やはり無意味だったオスプレイの地震支援

2016.7.31
追加 2016.8.1 8:40


 熊本地震でオスプレイが救難物資を運んだ件について、その妥当性を確認したところ、やはりオスプレイを投入したことには疑問がありました。

 地震で阿蘇大橋が崩落し、この道路は使えなくなったものの、陸上自衛隊のヘリコプター基地、高遊原分屯地がある熊本空港から南阿蘇村へは道路は通じていたのです。

 オスプレイが空輸を始めたのは4月18日で、23日まで活動しました。23日現在の道路状況が南阿蘇村のホームページに載っています(該当ページはこちら pdfファイルはこちら)。「2016年4月23日更新」とするデータには陸路が熊本空港から南阿蘇村へ通っていて、他にも2ルートで熊本市方面から南阿蘇村へ行けたことがはっきりと描かれていました。18日当時も、道路状況がこれとは著しく違っていたとは考えられません。あとで述べますが、熊本空港よりも西にある駐屯地からも、自衛隊の車輌が南阿蘇村へ入っていた可能性があり、熊本市内の道路が分断されて身動きが取れなかったとは考えられないからです。

図は右クリックで拡大できます。

 産経ニュースがこの件で、記者と中谷防衛大臣との質疑応答を書いています。(4月24日付け「左派系メディアの執拗なオスプレイ批判に温厚な中谷防衛相がイラッ「全力でやってますよ!」 記者会見詳報」)

 共同通信「3・11のような広範囲な大震災と違い、阿蘇地方、熊本地方という局地的な地震だ。そこでなぜオスプレイのような航続距離が特徴のものが必要なのか。航続距離は必要ない。非常に短い高遊原(分屯地)と南阿蘇地区の間をピストン輸送すればいいだけだ」

 中谷氏「当時は道路が寸断していました。また大渋滞でした。そういうところに物資を届ける手段としては、航空機、ヘリしかありません。従って自衛隊の持ち得るヘリは全て投入して実施しておりましたが、当時の状況は水や物資が届かないという状況にあります。現実にオスプレイは、中山間の地域においてもそれを運ぶだけの能力があるので、実施が可能であると私は思ったので、米側と調整したということです」

 実際には道路は寸断していなかった訳で、南阿蘇村役場自身がそれを認めているのです。渋滞が起きていた可能性はありますが、なにより物資を運ぶために自衛隊の車輌が到着しているのですから、渋滞で運べない状況でなかったことも明白です。

 また、中谷大臣は「中山間」と述べていますが、南阿蘇村は山裾にあり、中山間と呼ぶべき地形でもありません。

 毎日新聞がオスプレイが着陸する前に自衛隊が水を撒いて、しばしば問題となるオスプレイの強烈なダウンウォッシュが起きないように細工したという話も、記者の目撃談しかありませんでしたが、自衛隊が撮影したビデオ映像にその痕跡のようなものが見えることも分かりました。

 オスプレイが着陸した地面に車のタイヤの跡が多数見えます。着陸した場所は野球などをやるための多目的スポーツ施設です。普段はそこに車が入り込むことはできません。そこに明らかにオスプレイのものとは思えない幾重にも刻まれたタイヤ痕があります。

図は右クリックで拡大できます。

 車で水を撒いたとすれば、自衛隊の除染車を使うことが考えられます。化学兵器で汚染された地面を除染するための車で、散水車としても活用できます。その除染車らしいものが公園の駐車場ではなく、グラウンドの中に2台あることが確認できます。除染車の写真と比較しても、よく似ていると思われます。除染車は熊本市内の第8化学防護隊(北熊本駐屯地)から来たはずです。ここから南阿蘇村へのルートも通じていたことになります。

図は右クリックで拡大できます。
Wikipediaより引用 図は右クリックで拡大できます。

 下に第8化学防護隊がある北熊本駐屯地、ヘリコプター基地の高遊原分屯地、オスプレイが着陸した白水運動公園の位置関係を示します。北熊本駐屯地は高遊原分屯地よりも白水運動公園に遠いのに、そこの車両は現場に来ているのです。

Wikipediaより引用 図は右クリックで拡大できます。

 オスプレイが運搬した物資は5月30日の大臣臨時会見概要によれば、「米軍からの支援につきましては、MV-22オスプレイ、延べ12機による輸送支援を行いまして、食料品などの生活物資を約36トン、自衛隊員22名、車両8両、そして、避難所など2ヶ所で音楽演奏を実施しました。」 (会見のページはこちら

 74式特大型トラックなら7トン、73式大型トラックなら3.5トンを運べることから、36トンという物資をトラックでも運べたことは理解に難しくありません。ビデオ映像を見ると、はっきりと分からないものの、輸送トラックが4台、その他の形式不明の車輌が4、5台あることが分かります。おそらく3.5トンを運べるタイプと思われます。これは輸送トラックだけで2回半程度で運べる量の荷物です。

図は右クリックで拡大できます。

 産経新聞の映像ではさらに多くの除染車と輸送トラックなどが確認できます。除染車は4台に増えています。

 これだけの車輌を出せるのなら、最初から高遊原分屯地から陸路で運んだ方がよかったといえます。これだけの車両をここだけに数日間も張り付けにする意味があるとは思えません。

 やはり、オスプレイが使われたのは、評判が悪い航空機のイメージを改善し、護衛艦への着艦を既成事実化することにあったのでしょう。そのために効率は無視され、真実はねじ曲げて報じられたのです。それで納得してしまう国民だから、こういうことが起きるのです。将来、本当の有事が起きた時、これで戦えるのかは本当に疑問です。こんなやり方は自衛隊を弱くします。悪影響でしかありません。

 これらの状況を知った上で、それでも自衛隊を弁護する者は合理的思考を失った者です。

 


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.