駆けつけ警護が法的理由で中止に

2016.2.22


 毎日新聞によれば、政府は、国連平和維持活動(PKO)などに参加している自衛隊による「駆け付け警護」について、救援対象が武装集団に襲われている場合、原則として部隊を出動させない検討に入った。

 駆け付け警護は安全保障関連法で新たに盛り込まれた活動だが、同法に定めた自衛隊の武器使用基準は相手の殺傷を目的とした「危害射撃」が正当防衛・緊急避難の場合に限られているため、武装集団への対応は難しいと判断した。複数の政府関係者が明らかにした。

 政府は来月の法施行後、南スーダンのPKOに参加している自衛隊部隊の任務への追加を想定しているが、部隊の規模や装備は変更しない方針。他国軍隊や非政府組織(NGO)職員らが武装集団に襲われた場合に関するこれまでの検討で、「敵を見つけた瞬間に撃たなければならない場合がほとんど。抑制的な武器使用では対処できない」(政府関係者)との理由から対応は困難と判断した。原則として、治安維持を担当する他国の歩兵部隊などに任せる方向だ。

 このため、政府は自衛隊が駆け付け警護を実施するケースとして、NGO職員などが現地住民による暴動やデモに巻き込まれて身動きができなくなった場合などを想定。典型例として、2002年、東ティモールでのPKO活動中に大規模な暴動が発生し、現地在住の日本人から保護を求められた自衛隊が急行し、宿営地まで輸送した事案を念頭に置いている。


 記事は一部を紹介しました。

 訳が分からない話です。あれだけ安倍首相がやると言い、そういった時流に乗って、『海難1890』みたいな映画が制作され、首相が試写会に参加する出来事が起こりました。なのに「駆けつけ警護」ができない法律を作っていたなんて。

 確かに法律には武器使用が認められるのは「やむを得ない場合」と書いてありますが、それは駆けつけ警護を行うのに必要な範囲のことと解釈していました。それが違うことに法案作成の間に誰も気がつかなかったということになります。

 奇妙なのは、安倍首相が激怒するはずの事態なのに官僚が処分されないらしいこと。いつもの安倍首相なら、許すはずがない事態です。何か別の理由かも知れません。

 そこで考えられるのが、現在の自衛隊の装備、訓練が駆けつけ警護に対応していないことです。

 自衛隊に非致死性の装備は少なく、守るべき対象の近くで強力な火器を使うしかありません。守る相手を大量に殺傷する危険があります。当然、そういう訓練もしていません。

 さらに、自衛隊は米軍に比べると医療用の装備や制度が乏しく、隊員が負傷した場合な死亡率がかなり高いと予測されます。この対処は今のところ完了していません。装備が決まっていないのだから訓練もできていません。当然、保護対象の負傷にも十分な対処はできないでしょう。

 戦術の確立、訓練計画の立案と実施、装備の調達が南スーダンには間に合わないということかも知れません。これなら安倍首相は将来的に実施できるから問題はないと考えるはずです。

 初手から、私は駆けつけ警護は軍事的な理由で行えないと考えています。武装勢力が襲撃してきた件が通報され、自衛隊が駆けつけた時には武装勢力は施設内に浸入し、敵味方の区別がつかなくなっています。そこで発砲すれば保護対象を殺傷しかねません。できるとすれば、攻撃がほとんど終わったあとで、負傷者を収容したり、死体を回収することくらいです。「駆けつけ警護」は言葉だけの代物なのです。

 南スーダンで国連軍の基地に逃げ込んだ難民を武装勢力が殺すために浸入したことがありました。この時に反撃できたのは、そこが国連軍の基地で、もともと兵士がいたからです。NGOを守るなら常駐警護しかありません。できないことをやると言うのだから、私はこの法案には反対でした。

 どちらにしても、駆けつけ警護を合法化するには、もう一度、国会に提案しなければなりません。安倍政権は、これも数で乗り切るのでしょうか?。

 


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