海外メディアに見る人質事件へのズレ

2015.2.3
追加 同日 19:30


 海外のメディアが日本人人質事件をどう報じたのかについて、少し調べてみました。すると、日本が中東に約束した25億ドルの支援は人道支援だけでなく、軍事支援が含まれることが分かりました。

 日本政府は25億ドルの中東への支援は国際機関を通じた人道支援だと説明しています。しかし、トルコの「Turkish Press」によれば、1月18日付けの記事には明確に「人道支援および軍事支援」と書いてあります。関係する部分を引用します。

CAIRO – Japanese Prime Minister Shinzo Abe announced Saturday that his country will provide humanitarian and military aid to Middle East countries to the tune of $2.5 billion in the coming phase.
カイロ発 日本の安倍晋三首相は土曜日、日本は人道および軍事支援を、来る段階に25億ドル規模で中東の国々へ提供すると言いました。

"This aid will be directed to improve infrastructure and military fields," Abe remarked during his speech at the Egyptian-Japanese Business Forum, which was held Saturday in Egyptian capital Cairo.
「この支援はインフラと軍事分野を向上させることに向けられます」と、安倍首相はエジプト=日本ビジネスフォーラムでの演説中に述べました。フォーラムは土曜日にエジプトの首都、カイロで開催されました。

 「military fields」という言葉は、写真のキャプション中にも書かれていて、全部で3回記事に登場します。

 軍事支援が国際機関を通じて行われることはあり得ません。この発言が事件の引き金になった可能性は十分にあります。犯人は20日に最初の脅迫ビデオを公開しました。18日に決定がなされて、準備をして20日に公開したとする推測が可能です。野党はこれについて追求する必要があるでしょう。

 外務省はエジプトでの発言について、公式サイトで次のように書いています。(関連ページはこちら

ここで私は再び、お約束します。日本政府は、中東全体を視野に入れ、人道支援、インフラ整備など非軍事の分野で、25億ドル相当の支援を、新たに実施いたします。

 これがどうして、「人道および軍事支援」となるのかが検証されるべきです。安倍首相が本当に、ここに書いてあるとおりに話したのかが問題です。

 他に、言葉の問題で、海外に間違った認識が広まる危険が生まれています。

 military.comは、次のように後藤さんの死亡を確認した直後の安倍首相の発言を報じました。

Japan will not be cowed by such threats, Abe said.
日本はそのような脅しに屈しないと、安倍首相は言いました。

"The terrorists are criminals," he said. "We are determined to pursue them and hold them accountable."
「テロリストは犯罪者です」と彼は言いました。「我々は彼らを追求し、責任を取らせると決意します」。

Abe said Japan will persevere in providing humanitarian aid to countries fighting Islamic State extremists, saying that bowing to terrorist intimidation would prevent Japan from providing medical assistance and other aid it views as necessary for helping to restore stability in the region.
 安倍首相は、日本はイスラム国の過激派と戦う国々に人道支援を提供し続けると言い、この地域の安定を取り戻すのを助けることが必要とみる医療支援とその他の支援を、日本が提供することを妨げるテロリストの脅迫をくじくと言いました。

 英語にすると、どうもかなり強い決意で、軍事分野での追求も含まれるように感じられます。こうした表現上の問題で、日本政府の意図が

 もっと強烈なのはThe New York Timesの東京支局長マーティン・ファクラー(Martin Fackler)が国際版に書いた記事です。

 記事のタイトルがかなり強烈です。

Departing From Japan's Pacifism, Shinzo Abe Vows Revenge for Killings
日本の平和主義を離れ、安倍晋三は殺人に復讐を誓う

 記事は安倍首相がテロリストに対価を支払わせると言ったことに対する、日本国内の反対意見を中心に解説しています。

 安倍総理が直ちに軍事的手段で報復攻撃を意図しているとは、日本人なら誰も考えません。しかし、この記事を読むと、安倍首相が軍事主義へ大きく転換し、イスラム国との対決を望んでいるように思えます。

 イスラム教で言う復讐は、自分のコミュニティを守るための義務とされています。身近な人が害を被った時、加害者を追求し、罰を与えるのがイスラム教の復讐です。つまり、今回は日本人2人が殺害されたのですから、その為の報復はイスラム国のメンバーを殺すという意味です。

 安倍首相の発言は明らかに不用意であり、無用の対立を生む危険をはらんでいます。彼はそのことを理解しているのでしょうか?。

 


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