南スーダンに関する国連決議を読む

2016.8.22


 先に述べた南スーダンに関する国連安保理決議について書き足りていなかったので、決議がどう変化してきたかについて、もう少し検討を加えておきます。(関連記事はこちら

 基本となる決議は2011年の第1996号であることはすでに書きました。この時にまず確認されたのは、スーダンからの南スーダンの独立です。決議の冒頭に次のような記述があります。この訳文はすべて、国連広報センターが制作したものです。

安全保障理事会は、
独立国家としてのその宣言に基づく、2011年7月9日の南スーダン共和国設立を歓迎し、
南スーダン共和国の主権、独立、領土保全および国民的統一に対する安保理の強い支持を再確認し、
国の主体性と責任は、持続する平和を確立し紛争後の平和構築に対する優先度と戦略を特定する当局の主要な責任にとって、重要であることを確認した2011年2月11日の議長声明を想起し、

 「想起し」という表現は「ふまえて」と読み換えると分かりやすいでしょう。

 その後、情勢が変化する度に決議は増えていくのですが、前の決議で書いたことを再確認したい場合は、それも付記されていきます。たとえば、2012年の第2046号の冒頭には次のような記述があります。

安全保障理事会は、
スーダンおよび南スーダンの状況に関する安保理の従前の諸決議と諸声明、とりわけ決議1990(2011)、2024(2011)および2032(2011)並びに2012年3月6日と2012年4月12日の安保理議長声明を想起し、また包括的和平合意からの全ての未解決の問題の完全且つ緊急の進展に安保理が加えた優先権を更に想起し、

 しばらくの間、決議の主眼は南スーダンの独立でした。2013年の第2109号ではキール大統領中心の復興に関する表現があります。

安全保障理事会は、
安保理の従前の決議1996(2011)、2046(2012)および2057(2012)を想起し、
南スーダン共和国の主権、独立、領土保全および国民の統一に対する安保理の強い公約を再確認し、
南スーダン共和国政府による政府機関および国民立法議会の設置を歓迎し、また国民選挙法、政党法並びにエネルギーおよび鉱業法を含む、国内法令の制定を更に歓迎し、
公的財政管理および説明責任法、石油業法、および銀行法並びに政治的腐敗と闘うサルバ・キール大統領の計画に留意し、また政治的腐敗に対処するため更なる措置を講じる南スーダン共和国政府の必要性を強調し、

 ところが、この年に決議の内容は一変しました。2013年11月25日に採択された第2126号までは、南スーダンの独立に関する決議だったのが、12月24日に採択された第2132号では、南スーダン国内の治安状況に関する決議に姿が変わりました。

安全保障理事会は、
政治的紛争および国の政治的指導者により引き起こされたその後の暴力から生じている南スーダンにおける急速に悪化しつつある安全および人道的危機について深刻な警告と懸念を表明し、
2013年12月17日と12月20日の安保理報道声明、および従前の諸決議1996(2011)、2046(2012)、2057(2012)並びに2109(2013)を想起し、そして事務総長からの2013年12月23日の書簡(S/2013/758)を確認し、
南スーダン共和国の主権、独立、統一および領土保全に対する安保理の強い公約を再確認し、
数百の死者および犠牲者並びに数千の国内避難民をもたらした同国中で起きている戦闘および文民並びに具体的な民族や他の共同体を対象とした暴力を非難し、
武装集団および国の治安部隊を含む、あらゆる当事者による報告されている人権侵害および虐待を更に非難し、そして国際人道法および国際人権法の違反に対して責任を有する者は責任を問われなければならないことを強調し、

 この変化は12月14日に首都ジュバでクーデター事件が起きたことが原因です。Wikipediaの日本語版の「南スーダン」のページでは、この事件を「南スーダンクーデター未遂事件」と書いていますが、英語版では「Civil war(内戦)」と明記し、現在も継続中としていて、「South Sudanese Civil War(南スーダン内戦)」というページも設けています。いかにこの件について日本と海外の認識が違うかが痛感されます。

 2013年12月にすでに新しい武力紛争が発生していたのに、政府はこの情勢変化を無視しました。野党もそれを批判することを忘れました。

 以後、南スーダンに関する決議は内戦に集中します。国連の努力が実り、昨年8月にキール派とマシャル派の間で和平合意が結ばれたものの、現在、こうして和平が崩壊しかかっているのです。

 ここまで情勢が変化しているのに、日本政府の見解は決議第1996号の認識のままです。もともと、日本の外務省に柔軟な発想なんかできないのですが、こういう自分たちの判断ミスが露見しそうな場合は余計です。

 多分、政治家にも何も説明していないのでしょう。マスコミも、安倍首相の国際貢献をやるんだという強い決意を知っているので、足を引っ張るようなことは書きません。何も知らされない国民からは批判の声はあがりません。

 いつか運が尽きて、国民がすべてを悟った時には、万事遅いということです。

 残念ながら、現代日本にはこれを解消する力はありません。

 


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