南スーダンの日本人救出はどうなる

2016.7.13

 朝日新聞によれば、南スーダンの首都ジュバの治安が悪化していることを受け、政府は11日、国家安全保障会議(NSC)を開き、邦人の安全な退避に向けた対策を協議した。現地の国連平和維持活動(PKO)に派遣している陸上自衛隊による邦人の陸上輸送を行うことや、航空自衛隊のC130輸送機派遣を決めた。陸自がPKO協力法に基づき、国外退避のための陸上輸送にあたるのは初めてとなる。

 南スーダンには陸自が駐留するほか、国際協力機構(JICA)関係者ら約70人の日本人が滞在する。この人々をジュバの空港周辺に届けるため、陸自の防弾仕様の輸送用車両に乗せ、前後を機関銃を搭載した軽装甲機動車で挟み込むことを想定している。また政府は11日、C130輸送機の近国ジブチへの派遣を閣議決定。空自小牧基地(愛知県)から3機、ジブチ経由でジュバへ向かわせる計画がある。

 今回の陸上輸送はPKO協力法に規定されている任務だ。2013年のアルジェリア人質事件を受けて成立した改正自衛隊法でも陸上輸送は可能だが、今回は現地に自衛隊がいるため、PKO協力法で対応する。


 JICA関係者がいるホテルから陸自派遣部隊がいる空港までは、恐らく、数キロの距離で、車ですぐに行けると思われます。しかし、状況が不透明で流動的なため、安全が確認できず、移動できないのでしょう。空港にいる自衛隊も同じ理由で迎えに行けないのです。派遣されている施設部隊の主任務は戦闘ではありません。

 仮に、戦闘部隊を派遣しても、それで大丈夫とはいえません。武器が小火器に限定され、相手には戦車をはじめとする重火器があるからです。

 現在までに国連部隊に対して積極的、組織的な攻撃があった確証はありません。彼らの狙いは対立する派閥であり、国連は攻撃対象とみていないのでしょう。しかし、政府軍の一部が略奪を行ったとの報道があり、軍の統制に問題がある可能性があります。指揮から外れた部隊による攻撃がないとはいえません。

 戦闘部隊を送る場合、国連派遣団「UNMISS」と調整して、一時的にUNMISSに編入し、国連旗を掲げるのか、自衛隊として行動するのかという問題があります。後者は相手から見ると「日本軍」として映るので、より攻撃されやすくなる危険があります。

 特殊部隊なら戦闘がうまいとはいえません。1993年にソマリアのモガディシュで似たような状況がありました。特殊部隊の混成部隊が拘束した武装勢力の幹部を輸送中、敵に囲まれて立ち往生したのです。土地に不案内な米兵が道に迷い、ヘリコプターの支援を受けながらも、繰り返し攻撃を受けたために大きな損害を出したのです。自衛隊はヘリコプターを持っていけませんし、現地の軍隊には武装ヘリコプターがあります。飛行させるには国連や南スーダン政府との調整が必要で、南スーダン政府は現在、混乱の最中です。

 従って、最前の方法は「様子見」です。直ちに救出に行くのではなく、国連を通じて南スーダン政府の状況を把握し、安全を確認した上で、両軍に通行ルートを知らせた上でホテルに迎えに行くのです。

 救出の前にホテルが略奪されるなどして被害が出る場合もありますが、それはやむを得ない事態として甘受するしかありません。

 万事うまく行けば、一切の損害もなく、全員が帰国できます。こうした事態は、結果が常に天と地の間を行き来するもので、最善を尽くして天命を待つほかありません。

 それが戦争というものです。

 


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.