北朝鮮挑発はどう展開するのか?

2015.8.22


 朝鮮日報から北朝鮮と韓国のその後の展開を見てみると、全面的な戦争にはなりそうにないことが分かります。関連する事項を並べてみました。

  1. 砲撃は同日午後3時53分と4時12分の2回。1回目の砲撃では14.5ミリの高射砲1発が、2回目の砲撃では直接照準火器の76.2ミリ砲数発が発射されたと推定。
  2. 1回目の砲撃の砲弾は山中に落ちたため確認できていない。2回目の砲撃では砲弾は南北軍事境界線の南側700メートルの韓国側非武装地帯(DMZ)に落下。 DMZ内の落下地点は北朝鮮向け宣伝放送に使う拡声器から数キロ離れた地点のため、韓国軍は北朝鮮が拡声器を狙って砲撃したものではないと分析。
  3. 韓国軍は現場の師団長の判断で軍事境界線の北側500メートルの地点に向け応射した。北朝鮮軍の砲弾が落下した地点から軍事境界線を挟んで反対側に当たる北朝鮮軍の見張り所付近に砲弾数十発を発射した。1回目の砲弾が発射された地点は把握できたが、2回目の発射地点は把握できてい ないため、発射地点を攻撃するのではなく、警告射撃をした
  4. 漣川郡は20日午後5時10分ごろ、同郡中面、横山里と三串里の住民に対し避難命令を出した。坡州市郡内面の非武装地帯(DMZ)にある大城洞村と民統線地域の住民にも避難準備命令が出された。仁川広域市の江華島民130人にも避難命令が出た。
  5. 韓国統一部関係者は20日、南北経済協力事業である北朝鮮・開城工業団地の韓国企業関係者らの出入りについて、北朝鮮軍の砲撃事件の影響は特にみられず、正常に終了したと明らかにした。
  6. 北朝鮮は20日夜、金正恩労働党第1書記の主催で開かれた朝鮮労働党中央軍事委員会非常拡大会議で「敵の反作用を鎮圧するための、地域軍事作戦を指揮する指揮官らが任命され、該当する戦線へ急派された」ことを明らかにした。韓国軍当局では、北朝鮮が明示した「指揮官ら」とは、偵察総局所属の特殊戦要員か暴風軍団の特殊部隊、第11軍団の要員と推測。
  7. 金正恩は朝鮮労働党中央軍事委員会非常拡大会議で「21日午後5時(韓国時間で午後5時30分)を期し、休戦ライン付近の前線部隊は完全武装した戦時状態に移行し、前線には準戦時状態を宣布する」という内容の最高司令官命令を下した。前日朝鮮人民軍総参謀部が発表した「(韓国軍が)48時間以内に拡声器による宣伝放送を中止しない場合、強力な軍事行動に突入する」という方針も同時に承認した。
  8. 統一部当局者は21日、開城工業団地入居企業の運営と直接関わりがある関係者のみ、日帰りで開城団地への出入りを認める方針を明らかにした。
  9. 韓国軍は対北朝鮮情報監視態勢「ウォッチコン(ウォッチ・コンディション)」のレベルを現在の3段階から2段階へと高めた。
  10. 韓国軍当局は北朝鮮が実際に追加挑発を行った場合、米国側に空母打撃群の急派を要請する案も検討中。
  11. 横須賀基地の米第7艦隊に現在空母がいないため、米軍の空母打撃群の韓半島(朝鮮半島)派遣を要請する案を検討中。
  12. 在韓米軍は、今回の北朝鮮の挑発と関連し、第2師団などに非常態勢を命じる。
  13. 北朝鮮が挑発活動を行った場合、韓米が2013年に署名した「共同局地挑発作戦計画」の適用を米と協議する。

 記事は一部を紹介しました。

 北朝鮮が撃った銃弾はどうやら数発だけで、韓国軍はすでに何十発も応射しています。北朝鮮の砲撃は「拡声器から数キロ離れた地点」に「数発」撃たれただけです。本当に宣伝放送を止めさせる目的だったのかも分かりません。拡声器を破壊するのなら、もっと多くの砲弾が必要です。北朝鮮としてはギリギリの寸止めをやってみせたのかも知れません。どの砲弾も特別な人以外は立ち入れないDMZ内に落下しており、韓国国内には何の影響も及ぼしていません。それに対して韓国軍は数十発の応射を行いました。すでに韓国軍優勢の状況が見えます。

 それに対して、北朝鮮はDMZ全域で「完全武装した戦時状態に移行し、前線には準戦時状態を宣布する」という、よく分からない命令を出しました。戦時状態なのに準戦時状態という矛盾する命令です。要するに、戦闘の準備をして、別名あるまで待機しろということです。

 本来、こんなことは前線全体で戦闘を展開するような話ではありません。このままDMZ全域で戦闘が始まるといった状況ではありません。適当に小競り合いで終息させるべき問題です。

 本当に侵攻するのなら、前進した部隊へ届けるべき補給品の移動が北朝鮮側で始まります。貨物を積んだトラックがDMZへ出入りする姿が観測され、それはすでに報道されているはずです。命令が出ているのが前線部隊だけなら、それは単なる警戒態勢であり、侵攻作戦は存在しないことになります。北朝鮮は攻めるのではなく、守りに入っています。

 開城工業団地は多少制限が課されただけで、正常に稼働しています。北朝鮮は韓国の協力で、ここでまだ稼ぐつもりです。

 韓国政府は米空母の出動と米軍と合同での対処をちらつかせています。日本のように、自衛隊を差し出しておけば米軍が自動的に助けに来てくれると思うのではなく、実際に協力を求めて動いています。後方に有力な友人がいることを見せつけ、相手に躊躇させる戦略です。北朝鮮には味方はいません。

 北朝鮮の狙いが拡声器の破壊なら、特殊部隊が接近し、爆薬を仕掛けて破壊する作戦がありそうです。拡声器の正確な場所が分かりませんが、避難命令が出た三串里の西方にある高地だろうと思われます。ここは川がC字形に曲がっていて、麓には横山里(kmzファイルはこちら)があり、高地の上に防衛施設があります。韓国政府が避難命令を出したのは、現場に近い本当に僅かな地域だけです。ここは板門店から30km程度の場所です。かなり堅固な防衛施設があるようなので、うまく接近できるかは疑問です。

 今度は大量に砲撃するのではないかとの予測も可能です。しかし、これはより大規模な反撃を招き、何倍もの砲弾が撃ち返される危険を覚悟しなければなりません。この場合、特殊部隊が照準のために拡声器の近くに侵入し、砲撃を誘導するかも知れません。

 もともと、この騒動は北朝鮮が仕掛けた爆薬で韓国軍兵士が負傷したことから始まっています。抗議のために拡声器による宣伝放送を再開し、それに北朝鮮が応酬したわけです。そういう意味では、北朝鮮はすでに一定の成果を収めているわけで、これ以上の行動は必要がないと考える可能性があります。

 今日の5時30分が刻限です。何が起きるかは分かりませんが、この予想の範囲内だろうと考えます。

 


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