北朝鮮に翻弄された自衛隊の体たらく

2016.2.8


 毎日新聞によれば、政府は7日の北朝鮮によるミサイル発射から3分後の午前9時34分に緊急情報ネットワーク「エムネット」と全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じて全国の地方自治体などに発射情報を配信した。米軍との連携に加えて自衛隊の独自情報に基づき、前回2012年12月の発射時より2分早めた。

 午前9時31分の発射は米軍の衛星が捉えた早期警戒情報(SEW)で防衛省が覚知。自衛隊のイージス艦や地上レーダーでもミサイルを捕捉し、ほぼ同時刻に首相官邸の危機管理センターに伝達された。中谷元防衛相は記者会見で「確実に発射されたか、防衛省独自の手段で確認した」と語った。

 過去のミサイル発射では09年4月には発射の誤発表があり、12年4月に発射確認が米韓両国より大幅に遅れた。今回は大きなミスはなく、発射情報の伝達の時間は前回12年12月の約5分から約3分に縮まった。

 ただ、航空自衛隊の地上配備型迎撃ミサイルのパトリオット(PAC3)などによる迎撃態勢では、PAC3の宮古島への配置完了が、予告期間に入る50分前の7日午前6時40分というギリギリのタイミングとなった。北朝鮮が発射予告期間開始を6日付で当初の8日から7日に前倒ししたためだ。

 宮古島のPAC3は7日午前9〜10時の到着を目指して海上自衛隊の輸送艦で広島・呉を出港していたが、予告期間変更にあわせて同3時半に前倒しし、到着後約3時間でPAC3配置を完了させるあわただしさとなった。自衛隊関係者は「これ以上早くはできなかった」と語るが、「危機の変化」に対応する際の課題も浮かんだ。

 時事通信によれば、北朝鮮が事実上の弾道ミサイルの発射予告期間を前倒しした6日、防衛省では連絡を受けた幹部らが次々と緊急で登庁した。

 前倒しは想定外だっただけに、幹部らは対応に追われた。

 ミサイルが通過する可能性がある沖縄・宮古島には7日午前中に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を積んだ海上自衛隊の輸送艦が到着し、PAC3が配備される予定だった。しかし、予告前倒しで同日午前7時30分までに配備を完了させる必要がある。海自は予定を早めて輸送艦を宮古島に到着させる。

 一方、迎撃の要のイージス艦は6日に佐世保基地(長崎県佐世保市)などから出港。予想される飛行ルートの東シナ海などに当初の計画より早く展開するとみられる。

 防衛省幹部は「北朝鮮の真意は分からないが、万全の態勢に向け、全力で任務に当たるしかない」と厳しい表情で話した。

 中谷元防衛相は6日、記者団に「7日午前7時半までに所要の態勢が整う予定だ。いかなる事態にも万全の態勢を取る」と強調した。 


 記事は一部を紹介しました。

 すでに指摘していますが、北朝鮮の発表に基づいて行動するやり方は最悪です。敵が意図をもって発表する情報にこちらの行動を合わせるわけですから、相手が予定を変更したら、対応はやり直しになります。

 打ち上げ準備が確認された時点で、南へ打ち上げると予測し、PAC-3を沖縄方面へ展開すればよかったのです。それを飛来するはずがない東京に真っ先に展開し、北朝鮮の発表を確認してから沖縄へ向かうのですから話になりません。当初、私は基地移転に反対している沖縄は守らないのかと皮肉を書きましたが、その真意は判断基準がおかしいことを指摘したかったのです。

 「北朝鮮が別の方向に打ち上げたら展開した意味がないとか、恥をかく」と考える人がいるかも知れません。しかし、それなら改めて別の部隊を展開すればよいだけです。PAC-3部隊は高射隊が24個もあるのですから。

 第一、東京に真っ先に配備すれば、北朝鮮が「日本は我がロケットに震え上がっている」と喜ばせるだけです。

 「6日、防衛省では連絡を受けた幹部らが次々と緊急で登庁」とは、有事のはずなのに、幹部たちは週末のお休み中だったようです。「いかなる事態にも万全の態勢を取る」との中谷防衛大臣の発言に偽りありです。今回はマスコミは「事実上の弾道ミサイル」という表現を一層強めて単に「ミサイル」とも表記しています。安倍首相も「実際は弾道ミサイルの発射を意味するものだ」と発言しています。弾道ミサイルが日本上空を飛んでいく。アメリカに向かう場合は日本が迎撃するとまで言っています。つまり、有事です。なのに、防衛省幹部は土曜日だから休んでいたというわけです。

 まったく理解できない話です。これは平時の感覚です。科学調査のために宇宙ロケットを打ち上げる時、万一の事故に備える態度でしかありません。

 北朝鮮が打ち上げを早めたのは、こうした自衛隊の動きを見て、少し脅かしてみせたのかもしれません。

 これが日本の安全保障体制の実態です。どうせ日本政府は今回も「対応に瑕疵はなかった」と声明するつもりでしょう。

 褒めていいのは、打ち上げをちゃんと探知したことだけです。2012年4月の失敗に懲りて、イージス艦を北上させたのかもしれません。

 


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