首相がネット番組で安保法案を擁護

2015.7.7


 インターネット番組【CafeSta特番】で「安倍さんがわかりやすくお答えします!平和安全法制のナゼ?ナニ?ドウシテ?」が放送されました。安倍晋三首相が出演して、安保法制について答えるという内容です。

 相変わらず安倍首相の説明は訳が分かりませんでした。インターネット番組にまで出演するのは焦っている証拠なのでしょう。問答の中からいくつかを取り上げ、解説します。

 

 

PKO活動と集団的自衛権を混同

安倍首相は「PKO法案が提出された時も戦争法案だ、憲法違反だと批判された。しかし今ではカンボジアからも感謝されている」と主張します。

 安倍首相はカンボジアと南スーダンでのPKO活動と集団的自衛権を関連させ、同一のものだと錯覚させようとしています。国連の活動の一環であるPKOと、国連が介入する前にのみ行われる集団的自衛権では話がまったく変わります。集団的自衛権は憲法が禁じる「国権の発動たる戦争」「武力による威嚇又は武力の行使」にあたる可能性が非常に高くなります。参加することによるリスクについても何の説明もありません。カンボジアPKOではポルポト派の攻撃で文民警察官(高田晴行警部補)が死亡しており、南スーダンPKOでは国連部隊は内戦に巻き込まれ、現在も危険な状態が続いています。

「戦争をしたいと思っていない」という発言は無意味

安倍首相は「戦争をしたいと思っている人は自民党に誰もいない」「戦争法案だという批判はあたっていない」と主張します。

 しかし、同じことを戦争をしている国の指導者たちも言うのが普通です。これは北朝鮮の金正恩も同じでしょう。「我が国にも非があったかも知れないが、ここは戦う」と言いながら戦争をした指導者は史上存在しないでしょう。どの国も平和を望んでいると言いながら戦争をするものなのです。

北朝鮮のミサイルを防ぐために米軍を守る

安倍首相は次のように主張します。北朝鮮は数百発の弾道ミサイルを保持している。ノドンは日本を標的としたミサイルである。北朝鮮はノドンに載せる核兵器の開発をしている。これを撃ち落とすために、日本はミサイル防衛システムを持っている。このシステムで北朝鮮のミサイルを撃ち落とすためにはアメリカの衛星(早期警戒衛星)が探知する必要がある。ミサイルを撃墜するために日本はイージス艦を出すが、アメリカも出す。ミサイルを発射する場所も攻撃しないとミサイルを止められないが、日本にはその能力がないのでアメリカにやってもらうことになる。日米のイージス艦の協力を容易にすることも法律の目的の一つ。

 完全に意味不明です。ここでは安倍首相は明言していませんが、安保法制で米国のイージス艦を日本が防衛できるようにするつもりなのです。これは非現実的な状況でしかありません。ミサイルを探知するために展開するイージス艦の距離は離れており、互いにミサイルで防衛し合うような距離ではありません。イージス艦も水平線の向こうにいる艦船は防衛できません。

 ミサイル防衛システムでノドンの攻撃を防げるかはやってみないと分かりません。北朝鮮はテポドンやシルクなどの短距離ミサイルの試験はやりますが、ノドンについてはほとんどやっていません。ノドンの打ち上げが観測されたのは1993年だけで、2006年にテポドン2号を打ち上げたのと同時に発射したのがノドンかスカッドだろうといわれているだけです。ノドンが日本攻撃の主力なら、定期的に演習を兼ねた試験発射をするはずです。

 アメリカは現在でも早期警戒衛星の情報はくれます。日本だけでなく韓国にも提供しています。仮に、アメリカが日本にだけ情報を与えず、日本が北朝鮮のミサイル攻撃を受けたら、アメリカは他の友好国から「だらしない」と批判を受けることでしょう。

 ノドンは移動するランチャーから打ち上げられます。準備時間は1時間程度です。その間にランチャーの場所を探知することはほぼ不可能です。発射後はランチャーは直ちに移動します。米軍にだってノドンは阻止できません。

 日本を北朝鮮のミサイルから守るのは個別的自衛権の範疇です。米軍にもできないことを期待して集団的自衛権に展開する意味が分かりません。

 安倍首相は北朝鮮の脅威に関して拉致問題も少し取り上げました。拉致問題の解決には北朝鮮が滅亡するのが一番です。その為の戦略は練らずに外務省が交渉しているだけなのは理解ができません。

安保法案は万一のためのもの

 安倍首相は国籍不明機による領空侵犯が近年7倍に増えていると主張します。日本をとりまく環境は厳しくなっている。こうしたことは日本だけでは防げない。そのために国際社会と連携していく。外交努力をしていく。お互いに武力による威嚇はしてはいけない。紛争は話し合いで解決していく。この法律はいざというときのためのもの。作っておけば安心。抑止力になる。町内会の連携が強いところには泥棒が入らない。戸締まりをちゃんとする。ソマリアでは海賊が横行したが、海賊対処法で日本だけでなく他の国の船も自衛隊が守れるようにした。200件を越えた海賊が今年はゼロになった。これが抑止力。

 領空侵犯は空軍が平時に行う通常の業務です。パイロットの技量確保のために、定期的に相手の領空付近まで飛ぶものなのです。電子偵察のために行う場合もありますが、領空侵犯だけで外国の脅威が増したと考えるなら、それは神経過敏というものです。領空侵犯ごときで集団的自衛権が必要な訳がありません。ソマリアの海賊の話も同様です。海賊ごとき軽度の脅威に対して、集団的自衛権のような国家同士の戦争も含んだ負荷の高い脅威を語ることはまったく不適切です。関連する事柄がまるで違うのですから、一口に語ろうとするのは誤りです。

 不思議なことに、安倍首相は中国に関して一言も言いませんでした。週刊誌の報道では、彼は非公式の場で安保法案は対中国のためだと明言しているようです。何とか国民を騙して安保法案を通そうとしているとしか思えません。口当たりのよい話をかき集めて、信じる人が現れるのを待っているのでしょう。

 


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