本物の弾道ミサイル対処から乖離する防衛省

2016.2.2


 中谷元防衛大臣が1月29日に防衛省で行った記者会見から北朝鮮のロケット発射に関する問答を紹介します(記者会見全文はこちら)。

Q:北朝鮮がミサイル発射の準備をしていると報じられていますが、防衛省として把握していることと、対応というか措置を教えてください。

A:北朝鮮に関する動向につきましては、防衛省としては、重大な関心を持ちまして情報の収集・分析に努めているところでございます。個々の具体的な情報の内容につきましては、事柄の性格上、またわが国の手の内を明らかにすることにもなりますので、コメントは差し控えさせていただきたいと思います。その上で申し上げますと、近年、北朝鮮のミサイル発射につきましては、任意のタイミング、そして任意の地点で複数の弾道ミサイルを発射しておりまして、奇襲的攻撃能力を誇示してきていると。また、先般の4回目の核実験は、その前の3回と異なって、事前に外務省声明等による実施の示唆がなかったと。そして、過去、核実験を実施した際は、必ず弾道ミサイル発射を行っておりまして、これまでの北朝鮮の行動を分析致しますと、今後北朝鮮が、事前の予告なく弾道ミサイル発射を含む何らかの挑発行動に出る可能性というのは否定できない状況にあると分析を致しております。今後とも情報の収集・分析に努めまして、防衛省と致しましては、米軍等また関係機関と緊密に連携をとりまして、今後の対応に万全の態勢で臨みたいと考えております。

Q:「何らかの挑発行動に出る可能性がある」ということですが、破壊措置命令を含めたそういう対応をとられるという検討状況をお願いします。

A:防衛省と致しましては、北朝鮮の行動等に際しましては、これまでも関係省庁や米軍等と連携しまして、必要な対応・措置をとってきているところでありますが、事柄の性格上、自衛隊の具体的な対応等につきまして、明らかにするということにつきましては、わが方の手の内を明らかにすることにもなりますので、コメントは控えさせていただきたいと思っております。また、引き続き、情報収集・分析に努めまして、米軍等また関係省庁とも緊密に連携をとりまして、今後の対応につきましては、万全の態勢で臨みたいと考えております。

Q:これまでの破壊措置命令ですとか、そのための準備命令を発令する際は、公表するケースもあれば公表しないケースもあるかと思うのですけれども、今回どのような観点を考慮また重視して、公表するかしないかというものを判断するのか、その点の大臣のお考えをお聞かせ願えますでしょうか。

A:今回は、北朝鮮の動向等におきましては北朝鮮の方から何ら言及もされておりません。また、今回の対応等におきましては、防衛省・自衛隊としてはいかなる事態が発生しようとも、国民の生命・財産を守るという必要がございますので、こういった対応等につきまして、わが方の手の内を明らかにすることにもなりますので、自衛隊の具体的な対応等につきましては、明らかにするということを差し控えさせていただいているということでございます。

Q:一方で、ちゃんと自衛隊として準備しているということを明らかにすることで、国民に対する安心感とかを与えるというような考え方もあるのではないかという考えもあると思うのですけれども、その点を含めても、公表する、しないというのは、今の時点で方針というか考え方はありますでしょうか。

A:自衛隊としましては、様々な対応をとるわけでありますが、あらかじめ手の内を明らかにすることによって、いろいろな支障が出てくる場合がございます。したがいまして、わが国の手の内を明らかにすることなく、いかなる事態においても対応できるようにという観点で具体的な対応をとっておりますので、そういった観点で一つ一つ明らかにするということは事柄の性質上、控えさせて頂いているということでございます。

Q:アメリカの当局が、北朝鮮がミサイルを発射する時期について、2〜3週間以内の可能性があるのではないかという見方を示しました。これについて受け止めをお願いします。

A:報道の内容は承知を致しております。北朝鮮の動向につきましては、防衛省と致しましては、重大な関心を持って情報収集・分析をしているところでございまして、個々の具体的な情報の内容等につきましては、やはり事柄の性質上、こういった米側の考え方や発言につきましても、コメントは差し控えさせていただきたいと思います。

Q:今、大臣の認識として、ミサイル発射の可能性は高まっているという認識なのでしょうか。

A:防衛省としては、常時、北朝鮮の動向におきましては、重大な関心を持って情報の収集・分析をしているわけでございますが、その内容につきましては、先程お話しましたけれども事柄の性質上、コメントは控えさせて頂きたいと思います。

Q:各種報道が相次ぐ中で、国民も関心を持っていて、不安に感じる方もいらっしゃると思うのですけれども、そういう国民はどういったことに注意して対応していけばよろしいのでしょうか。

A:こういった動向や情報等につきましては、非常に機微な部分もございますので、事柄の性質上、控えさせて頂いているわけでありますが、防衛省と致しましては、やはり国民の生命・財産をしっかりと守っていくという観点で、関係省庁及び米国等と連携しまして、必要な対応は行っているところでございます。具体的な対応等につきましては、わが方の手の内を明らかにするということになるため、お答えは差し控えさせていただいておりますが、防衛省としては、不断に国民の生命・財産をしっかり守っていくという観点で対応しているということでございます。

Q:冒頭、大臣の方から「任意の地点で」というようなお話があったと思うのですが、ミサイルの件でですね。東倉里以外の場所から発射の可能性もあると見ているということですか。

A:これまでの北朝鮮のミサイルの経緯を見てみますと、まず、1981年に射程300kmのスカッドBを入手しました。1995年に射程1,300kmのノドンを配備し、1998年にテポドン1を発射し、1,600km飛翔しました。そして、2009年にはテポドン2を発射し、3,000kmを飛翔させております。そして、2012年12月にテポドン2派生型の発射をし、現在、射程約10,000kmに及ぶ可能性があるということです。その後、弾道ミサイルにつきましては累次発射をいたしておりまして、この最近の状況を見ますと、そのテポドンを除く北朝鮮の弾道ミサイルは、発射台付きの車両を使用して発射することによって、発射兆候の事前の把握を困難にするとともに、弾道ミサイルの残存性を向上させているということで、2014年以降、ノドンを含む弾道ミサイルを多数発射しておりますけれども、まさに任意の地点、任意の時期に複数の弾道ミサイルを発射しておりまして、そういう意味でミサイル対応が能力的に向上しているというふうに分析しております。

Q:以前に潜水艦からの弾道ミサイル、精度が高まっているという指摘する声もあるというふうにお話をしていましたが、その可能性も否定しないということですね。

A:昨年5月に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を実施したと、これは北朝鮮が発表しておりますが、今月の8日にもこのSLBMの発射試験とみられる映像を公表しておりまして、多様な打撃手段を新たに推進しているとみられます。この映像の真偽等につきましては、現在分析をしているということでございます。

Q:潜水艦からの弾道ミサイルの発射の可能性についても、注視をしているということでよろしいでしょうか。

A:これにつきましては、北朝鮮自身が発射を実施したと発表しておりますし、また映像等も公開しておりますので、わが方と致しましても、そういった事態にも対応できるような備え・対応等は実施しているということです。

Q:確認なのですけれども、今回の北朝鮮のミサイル発射は、大臣として奇襲的なものである可能性が高いというふうにご覧になっていますか。

A:これは過去の経緯・動向等を言ったわけでございまして、防衛省と致しましては、あらゆる事態に対応すべく、常に警戒監視、また情報収集等を行っているということであります。


 「わが国の手の内を明らかにしないために詳細は控える」との文言が繰り返しみられます。この種の表現がある部分8カ所を赤字で表示しています。

 手を内を見せないとはどういう意味なのかが私には分かりません。イージス艦を出し、迎撃ミサイルPAC-3を防衛省に配置したと公表した時点で、手の内は見せていると思います。北朝鮮は困惑しているでしょう。東京に向けてロケットを打つ気はないのに、日本が真っ先に東京に迎撃ミサイルを配置したからです。

 おそらく、懲りもせずにまた日本海にもイージス艦を出しているはずです。自衛隊はPAC-3を東京に配置したのだから、その前方にイージス艦を配置する必要があると考えているはずです。またもや少ない資源を無駄に配置しているはずです。海上自衛隊にイージス艦は6隻しかありません。日本海に1隻、沖縄に2隻と2012年4月の時と同じ配置なら、全イージス艦の半数を投入していることになります。今回も概ねこれと同じ配置でしょう。もったいぶって秘密にするほどのことでもありません。手の内はすっかり見せています。日本が馬鹿な態勢を敷いて満足していることは北朝鮮に筒抜けです。

 大体、少々のことを公表したところで、日本の迎撃能力に変化はありません。墜落するテポドン2号しか迎撃できないのですし、これは迎撃ミサイルの設計者も想定していない使い方です。現状、迎撃ミサイルは普通に飛ぶロケットにさえ、命中させるのは難しいのです。ロケットが墜落すれば、爆発して四散します。2012年4月に起きたテポドン2号の墜落では、1段機体を切り離し後、2段機体と3段機体、ペイロード部分がつながったまま爆発し(自爆ともされます)、数十もの破片となって落下しました。日本が迎撃するとすれば、こういう破片に向かって撃つことになるでしょう。当たるはずがありません。

 防衛省では「通告なしに複数のミサイルを撃つ」ことを「奇襲的攻撃能力」と表現するようです。弾道ミサイルによる攻撃はこれが当たり前で、むしろ通告して「単発のミサイルを撃つ」ことの方が考えにくいのです。それが増加するとかしないとかに言及すること自体がおかしいのです。陸上戦闘とは違うのですから。

  海外の紛争地との緊張感の違いを痛感させられます。猛烈な台風が日本に接近している時、こんな対処をするでしょうか。トンネルのコンクリート壁が崩れそうだと分かった時、我々はどうするのでしょうか?。我々が実際に遭遇し得る災害への対処と比べると、現在防衛省が行っているミサイル対処はあまりにも現実から乖離しています。

 海外の紛争に関する報道記事を読むときと、日本の防衛に関する記事を読むときとで、意識が大きく変わることが増えています。後者は真面目に読んでも仕方がないという感想しか起こりません。


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