訂正:核実験場に大きな徴候はなし

2016.1.9
修正 2016.1.10 12:00


 監視サイト「38north.org」によれば、北朝鮮が行った水素爆弾の実験は北朝鮮の核開発能力に疑いを起こさせました。

実験の場所

 2016年の実験の場所については未だいくらかの不確実性が存在します。たとえば、アメリカ地質研究所は震央を北緯41.305 東経129.049、北側の坑道入口から約4,000メートルと報告しました。2016年1月6日の衛星画像はその地域に地滑り、落石、その他の徴候を示しません。韓国気象庁は震央が北緯41.30東経129.09で、北の坑道入口から約2,100メートルだったと報告しました。2016年1月6日のこの地域の衛星写真には地滑り、落石の兆候がありません。事象の最新分析に基づくと、実験装置が北側坑道に置かれたことはほぼ確実です。

 韓国筋は実験装置が補助的なトンネルに置かれたと報告しました。それは北朝鮮の過去2回の実験がこの地域で行われ、それらの枝道のトンネルが疑いなく破壊されたことを意味します。

衛星映像の分析

 2016年1月1日と1月6日の豊渓里(Punggye-ri)核実験場(kmzファイルはこちら)の商用衛星写真(起爆から40分後に撮影)は地滑り、落石、車両の交通、器具を積んだトラック、ケーブルのリールのような徴候について分析されました。2009年と2013年の実験に使われた北側の坑道入口の映像分析は、実験の前に車両の交通が増えたのを示すだけです。さらに、若干の鉱山のトロッコが駐車場北側にあるトンネルの外に集められたように見えます。

 これらのトロッコは試験装置と観測機材を持ち込むために使われ、その後に損傷したり出入りを妨げるのを防ぐために引き出されたかも知れません。

実験場本部と管制センターで活動が増加

 映像は実験場の南約5.8kmにある豊渓里核実験場本部(kmzファイルはこちら)と霊岩洞(Yongam-dong)の管制センターとの間で活動のレベルが増えるのを示しました。

 壁に囲まれた施設の中庭には雪がありません。

 車両数台があり、本館の建物の屋根は建物が暖められていたことを示します。

 大抵は、あったとしても、この場所には僅かな車両しかありません。

 さらに、警備本部、検問所、それらを本部と司令施設をつなぐ道路は除雪され、整備された兆候を示し、通常よりも交通のレベルが高いことを示します。

核実験場の他の場所では活動なし

 2013年の核実験の前段階と異なり、実験に関連した兆候がほとんどないように見えました。

 これは以下の結果かも知れません。

    1. 曇天や夜間の最中、あるいは数ヶ月ゆっくりと、準備を隠蔽するため北朝鮮が慎重に活動した。
    2. 商用衛星写真が起爆に先立つ数週間、定期的な取材ができないこと。
    3. 1月1日と実験直後に入手できた写真は、いずれも実験の直前、直後の段階における活動を何も示しません。

坑道入口の活動

 南側坑道入口

 メイン支援区域と2009年から建設中の南側入口間の道路上の小グループの人々、オートバイを除くと、大きな活動はありません。2015年12月にみられたもののと同じです。

 主要支援区域

 両方の写真に約1ダースの人々が主要支援区域の中庭を歩いているのが見えます。

 しかし、2016年1月6日の写真には、車両、トレーラーの小グループが北側の中庭にあります。

 西側坑道入口

 西側坑道入口にはどちらの写真でも活動はなく、2015年12月に見られたのと変わりありません。


 記事は一部を紹介しました。記事には衛星写真もありますので、合わせてご覧下さい。

 昨日書いた記事に重要な部分で誤訳がありましたので、訂正をします。

【誤】

 2016年1月1日と1月6日の豊渓里(Punggye-ri)核実験場(kmzファイルはこちら)の商用衛星写真(起爆から40分後に撮影)は地滑り、落石、車両の交通、器具を積んだトラック、ケーブルのリールのような徴候を示すと分析されました。

【正】

 2016年1月1日と1月6日の豊渓里(Punggye-ri)核実験場(kmzファイルはこちら)の商用衛星写真(起爆から40分後に撮影)は地滑り、落石、車両の交通、器具を積んだトラック、ケーブルのリールのような徴候について分析されました。

 TBSニュースバードが今朝、実験直後の写真では地滑りや落石はないと報じていました。私は「そんなに爆発の規模は小さかったのか」と驚きました。しかし、地滑りや落石がなかったと書かれたのはアメリカと韓国が探知した震央がある場所に関してで、そこが本当の震央かどうかは分からないというのがレポートの主旨です。周辺を探せば、どこかに徴候が見つかる可能性まで否定しておらず、震央については特定できていないということです。TBSニュースバードは爆発の痕跡がないと結論しており、これは話をはしょりすぎであり、視聴者を誤解させる恐れがあります。

 1月6日の写真で、北側坑道の入口付近にあるクレーターが広がっているように見えると書きましたが、これは光線の加減か何かでそう見えただけのようです。北側坑道では車両が増加し、トロッコが見える、軽微な徴候があったということです。

 レポートにあった誤記の類については、38north.orgに連絡したところ、直ちに修正してくれました。現在は正しい表記になっています。

 今回、38north.orgが事前に実験を予知できなかったのは、クリスマス休暇で商用衛星写真が利用できない時に準備が進んだためのようです。多分、休暇明け以降に若干の準備を観測したものの、すぐではないと判断し、観測を続けていたのでしょう。

 情報を修正した上でまとめます。

 今回の実験は、爆発の規模がこれまでの原子爆弾とされる実験と大差ないこと。実験前の準備がこれまでの実験よりも少ないことの二点が特徴です。原子爆弾よりも難しいはずの水素爆弾の実験の準備がごく簡単に終わってしまったのは疑問です。もちろん、商用衛星が撮影できない時に集中して準備をした可能性はあるとレポートは指摘しています。これはその通りだと思います。以前に商用衛星が発射された直後のテポドン2号の写真を撮影したことがあり、専門家は、北朝鮮が衛星が上空を通る時刻に合わせて打ち上げた可能性を指摘しました。こんな写真が撮影されることは滅多にないからです。北朝鮮が常に偵察衛星を気にしながら作業した可能性は否定できません。

 しかし、それでも水素爆弾の実験がこんな簡単に行われていることに驚かざるを得ません。使い古しの坑道を実験のために再利用しているだけです。実験の模様を撮影したビデオ映像もありません。実験映像は海外に核装備したことを宣伝するために不可欠のはずです。テポドン2号の打ち上げもそうですが、打ち上げ施設には「首領様」など幹部がお出ましになる建物を除いて、最小限度の装備しかありません。これだけでよく高度な科学実験をやるものだと呆れます。

 現在までに核実験で探知されるはずの放射性物質や希ガスは探知されていません。確証はないものの、北朝鮮が水素爆弾の実験を行った可能性はかなり低いといえます。過去の原子爆弾の実験も本当だったかが疑問視されています。

 北朝鮮は8日に、タイミングよく潜水艦から発射する弾道ミサイルSLBMの実験映像も公開しました。しかし、この映像は打ち上げを撮影したものですが、ミサイルが空高く飛んで行く映像は過去に使われた映像と韓国軍から指摘されています。つまり、ミサイルは打ち上げ直後に落下した可能性が高いのです。水爆実験とSLBMを関係させることで、外国を水爆で攻撃する能力があるように見せかける欺瞞作戦をやっている可能性が高いといえます。下の映像に過去の実験との比較映像がありますが、ミサイル先端の形状が変化しているのに気がつきます。

 より小型の必要があるSLBMに小型化が難しい水爆を搭載できるかは疑問です。原爆の搭載自体が疑問なのですから、さらに重い水爆を乗せられるとは思えません。韓国軍はSLBM自体の開発は3〜4年で可能と見積もっていますが、水爆搭載SLBMを完成させるには相当な努力が必要でしょう。問題は、北朝鮮の核開発疑惑は極めて疑わしいものの、日本が集団的自衛権を行使しようがしまいが、北朝鮮が止めようとしないことです。日本としてはできるだけ適切な対処を逐一行っていく必要があるのですが、日本政府の対応には疑問がかなりあります。

 参考のために実験場の衛星写真を掲載しておきます。離れたところに東坑道もありますが、ずっと使われていません。

画像は右クリックで拡大できます。

 日本、アメリカ、韓国が探知した震央を地図上で見ると、以下のとおりです。日本だけ遙か実験場から約35kmも北にあります。坑道がここまで続いているとは考えにくく、正しい震央の位置とは思えません。お陰で前回の記事で間違いを書く羽目になりました。このように震央は誤差が大きく出るものなのです。震央付近に地崩れなどがないから徴候がないとは結論できません。

画像は右クリックで拡大できます。

 


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