中国が人口島に自走砲を配備した理由

2015.6.20


 時事通信によれば、米国防当局者は18日、中国が南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島のジョンソン南(中国名・赤瓜・kmzファイルはこちら )礁に造成した人工島に、自走砲を持ち込んだと改めて指摘しました。

 当局者は自走砲について、人工衛星や航空機では確認できなくなっており、何らかの手段で隠匿されている恐れもあると述べました。

 当局者によれば、自走砲は対地攻撃用。米国を含む各国の艦船・航空機を狙うことはできないが、ジョンソン南礁近くの岩礁を実効支配するベトナムにとっては、脅威になる可能性があるといいます。

 一方、シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、中国が埋め立て作業を進める南沙諸島のミスチーフ(美済・kmzファイルはこちら)礁とスービ(渚碧・kmzファイルはこちら)礁の衛星画像を公開しました。今月10日と同5日にそれぞれ撮影された画像は、しゅんせつ船など多数の船舶を用いた大規模な埋め立ての様子を捉えています。

 中国は埋め立てを「近く完了する」と表明したが、CSISは、ミスチーフとスービでは依然活発な埋め立て工事が進展中だと分析しています。


 5月30日に同じ内容の記事を掲載しましたが、この時は人口島を防衛するための武器としては不向きだと書きました。しかし、記事中にあるベトナムが実効支配する景宏島(kmzファイルはこちら)は自走砲の射程内で、18〜20kmの距離にあります。この島はベトナムが埋め立て、入り江も造っています。北には同じくベトナムが実効支配する鴻庥島(kmzファイルはこちら)がありますが、こちらは近い中国の人口島から30km以上の距離にあり、砲撃が可能かどうかは疑問です。

 景宏島に対する警戒のためなら自走砲の配備は理解できるところですが、軍事基地がない島を警戒するための兵器としては強力すぎます。埋め立て地を含めても南北東西に500m程度で、住宅地は320×120m程度しかありません。ここを150mm級の榴弾砲で攻撃すれば、全滅が想定できるほどの破壊が考えられます。ベトナムが自走砲配備にどんな反応をするのかが気になります。

 ここまでの展開を見ると、中国の人口島はベトナムに対するものと考えられます。 自民党からは集団的自衛権の解釈変更の根拠が中国の人口島にあるとの声がありますが、中国とベトナムの領有権争いに首を突っ込むと言っているのと同じです。南沙諸島は中国とベトナムだけでなく、他の周辺国も互いに領有を主張しているほど複雑な場所なのです。

 


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