、実施計画の変更について定義しています。これはPKO五原則の第4項、基本条件が満たされなくなった場合の規定です。基本条件が崩れた場合、内閣総理大臣はそれを認めた場合に限り、実施計画の変更(業務の終了を含む)について閣議にはかると、消極的に認めているだけです。

13  内閣総理大臣は、実施計画の変更(第一号から第八号までに掲げる場合に行うべき国際平和協力業務に従事する者の海外への派遣の終了及び第九号から第十一号までに掲げる場合に行うべき当該各号に規定する業務の終了に係る変更を含む。次項において同じ。)をすることが必要であると認めるとき、又は適当であると認めるときは、実施計画の変更の案につき閣議の決定を求めなければならない。

一  国際連合平和維持活動(第三条第一号イに該当するものに限る。)のために実施する国際平和協力業務については、同号イに規定する合意若しくは同意若しくは第一項第一号に掲げる同意が存在しなくなったと認められる場合又は当該活動がいずれの紛争当事者にも偏ることなく実施されなくなったと認められる場合

二  国際連合平和維持活動(第三条第一号ロに該当するものに限る。)のために実施する国際平和協力業務については、同号ロに規定する同意若しくは第一項第一号に掲げる同意が存在しなくなったと認められる場合又は紛争当事者が当該活動が行われる地域に存在すると認められる場合

三  国際連合平和維持活動(第三条第一号ハに該当するものに限る。)のために実施する国際平和協力業務については、同号ハに規定する同意若しくは第一項第一号に掲げる同意が存在しなくなったと認められる場合、当該活動が特定の立場に偏ることなく実施されなくなったと認められる場合又は武力紛争の発生を防止することが困難となった場合

 国民に対する説明では、PKO五原則が崩れたら撤退するとなっていましたが、実際には業務の変更が認められているだけで、その中に業務の終了、つまり撤退が含まれているというだけです。撤退させなければならないという表現ではありません。

 しかも、「必要であると認めるとき、又は適当であると認めるとき」ですから、総理大臣が必要であっても、適当でないと認めることで、業務の変更を行わないことが可能なのです。

 つまり、内閣総理大臣がPKO五原則が崩れていないと言い張る限り、派遣は継続できるのです。罰則なんかありませんし、すべては政治判断で決めるということです。官僚や政治家の判断ミスで派遣部隊の隊員が死傷しても、誰も責任なんかとらないという体制になっています。

 なぜかPKO五原則に関して外務省が説明したページは削除されていて(該当ページはこちら)、いまはQ&Aのページに質問に答える形で説明しているだけです(該当ページはこちら)。

 では、誰がPKO五原則を守らせるのか?。これは日本国民が選挙で答えを出すしかありません。しかし、政治課題は常に複数あって、PKO問題だけで国民が候補者を選ぶことはあり得ません。つまり、実質的に、与党政治家の判断で、PKO活動が実施されるということです。

 やはり、PKO法は成立させるべきではありませんでした。うまい話にはのるなということです。残念ながら、これが日本の民主主義の現状です。

 


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