テポドン2号が日本に落ちない理由

2016.2.6


 テポドン2号の話は取り上げないつもりでしたが、マスコミの報道は相変わらずで、テポドン2号が日本を攻撃するために打ち上げられるかの発言も目にしています。

 そんなことはありません。日本に対する危険はゼロと言って差し支えないのです。マスコミも不勉強から大した情報は流していませんし、政府も通り一遍の情報しか流しません。

 大騒ぎをする前に、テポドンについて知ることが大事です。

 北朝鮮が日本をテポドン2号で奇襲攻撃する可能性はありません。国際機関に落下地点を通告した以上、その通りに打ち上げないと、船舶や航空機に落下させた機体が接触して大惨事になりかねません。その責任を追及されることは、北朝鮮にとって意味のないことです。逆に通告をしているのに航空機、船舶が落下地点を通行して事故に遭った場合は、北朝鮮は責任を回避できます。 そのために公表していることですから、そこで嘘をつく必要はないのです。

 テポドン2号の映像ばかり見ていると、ロケット全体が飛んでくるように見えるかもしれません。しかし、1段機体は日本から遙かに遠い、北朝鮮に近い場所に落下します。日本に関係があるのは2段機体から上か、3段機体から上の部分だけです。我々が考えなければならないのは、テポドン2号のごく一部だけです。

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 ではテポドン2号はどこを通るのでしょうか。

 北朝鮮が発表した機体の落下区域は図の通りです。オレンジ色が1段機体、紫色がフェアリング(衛星を格納する容器)、赤が2段機体です。なぜか3段機体の落下区域は今回も指定されていません。周回軌道に乗ってしまうのか、算出ができないのかのいずれかで、北朝鮮のロケット技術に対する疑問を湧き起こします。白枠は2012年12月の1段機体と2段機体の落下予想区域です。緑色の丸はその時の実際の落下点です。落下区域の位置は前回よりも少し手前ですから、今回は前回よりも飛距離を伸ばしていないか、より正確に軌道を計算できるようになった可能性が考えられますが、ほぼ同じコースと考えて差し支えありません。落下区域は日本の領土から著しく離れていることも分かります。

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 図は以前に当サイトで紹介した2012年4月の予想飛行コースをGoogle Erathのポリゴン機能を使って示したものです(過去の記事はこちら)。

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 テポドン2号は確かに石垣島付近の上空を通るものの、その時点で2段機体は燃焼を終えて、切り離されています。個体燃料ロケットの3段機体とペイロード(人口衛星とフェアリング)が石垣島上空を通過するのです。3段機体には2段機体に搭載されている有害な燃料、非対称ジメチルヒドラジンは搭載されていません。正常に飛んだ場合、石垣島などの島々には何の危険もありません。

 テポドン2号が正常に飛ばず、墜落した場合で、1段機体を切り離してから3段機体を切り離すまでに異常が起きた場合だけ、石垣島付近に落下する可能性があります。それよりも後に問題が起きた場合は、機体は石垣島を飛び越えてしまいます。

 2012年4月の打ち上げ失敗は、異常が起きたので自爆させた可能性がいわれており、テポドン2号には自爆装置があるとみられます。また、自爆させなくても、墜落を開始すればロケットは爆発するものですから、そのままの形で落ちてくる可能性はありません。高い高度で爆発したロケットは燃料、酸化剤はほとんどが燃え、燃えなかったものも四散し、気化するなどして、そのまま地面に落ちてくる可能性はほぼありません。部品の内、エンジン部分などの堅固な部品は落ちてきますが、小さな部品は高速で大気圏に落下するので燃え尽きます。部品が小さな島々に降り注ぐ可能性はまずありません。スペースシャトルが墜落した事故で、部品がすべて米本土内に落下したのに、何の事故も起きなかったことが、それを示しています。

 中国で1996年2月14日に、テポドン2号を同じ燃料、推進剤を使う長征3Bが墜落した事故は大惨事になりました。公式発表で死者6名、負傷者57名とされますが、実際には死者数百人との見方があります。この事故は打ち上げ後僅か9秒で機体が傾き、22秒後に墜落しており、ほとんど飛んでいません。つまり1段機体が燃焼中に燃料・酸化剤を満載し、低速、低高度の状態で爆発したのです。こういう場合は大きな被害が出るものです。テポドン2号の場合とは状況が大きく違うことに注意してください。

 問題はテポドン2号が日本に落下するかどうかではありません。そのロケット技術が進歩したかどうかに注目すべきです。それは日本にとって歓迎できないことです。テポドン2号で日本が攻撃できないとしても、ノドンなどの性能改善につながるからです。

 


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