北朝鮮のエンジン試験レポート

2016.4.13


 38north.orgが先日報じられた北朝鮮の弾道ミサイルエンジン試験についてレポートを公表しました。要旨部分の全訳と本文の重要部分だけを紹介します。

要  旨

 北朝鮮の4月9日の大型液体燃料エンジンの試験は、平壌によってもたらされる発達する驚異を強調するだけでなく、今回を最後に、北朝鮮の大量破壊兵器計画が作り話であるとの主張を収めなければならない不穏な発展です。

 事実、北朝鮮が提示した試験は過去に予測されたよりも、より進んだ開発の状態において、ずっと高い能力を持っています。

 特に3つの重要な結論はこの試験に基づいてなされることができます。

 1.北朝鮮の試験は、R-27またはSS-N-6「サーブ(Serb)」として知られる古いソ連の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の推進ユニット一対を硬く結合したものに関係していました。北朝鮮は長らく、この技術を保有していたと考えられますが、これより前には確認されたことはありませんでした。このエンジンは、ケロシンと硝酸の北朝鮮の伝統的な混合物よりもずっと長いミサイルの射程を与える高エネルギー推進剤を使います。

 2.この技術を使って、北朝鮮の道路軌道型大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)、KN-08や改良型のKN-14は10,000〜13,000kmの距離を狙って核弾頭を運搬できるでしょう。この射程は、過去に予測されたものよりも長く、北朝鮮にニューヨークやワシントンを含めた米東海岸の目標に達することができます。

 3.現在の地上テスト計画が続き、成功すれば、北朝鮮のICBMの打ち上げ試験は僅か1年で始まることができるでしょう。さらに、平壌には2020年までにこの運搬システムを限定的な作戦能力において配備できるかもしれません。

本  文

 元記事には写真も掲載されているので、リンク先をご覧下さい。

 北朝鮮はソ連の潜水艦弾道ミサイルのエンジン「4D10」を2基組み合わせました。

 試験のクローズアップ写真を見ると、排気煙が2つ出ているのが確認されます。エンジンは燃料タンクの中に配置されているため、スペースが限られているので、効率のよいジンバル方式でエンジンを2〜3度旋回することはできず、バーニヤ方式が使われています。半透明の綺麗なエンジン排気は、黒い排気を出すケロシンが使われていないことを示し、非対称ジメチル・ヒドラジン(UDMH)と四酸化窒素が使われていることを示唆します。

 4D10エンジンはスカッドとノドンのエンジンよりも15%効率的です。500kgの弾頭だと、4D10を積んだKN-08ミサイルは1段機体にスカッドのエンジンを用いた9,500kmに比較して、11,500kmを越える射程を持つと推定されます。それは北朝鮮からニューヨークやワシントンに達するに十分です。2段式のKN-14ですら、軽い弾頭で米西海岸をカバーするに足る10,000km以上に達します。

 試験の唯一のよいニュースは、完全な1段機体を含まなかったということです。最新の評価では、北朝鮮が最初の新型ICBMの打ち上げ試験を行うには、さらに2〜3年の地上試験が必要でしたが、この成功で1年程度で行えるかもしれません。北朝鮮が来年早くにICBMの打ち上げ試験を行えるとしても、それは予定通りに機能しないでしょう。北朝鮮のミサイルは最初はほとんど機能しません。KN-08やKN-14に初期の活動ができるのは2023年よりも2021年となるかも知れません。


 北朝鮮は苦肉の策を用いたようです。同じエンジンを2基結合することで、より強力なエンジンを開発しているということです。これを一つのミサイルに収めるのが可能かどうかが気になります。これまで公表している模型と思われる機体に収まるかです。さらに、これを搭載する潜水艦も開発しなければなりません。 ただし、SLBMはロシアも固体燃料に切り替えていて、液体燃料は時代遅れです。腐食性の燃料を使うので、扱いにくい点が気になります。これまでKN-08は固体燃料式だと推測されてきました。

 10,000kmの射程を達成したら、潜水艦が遠くに行かなくてもアメリカを攻撃できることになります。日本海や黄海から撃てばよいのですから。従って、このニュースは大統領候補ドナルド・トランプの在日・在韓米軍不要論に致命的な打撃を与えます。北朝鮮が弾道ミサイルを撃つ前に、米軍の潜水艦が北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦を撃沈する必要がある以上、日本と韓国に米軍基地がないと困ることになるからです。もちろん、グアムから潜水艦を出すこともできますが、交替などに時間がかかり、現実的ではありません。原子力潜水艦は燃料補給は要りませんが、乗組員の食糧などは補給が必要です。

 3月、北朝鮮の潜水艦が行方不明になったことが米軍により確認されました。米軍は北朝鮮が潜水艦の捜索を始める前から動きを探知していたとのことです。このように北朝鮮の潜水艦は出港すると、米軍に追跡されているのです。日本と韓国も同じことをやっています。なので、SLBMを開発しても、米本土を脅かすことはできないかもしれません。

 しかし、今年になって、急にこの分野で開発が進み、発表が矢継ぎ早に行われていることが気になります。偶然の結果かも知れませんが、本当に成果があがっているのかが気になります。もちろん、開発はやっているのでしょうが、結果を誇張して発表することはできますから、必要な部品の開発に成功していない可能性もあります。

 そこには通常戦力に期待できないため、金正恩が核戦力でアメリカと対峙したいという意思が確認できます。もはや、彼にはそれしか手段がないのです。今後、ますますこの分野に力を入れることが予測されます。

 


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